ダ・ヴィンチコードを乗り越えて [第一章]
はじめに
師でも疑え
今から約20年前の2003年。アメリカの小説家ダン・ブラウンが一冊の小説を世に放ちました。2006年には同書を原作とした映画が公開され瞬く間に世界を席巻しました。日本でもかなり話題になりましたので記憶している方も多いはず。そう『ダヴィンチ・コード』のこと。
ヒットの要因は多くの人の好奇心を掻き立てた「秘密」でした。謎多き中世の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画の秘密。またその秘密に付随する「歴史解釈」「聖書解釈」も大きな論争を巻き起こし話題を集めました。わたくしもそんな秘密に好奇心を掻き立てられた一人で、象徴を学ぶきっかけとなった懐かしき作品です。
時は流れ現在。ふとした時、わたくしの頭に古き言葉がよぎりました。
「師でも疑え」
ダン・ブラウンの小説に導かれ、ラングドン教授のモデルのRobert Lomas や、『あらゆる時代の秘密の教え』の著者 Manly P Hall、沈黙の誓いを破り邪悪な男と呼ばれた Aleister Crowley、現代の魔女 Helena P Blavatsky、最後の錬金術師 Fulcanelliなど、過去に実在した魔術師たちの本を読み漁り、自称ではあるものの魔女を名乗り、途中までではあるが階段をのぼった今。この階段を上るきっかけとなった「最後の晩餐」を己の手でDecodeしようと思い立ち、そして気づきました。
ダ・ヴィンチコードで披露されたDecodeは、
最後まで綴っていないと。
やはり魔術師は魔術師であると。
例え師といえども疑わなければ。
魔術師は沈黙を好むのですから。
3つの秘密
ダン・ブラウンが沈黙した秘密は3つあります。正確には2.5個と言ったところ。一つは"時計回り"の秘密。一つは”逆時計回り”の秘密。そして0.5個は映画『ダ・ヴィンチコード』で触れていた「ヨハネ&マグダラのマリア」に関する秘密であり、わたくしが「途中までしか言っていない」と言う”密儀”にあたる部分。また、上記の秘密を解いてゆく過程で、未だ残された以下の謎もスッキリ解けます。
トマスの手の意味、"晩餐"なのに背景は"昼間で描かれていること"、「ダ・ヴィンチコード」でも語られていた"イエスとヨハネの間の空間"など、これらの謎も全てが繋がってゆきます。更には、ダ・ヴィンチが最後まで手元に置いていたと言われる以下の三枚の絵画も繋がってゆきます。
魔術師にとって『最後の晩餐』と言う作品は、宗教概念を飛び越えた奥深き意味が封じられた"至高の一品"といえましょう。
では順にDecodeしてまいります。
ダ・ヴィンチコードを乗り越えて。
歴史の話
「最後の晩餐」は、新約聖書のうちマタイによる福音書第26章やヨハネによる福音書第13章に記されているイエス・キリストと12使徒による最後の晩餐を題材としたものです。と言うのが一般的な説明。本当のところは、、、
まずは少々歴史のお話から。
わたくしは魔女ですので言葉飾らず何者にも配慮なく申し上げます。
ダ・ヴィンチはロレンツォに支援を受け、共にルネッサンスを牽引したミケランジェロはクレメンス7世に支援を受けていました。仲が悪かったと言われる二人の巨匠は、どちらもメディチ家出身者の支援を受けていました。また、ミケランジェロはパラッツォ・ファルネーゼのコーニスも手掛けています。このファルネーゼ家出身の教皇パウルス3世はヴァチカン内にイエズス会を認可した教皇です。
さらに重ねると、ルターに代表される宗教改革の引き金になったと言われるのは教皇レオ10世が販売した免罪符。これにはフッガー家の名も挙がりますが、結局のところ許可を出したのは教皇レオ10世であり彼もまたメディチ家出身で、ルターのパトロンはフリードリヒ3世です。
前述のことからもお分かりの通り、これらの"お家"の共通項は正統派権力=ヴァチカン・カトリックの反対側にいたということ。そしてダヴィンチたちはそんな”お家”の支援を受けていた芸術家。現にダヴィンチは、正統派権力の表現の自由の規制に反意を持っていたのは知られたこと。
この流れは、のちのフランス革命につながる啓蒙主義と同様のものと考えられます。なぜなら、最後の晩餐に描かれている真の意味は"キリスト教的解釈"ではなく、"キリスト教の神話を利用した密儀の暴露"に他ならないからです。また、その密儀を理解するための象徴の知識や解釈は、ドイツの古き結社"薔薇十字団"や、影でフランス革命を主導したと言われる"フリーメイソンリー"のものと類似します。
芸術の話
