LUNA SEAと私のミライ・カコ・イマ

 LUNA SEAのライヴで号泣したことが三回ある。

 最初は2000年12月26日、FINAL ACTの初日の「RAIN」。

 LUNA SEAに出会ったのは十四歳のとき。友人に教えられた。ロックバンドなんて自分には縁のない存在だと思っていたのに、気がつけば夢中になっていた。
 まだ十代の学生で、行動範囲も使えるおこづかいも制限され、ライヴのチケットを取る方法もわからなくて、必死で貯めたなけなしの三千円でアルバムを買い、何度も何度も繰り返し聴くことしかできなかった。

 そうしていつかライヴで聴きたい、けれどそんな日は来ないかもしれない、と思っていた楽曲が、FINAL ACTで次々に演奏された。「RAIN」もそういう曲たちのうちのひとつで、イントロを聴いた瞬間「まさかこの曲を聴けるなんて、夢のようだ」という思いと「でもこれが最後なんだ」という感情がぶつかって、あふれた。

 二度目は2010年12月25日、REBOOTの東京ドーム三日目、黒服限定の「Branch Road」。

 高校二年生の冬、ようやく行くことができたはじめてのライヴが、あの「真冬の野外」だった。横浜スタジアムで告げられた活動休止にショックを受けた私は、その後ソロ活動をはじめた「河村隆一」と「RYUICHI」とのギャップに戸惑ってしまい、以降はあまり積極的にLUNA SEAを追うことはしなかった。
 終幕を迎えたあともその戸惑いは消えなかったのだが、私も二十代の後半になって十代の頃のような極端な頑なさがなくなり、少しずつメンバーのソロを聴きはじめた。かつての「RYUICHI」のような殺されそうな鋭い眼光や激しいシャウトがなくても「河村隆一」はすごいヴォーカリストだ、ということがわかるようになった。

 そうしているうちにLUNA SEAは一夜限りで復活し、三年後に完全復活した。
 One Night Dejavuも、REBOOTの二日間も素晴らしいライヴだった。ただ、いまのLUNA SEAの演奏、とくにRYUICHIの歌はあまりにもうまくて、かつての荒い空気はもうないんだなあ、とも感じた。

 だから25日のLUNACYを観て心底びっくりした。
 初期の荒々しいLUNACYはいなくなってしまったわけじゃなかった。LUNA SEAのなかにずっと存在していた。もしかしたら一時期は抑えこまれていたのかもしれないけれど、いまの彼らはそれを自由自在に表出させられる。
 人間は大人になる過程で色んなものを捨てていくように見えるけれど、歳月を重ねて、手放したと思ったものをより完成されたヴァージョンでもう一度手にすることもできるんだ、と思った。
 それが真に成熟するということなのかもしれない。だとしたら年をとることは少しも怖いことじゃない。
 思えば、私だって黒服限定にちゃんと黒服を着て行けたのは、大人になって働いて経済力を手にしていたからだった。十四歳のときに見たかったものを、十四歳のとき着たかった服を着て見られたから、三十歳まで生きていてよかった。

 ……そんなことがいっきに押し寄せてきて、あと単純にライヴが凄すぎて、よりによって「Branch Road」を聞きながら決壊してしまった。まったく涙が出るような雰囲気ではない、めちゃくちゃにハードな曲で泣きだして、だいぶ様子がおかしかったと思う。

 そして三度目は2018年12月23日、LUNATIC X'masの2日目、SEARCH FOR MY EDENの「STEAL」。

 それこそLUNA SEAに出会ったばかりの中学生のとき、初めて買った音源が「EDEN」だ。学校の行き帰りも眠る前もえんえんCDをリピートして、全曲、体に染みこむぐらいに聴きこんだ。たぶん、私の人生でいちばん再生回数の多いアルバムは「EDEN」だと思う。
 いちばん最初にすすめられて手にした「EDEN」のなかでも、「君はこの曲が好きだと思う」と友人に言われていちばん最初に意識した曲が「STEAL」だった。

 さすがにもう生で聴ける日は来ないだろう、と諦めていた楽曲たちは、四半世紀を経たLUNA SEAが演奏しても、その若々しさや瑞々しさがまるで失われていなかった。飽きることなく聴いていたあのころと、同じくらい新鮮に聴こえた。
 もちろん1993年の音源の再現にとどまっていたわけではなく、たとえば「Claustrophobia」のあの迫力は、2018年のLUNA SEAが演奏したからこそだと思う。思春期の閉塞感や絶望感への絶叫のような曲だと思うが、五十を目前にしたLUNA SEAが圧倒的な凄みと重みを表現してくれたことで、若かったころの彼らも救われるのではないか、という気がした。

 LUNA SEAをきっかけに出会ったひとも別れたひともいて、一緒にLUNA SEAのライヴを観たけれど今は音信不通、というひとも何人もいる。LUNA SEAを私に教えてくれ、「STEAL」をすすめてくれた友人もその一人だ。
 LUNA SEAの音楽だけがずっとかわらずそばにいてくれたんだな、とあらためて思いながら「STEAL」を聴いていたら、涙がとまらなくなってしまった。

 LUNA SEAは今年30周年、私も聴きはじめてから25年ぐらいになる。思い起こせばLUNA SEAと出会ったことでずいぶん運命が変わった。ものすごくしんどいときに、縋るようにLUNA SEAを聴き続けて立ち直ったことも一度や二度ではない。
 思い入れのある曲や思い出深いライヴはたくさんあるけれど、「昔のほうがよかった」「過去のあの曲がいちばんよかった」とは思わない。いちばんかっこいいのは、常に最新のLUNA SEAだ。
 今年も12月には毎年恒例のようになっているクリスマスのライヴがあり、それに先立って新譜「CROSS」もリリースされる。今から楽しみでたまらない。バンドが現在進行系で動いていて、常に最新の姿を見せてくれることは、ひとりのリスナーとして何よりありがたく、幸せなことだ。



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