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被爆の十字架、海上の神社 広島ライヴ旅行2017その1

2017.06.27

 広島へ行くのは二度目だった。二度とも目的はライヴで、交通手段は飛行機で、出勤して半日働き午後から休みをとっての出発だった。新幹線のほうが楽なのだが、昼に東京を出発するとなると開始時刻に間に合わない。空港から市街地までの移動時間を加えても、飛行機のほうがはやい。

 まる一日休みをとればいいのだけれど、いくらライヴのための休暇取得に理解がある職場でも、平日(しかもこのときは週のど真ん中の火曜日と水曜日)に連休を申請する勇気が小心者の私にはなく、おそるおそる一日半の休みをもらった、という事情まで共通している。

 ただし旅程とお目あてのミュージシャンは一度目とは違う。このときは、河村隆一のNo Mic, One Speaker Church Tour という、教会で行われるノーマイクのライヴを聴きに行った。

 バンドのライヴに行くのが好きで、ときには遠方で行われる公演にも「遠征」する。大学生のとき、当時夢中だったGLAYのチケットが取れず、場所を問わずとにかく入手できた土地の公演に行くしかない、という状況でライヴのために旅行する楽しさを知ってしまい、以来、「そこしかチケットが取れない」以外の理由でもちょくちょく遠征するようになった。

 そしてこの年、私はLUNA SEAにまいっていた。詳しくはここに書いたので興味があったら読んでいただきたいが、私は十四歳の頃からもうかれこれ四半世紀近くLUNA SEAを聴いていて、「好き」の熱量にもそのときどきで波がある。ライヴのあとは盛り上がるものの、普段はわりあい落ち着いたテンションで淡々としているつもりだった。それが2017年はおかしかった。出会ってハマったばかりのような熱狂が戻ってきてしまい、自分でも自分を持て余していた。
 それまであまり積極的に触れずにきた各メンバーのソロ・ワークにも手を出し、春先には前々から興味があった隆ちゃんのノーマイク教会ライヴにも初めて行った。素晴らしかった。伴奏をアコースティック・ギターから葉山拓亮さんの電子ピアノに変えてツアーの第二弾をやる、と知ったとき、取れるならどこでもいいから行きたい、と思った。教会ライヴは席数が少ない(大きい会場で350席ぐらい)ので、チケットが取りにくいのだ。

 で、気がついたら広島のチケットを取っていた。RKのソロのために広島まで行ってしまうなんて、自分でも驚く。高校生の私に教えても絶対に信じてもらえないと思う。
 
 羽田空港でお昼ごはんを食べながらいつも以上にわくわくした。ルーティンの業務をこなすいつもどおりの日常から、知らない土地でライヴを見るという非日常へのスイッチの切り替えが急激なせいかも知れない。

 ホテルにチェックインして、会場の広島流川教会に向かう。広島駅から、ふつうに観光に来ただけだったらあまり通らなそうな街中を、少し歩いた。
 ライヴを聴くという名目でなかなか入る機会のないあちこちの礼拝堂を見学できるのも教会ツアーの楽しみだったりする。流川教会は正面に廃材を組み合わせたような十字架が掲げられていて、すごく存在感があって印象的だった。あとで調べたら焼け野原に残った木で作られた「被爆十字架」 とのこと。
 ライヴ中に隆ちゃんも「響きがきれい」と言っていたけど、ほんとうによく響く教会堂だった。

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 ライヴはすごかった。ひと月前に日本武道館のステージで激しいシャウトを聴かせていたひとが、手が届きそうなほどすぐ近くまで歩いてきて、やさしい肉声で歌っていることにめまいがしそうだった。歌声と電子ピアノだけなのに、圧倒されて胸が苦しくなった。

 放心しながら来た道を戻り、たまたま見つけた雰囲気の良さそうなうどん屋さんでイカ天ぶっかけうどんを食べ(おいしかった)、ホテルの部屋でノンアルコールビールを開けてひとりで余韻に浸った。
 ライヴが終わってしまってもまっすぐ自室という現実に帰らなくてよくて、非現実を翌日まで引き伸ばせるのが遠征旅行のいいところで、つくづくやめられないよなあ、と思う。

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