プラトンの『国家』にあるように、芸術(音楽・文芸)と言うものは使いよう、考えようによっては武器にもなり得る強力な智慧です。王族・貴族が寵愛し、大金を費やし支援した人々の作品なのですから、ただの娯楽芸術と侮ることなかれ。
わたくしの考える「最後の晩餐」とは、古き宗教概念に染まった人々に智慧と衝撃を与え啓蒙する、もっと具体的に言えば、世界を揺り動かす王族・貴族・聖職者等の知的エリートを啓明する、そういう"たぐい"の芸術です。
啓蒙・啓明の話
もともと我々人間は、普遍的な価値や使命を求めるように出来ています。ダヴィンチの言葉にもあるように、"真の娯楽は理解する喜び"であり、永遠普遍の理を解くことに他なりません。そして、その理とはニコラ・テスラがはっきりと申している「物理法則」です。
宗教の構造は基本的に二層構造です。顕教と言われているものが誰でも知り得る表の教義。密教・密儀と言われるものが上位の聖職者のみが知り得る教義。いわゆる奥の院にあたるもので、その秘密の教えは物理であり、理解に要する言語は数と幾何学です。
つまり、上位の聖職者はそもそも神は物理法則だと知った上で、物理的な自然現象を神の御技に置き換え、人々から普遍的な価値や使命を取り上げ支配統治してきたということ。
想像して下さい。数百年ものあいだ顕教に染められ密教を隠されてきた中世の知的エリートに「神は物理法則ですよ」と真理を説いたなら。そもそも宗教というものは、真理(古代科学)に寓話の衣を羽織らせたもの、百科事典を神話で包んだようなものですから、丸裸の真実を伝えられたその衝撃は計り知れず、また絶対的権力が作り出したMatrix(常識)に疑念のヒビを入れるには十二分だったことでしょう。そして、その衝撃を与えることこそが”啓蒙・啓明”と呼ばれるものです。
つまり、当時の絶対的権力が長らく秘密にしてきた「真の理」を、絶対的権力の芸術の中に分かる者には分かるよう忍ばせた絵。それが『最後の晩餐』です。故に、そこに描かれているのは古代科学の智慧であり、古くから一貫し伝えられてきた真理であるため、"キリスト教の神話を利用した密儀の暴露"であると申し上げるのです。
密儀の話
密儀とはあらゆる宗教神話が持つ奥の院の智慧の総称。端的に申し上げれば"比喩や象徴で飾られた宇宙論"です。このことが良くわかる12世紀の神学者 聖ベルナールの言葉を引用します。彼は科学者でも数学者でもなく"修道院長教会博士"であり"カトリックの聖人"です。
「獅子頭のクロノスの形をしたミトラ」という密儀の象徴画では、時間を示す主神の足元に立方体が描かれ、3人の平伏す人間で「幅×高さ×深さ」を象徴します。
「幅×高さ×深さ」の公式は、顕教ではこう象徴化されます。
三つで一つ
古き賢者は自分たちの住む三次元世界の仕組みを解き明かそうと努めました。万物の複雑な形を形成する「法則」はどこから来るのか?と。そこで考えついた法則を見つける方法。それは逆算。
複雑な三次元世界を形作る元は二次元にあり、二次元を形作る元は一次元にある。このようにありとあらゆる認識可能なものを剥がしきり、なおそこに残るものが宇宙を形作る最初の力です。ある者が神と呼ぶ「物理法則」であり、魔術師が「根本原理」と呼ぶものであり、「真」の「理」と書いて「真理」と表すもの。
そして、ある者が神と呼ぶその存在は、智慧なくしては見えません。ではその智慧とは具体的に”どんな智慧なのか?”
故に、先にも述べましたが、真理の理解に要する智慧とは”数と幾何学”です。そしてそれらを用いて見える神の姿は二つ、「円 / π」と「比 / Φ」です。
故に、古き神聖な建造物は神の姿がはっきりと現れています。
神に似せて作られた神聖な建築物を飾る象徴にもまた神の姿が。
「神 = 根本原理」ですから「神聖なもの = 根本原理が現れているもの」に他なりません。その観点で『最後の晩餐』を見れば、神聖なものが顕現します。そして、その顕現したものこそが、ダヴィンチコードを乗り越えて初めて見える真理です。
では、漠然とではありますが「最後の晩餐」に描かれているものがどう言うものかお伝えしたところで、絵自体の詳細なDecodeに移ります。
基本構造
『最後の晩餐』には3つの秘密があると申し上げました。もちろん、その一つ一つにパスや解釈が存在しますが、それらの元となるパスがあります。すべての"秘密の根本"となるパス。そんなパスにはもちろん"根本原理"が用いられています。美に関連し「黄金比」の別名を持つ「Φ」です。ではまず黄金比で作られた根本のパスから始めましょう。
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