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かわいいねのタイミング

誤解を恐れずに言えば、私はかわいかったと思う。元彼にとって当時それはもうすこぶるかわいかったと思う。
……うーん。やっぱり、誤解は恐れる。
私も元彼を好きだったし、元彼も私を好きだった。だから、周囲の異性同性から顔の造形をどう思われていようと、性格にどんなに難があろうと、元彼にとって私は「かわいい(=愛しい)存在」としてこの世にいたはずだ。

だからなのか、元彼は私のことをよく「かわいいね」と言った。
そしてそれは、嬉しくて楽しいことのはずだった。
TPOさえきちんとしていれば。
いつだってTPOなのだ。

あるときは、人混みの人混みたるところだったし、あるときは、友人の前だった。

またあるときは、シンとした電車内だった。
同じ車両にいた人がこぞってこちらを向いた気がして顔をあげられなかった。確実に何人かはこちらをチラ見していたから、そこに自意識過剰さが重なって、もう、恥ずかしいを超越していた。

元彼にとってかわいかったのは、その日の服だったり髪型だったり顔だったりしたんだろうけど
ことごとく私の
「今言うの?!」という内なるツッコミを叩き出した。
実家ぐらしの学生同士で、甘い雰囲気になれるような場所も少なく、だったらどこで言えばいいんだよと言われてしまえば、私も即答できないけれど、確実に電車内ではないと思う。

かわいいと感じているのは、あなただけだったんだよ。万人が共感するかわいさじゃないから、他の人に聞こえたら私は恥ずかしかったんだよ。

そんなことを口に出せなかった私は、
そして元彼のそんなところをかわいいと思えなくなった私は、隣にいることを選べなくなった。

全然それが全てじゃないけど、一部が全てに思えるときがある。

そんな彼に新しい彼女ができたらしい。
私だってnoteで新しい彼氏との赤裸々を綴り、元彼のことを「元彼」「元彼」と連呼したらくどいなあ、「元彼」以外で表記できないものかとそれくらいでしか悩んでいないくらいなんだから、別に元彼に新たに彼女が何人できようと知ったこっちゃないというか関係ないというか、いい意味でどうでもいいのだった。
どうでもいいことが嬉しかった。

ほんとは怖かった。
自分の中の嫌な部分が顔を出すかもしれないと怯えていた。
誰かに取られて?(取られてはいないけど)初めて時間差の意味不明な独占欲とか、新しい彼女が気になって気になってネットストーカーになりたい欲とかが、むくむくとわきあがったり、「彼をカンペキに理解できるのは私だけだけどもね、ふふん」と、会ったこともない新彼女に、自己中で自己満のマウントを取り始めたりしたらどうしよう、と怯えていた。
全くもってそんなことはなかった。
でも、おめでとうという気持ちもよかったねという気持ちも私がただの友人だったらいざしらず、元カノを冠しているので「誰目線だ!」という感じだ。だからその辺とも微妙に違う普通に温かい気持ちだった。
ふーんそうなんだ。にちょっとだけプラスの気持ちがプラス。


かわいいねのタイミングが合う人だったらいいね。
今私の横にいるのは、かわいいねのタイミングが合う人だよ。
これくらいのマウントなら、まあ許されるだろう。

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