起伏絵画1ー制作意図


2022.1.22

 絵画とは何か。その定義を探った時に、「平らな面に描くもの」という答え方がある。紙もキャンバスもどれも平らであるし、そうでないと絵は描けないようにも思える。実際に辞書を引けば「平面の芸術」と定義されていたりする。
 人類の絵画史は平らな面(支持体)の上に絵が成り立つことが基本にあった。岩壁をならし、漆喰を塗った古代エジプトに始まり、木板、紙、キャンバスと描きやすく見やすい支持体が発明され普及した。支持体の平滑さは絵画の前提となり、それは芸術の定義が見直された近代に至っても変わることはなかった。
 しかし有史以前に目を向ければ、そこには絵画の原初とされる洞窟壁画がある。でこぼこで描きにくいが、岩特有の迫力がおそらくはあり、起伏の形状から連想して動物を描きこんだりした。残念ながら私は実物を見たことがないので洞窟壁画について詳しいことは言えないが、人類の歴史の中で、世代を超えてでこぼこな支持体に絵を描く時代が存在したのであり、それは歴史の過程の中で消えてしまったという事実は確かだろう。
 丸天井のフレスコ画や陶磁器の絵付けなど、立体物に何かを描く文化は存在しているが、荒い質感に大小の起伏が存在する下地への描き込みは洞窟以降例がないと思われる。
 さらに言うなら絵画の平面性は建築の平面性の延長でもある。垂直にそびえる平らな壁があるから平らな絵を飾ることができるし、それが当然になる。文明的であればあるほど、垂直・水平が当然の光景となってゆく。その結果、誰も絵が平らなものしかないことを疑問には思わない。
 そこでこの洞窟壁画で止まってしまった起伏のある絵画の歴史を進めてみようと考えた。段ボールで起伏をつくり、そこに絵を描く中でどのような作用が生じるのか、その過程を重視した作品を制作してみることにした。
 
(「起伏絵画2ー制作記録」に続く)

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