階段

3,4歳ぐらいの、まだ言葉も十分でないような男の子がふたり階段を上ってくる。壁をよじのぼるみたいに、次の段に置いた手を支えにしながら膝を上げて一段ずつ上ってくる。
上がった先には扉があって、私はその扉の前で彼らが上ってくる様を見守っている。

踏み外して転がり落ちてしまったら、すぐ飛び込んで抱きかかえて私がすべての衝撃を受け止めるのだ。私はこういった実現性のない自己犠牲自死をしょっちゅう妄想してしまう。
子どもたちが私を見て、手を振ってくる。振り返そうと手を挙げると、私の反応を見た男の子のひとりが嬉しがって体勢を崩した。反射的に身体が動くが私の動体神経で間に合うはずもない。階段をひと通り転がり切ったあと、残されたもう1人の子と私が顔面蒼白な状態で彼の様子を見つめるのだ。

子どもは立ち上がって、また一段ずつ上り始めた。

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