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コロナ感染記 そして ひきこもり体験記

   とうとう僕もコロナ感染後の人間になってしまった。前後でそれほど大きな違いがあるのかどうかわからないが、記憶があいまいになる前に書き留めておこうと思う。
 


発症の3週間前

   のどが痛くなり、発熱した。近所の病院でコロナの検査を受け、陰性であった。夏風邪ですね、ということで薬をもらって帰って来た。1日だけ仕事を休んで、次の日からまた働き始めた。その後、妻が自分の風邪からうつったのか、咳をするようになった。私も、のどの調子は完全に良くなったとは言えなかった。のど飴をなめたりしながらごまかしていた。
 

火曜日(発症前日)


   会議があり朝から出かけていた。暑くて熱中症になりそうであわてて水分を補給したりした。夜、痰がからむ感じがしていた。また、夏風邪がぶり返したかなと感じた。
 

水曜日(発症日:0日目)


   朝から体が熱い。夜中も暑かったので熱中症ではないかと思い、水分をとって体を冷やした。朝食をとろうとするがあまりのどを通らない。半分ほど残して熱を測る。37.3℃。念のため病院に行く。病院で計ると38.3℃ある。前回も同じだった。またしても、病院の外の暑い場所でコロナの検査を受ける。前回は、検査の後、ラインが出てこないのを確認してから中に入ったのだけれど、今回は暑いからもう中に入ってくださいと言われて、コントロールのラインを見ただけで結果を見ずに中に入った。しばらくして「陽性ですね」との看護師からのことば。すぐに仕事関係に連絡。家族にも連絡。ポカリスエット1.5Lをドラグストアで購入し帰宅する。不幸中の幸いであるが、翌日木曜日から1週間はちょうど夏休みになっていた。仕方ない、ひきこもり生活に覚悟を決める。今は一人暮らしをしており家にいない長男の部屋が私のこもり先になる。朝食の残り半分を無理やり食べ、薬を飲む。解熱用のカロナール錠200は毎食後に、それと別に発熱疼痛時の頓服としてカロナール錠500が処方されている。同時に飲んでよいものかどうか判断がつかず、200は飲まずに500だけ飲むことにする。夕飯は熱のせいかほとんど味がしない。夜、熱は38℃台であるが、頭が痛くて何もする気が起きない。夜中どうしても頭が痛くて眠れないので頓服を飲む。少し楽になる。
 

木曜日(1日目)


   熱は下がらない。鼻やのどの奥でウイルスがどんどん増殖しているような疼きを感じる。朝食は妻が準備してくれている。いつも通り大豆のグラノーラとヨーグルトイチジクジャム添え。午前はほとんど寝ている。昼食も準備されていたチャーハンと卵スープ。温めて食べる。それほど食欲はないが薬を飲むために食事をとる。吹奏楽部顧問の妻は厳戒態勢である。5日後にサマーコンサート、2週間後にコンクールを控えている。部員家族にも感染者は出ているらしい。ふだん私がやっている家事一切を妻がこなしている。これは病人に対するいたわりとかではなく、あらゆるものに触れられたくないからである。私もそれが分かっているので、なるべく何もしないようにしている。新聞も洗濯物も生協の荷物も取り込まない。家族が帰ってくる前、まだ明るいうちにシャワーを浴びる。長女が先に帰ってきて諸々取り込んでいる。除菌スプレーも購入してきたようだ。私が使った後の洗面やトイレを除菌して回っている。妻が帰宅し夕飯を準備、私がひきこもる部屋の前に届けてくれる。いつもより野菜が多いように感じる。体を気遣ってのことか、それとも夏休みに入って少し余裕があるからか。食後、私はマスクをして食器を持って降りる。妻も食事中であるがマスクをつける。洗面で歯を磨いていると後ろから扉を閉められる。私が出た後はすぐに除菌。私は完全にばい菌扱いである。夜少し気分はましになっているので、スマホでテレビドラマを見る。
 

金曜日(2日目)


