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◆怖い体験 備忘録╱第6話 夢との奇妙な符合

高校1年生の時、父が一念発起して家を建てたため、それまで住んでいた公営住宅を引っ越すことになりました。
生まれて初めて自分の部屋を持てるようになることもさることながら、数々の怪奇現象に悩まされたあの家を離れられることが結構嬉しかったことを覚えています。

わたしの父は比較的道楽者で、釣りと狩猟を趣味としていました。
わたしが物心ついた時には、父の友人や兄弟分(?)、釣りや狩猟の弟子を自称する人たちがひっきりなしに出入りしており、狭い公営住宅の居間はいつも人いきれが充満しているような状態でした。
わたしの実の兄弟は妹一人なのですが、実感としては兄弟が7~8人ほどいるような感覚です。

その、父の趣味繋がりのお友だちの一人が、新居で開かれた引っ越し祝いの席で「いやあ、引っ越してくれて本当に良かったなぁ」とポツリ呟いたので、わたしは大人ぶって「まぁ兄ちゃんたちみんなが入るには、前の家は狭すぎたよね」と答えました。
すると、その兄ちゃん…仮にT兄ちゃんとしましょうか、が、わたしの顔をじっと見つめ、
「お姉って…幽霊とか信じる方?」
と聞いてきたのです。

この頃のわたしが、合理主義を型に入れて固めたような父親の友人たちに、自分の奇妙な体験など話したか、どうか。
ともあれ、前の家で遭った数々の恐怖体験を脳裏に思い浮かべながら、わたしはコクコクと顎を引きました。
T兄ちゃんは「そっかー、信じる方かー、じゃあ話そうかな」とやけに神妙な面持ちで言い、ゆっくりと話し始めます。

まぁ、もう引っ越した後だからいいんだけどさ。
他の兄ちゃんたちには、バカにされるから絶対言うなよ。あいつら、そういうの絶対信じなさそうだから。
あのな、黙ってたけど、おれ、少しだけ見えるって言うか、感じる方なんだよ。
…それで、あの、前の家さ。お父ちゃんの机と、テレビの間に空間があったろ?
あの、何回模様替えしても、何でだかいっつも空いてた、あの空間…
あそこな、多分、何かが居たか、何かの通り道だったと思う…
おれ、一度もあの空間の側に座ったことなかったろ?
気持ち悪くて、そばに行けなかったんだ。

ただ、この話だけを聞くと、何の根拠もないT兄ちゃんの思い込みや勘違いだと思ったかも知れません。
しかし、この話を聞いた刹那、わたしの中で長年疑問だったある事象がひとつ、脳裏に思い起こされたのです。

それは、子供の頃から繰り返し見る、奇妙な夢でした。
夢の中でわたしはいつも、小学校1・2年生の子供になっています。
傍らには妹がいて、わたしたちはしゃがみこんで、真剣に何かを話している。
わたしは妹に「これ、ちょっと持ってて」と言います。
妹は「それ、どうするの?」と答えます。
そしてわたしは夢の中で、いつもさも当然の如く、こう答えるのです。

「魔除けのおふだだからね。入ってこないように貼るの」

そうしてわたしと妹は、ただひたすらに何枚も何枚も壁に魔除けのおふだを貼り続ける。
ただ、それだけの夢。

そう、お察しの通り、夢の中でわたしと妹が懸命におふだを貼り続けていた場所こそが、T兄ちゃんが気味悪がっている場所だったのです。

T兄ちゃんにこの話をすると、
「マジかー。じゃあ、お姉は夢を使って悪いもんが入ってこないように食い止めてたのかもな」と、あっけらかんと言いました。

果たして、そんなことができるものなのか。
そして、この夢と兄ちゃんが感じた気味悪さの奇妙な符合はただの偶然なのか?
あの場所には本当に何かが居たのか?
人ならざるものの通り道だったのか?

あの家にはその後2度と足を踏み入れたことがないので、今となっては何ひとつわかりません。

夢。
それは不思議なもの。
人がなぜ夢を見るのかという問題は、現代でも謎が多く、正確なことはほとんど解明されていないのだそうです。

もしかすると、たまには違う世界からのメッセージが含まれていたりしたら面白い。
皆さんも、そう思いませんか?

それでは、このたびはこの辺で。


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