   37℃台に熱は下がる。インフルエンザとは違って薬がすべて対症療法なのでスッキリよくなる感じがしない。その上、かたいベッドに長く寝ていたせいか腰が痛く、起き上がって歩くのも苦痛になる。昼に妻が準備してくれていたレトルトカレーを温めて食べる。ふだんよりかなり辛く感じる。頭は少しずつすっきりしているので、アマゾンプライムで映画を観る。やさぐれ刑事の阿部寛が音楽隊でドラムを叩くという話。こういう気分のときにはちょうどいい映画だった。少しずつ本も読めるようになる。シャワーを浴びている時間だけ、何か解放された感じを受ける。夕飯、ご飯は少なめで食べる。本を読み、ドラマを見て、寝る。ベッドには敷き物を1枚追加する。腰の痛みがずいぶんやわらぐ。
 

土曜日(3日目)


   平熱に戻る。パソコンを部屋に持ち込んで、読み終わった本のレビューを書く。思い出しながらまとめて3冊分。「いまを生きる」ことと「未来を生きる」ことをどう両立させるかを考える。昼に冷凍のナポリタンを食べるが、かなり酸味が強く感じられる。痰がからむ。まだまだウイルスは外に出ようとしている。散歩にくらい出ようかと思ったが、窓を開けて外の空気を入れるだけで我慢した。この3日間便秘であったがやっといくらか排便に成功する。その割に、食事量が減っているせいか、下腹部はふだんよりへこんでいる。夕方から読めていなかったカズオ・イシグロ「わたしが孤児だったころ」を読み始める。夕飯を食べ、本を読み、スマホでドラマを見て、本を読み、寝る。
 

日曜日(4日目)


   妻も休み。下に降りていくのにも気をつかう。気分はあまりすぐれない。日光を浴びていない、運動をしていない、外の空気を吸っていない、薬を飲み続けている、など原因は何か分からない。午前、近くの公園まで2,30分散歩に行く。セミの抜け殻は多数見つけるが、成虫を見つけることができない。昼食、出来たての焼きそばを食べる。おいしく感じる。しかし気分はすぐれない。家の中にこもっているのと、部屋の中にこもっているのとでは話が違う。部屋から出たい。このままではグレゴールザムザになってしまう。現実逃避するために映画を観る。樹木希林と黒木華のお茶の世界にひたる。着物姿とその所作に潔さを感じる。暑い日は暑いなりに、少し汗をかきながら氷でも食べていた方が良いのだ、と思う。私はエアコンを止め、窓を開け、扇風機を回す。本の続きを読む。上海の複雑な歴史に入りこみそうで頭が混乱する。シャワーを浴びる。のどに痰がからむ感じが抜けず、けだるさが残る。そう言えば、水曜日に薬局で薬を購入したとき以来、ほとんど言葉を発していない。ちゃんとしゃべれるだろうか。一応、あと1日で感染させるリスクは大幅に減ると書かれている。外出も許容されるだろう。しかし、家族に対してはもう少し慎重であった方が良い。そもそもすでに感染しているとすると、この1週間ほどの体調の変化に敏感にならないといけない。夕飯を食べ、本を読み、ドラマを見、本を読む。そして、また寝る。
 

月曜日(5日目)


   いつも通りの朝食をとる。薬はすべて飲み切った。頓服が3錠と最初に飲まなかったカロナール錠200が1個残っているだけだ。痰がのどに強くからみついているのだけが難儀だ。本を読む、少し寝る、昼食をとる、本を読む、少し寝る、本を読み終わる。ブックレビューを書きアップする。明日からふつうの生活にもどれるのだろうか。僕の家事と行動範囲はどこまで許容されるのだろうか。それは家庭内だけの話である。外では誰もそんなことは気にしない。普通に過ごすしかない。普通の生活にもどるしかない。しかし、まだ少し不安だ。妻にはあと5日間は緊急事態のままと宣言される。コンクールが終わるまで感染するわけにはいかないからと。極力協力しようと思う。しかし、私もどこで感染したのかは分からない。人生、どこで何があるかは分からない。
 
                                                       2023年7月24日

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