高校生からゲーム制作の流れについて聞かれたのでまとめてみた

この記事は、Craft Eggアドベントカレンダー2022、2日目の記事です。1日目は@madoramu_fさんの『SRDebuggerのオプションにSliderを実装する』でした。

はじめに

先日、弊社宛に高校生からゲーム制作についての質問をいただきました。弊社が制作/運用しているゲームは嬉しい事に若い方にも多く遊んでいただいているので、時々会社宛にメールで質問をいただいたり、見学要望をいただいたりします(見学事例はこちら)。この記事では、いただいた質問に僕が回答した内容を転載します。

なおゲーム制作について詳しく語ろうとすればものすごい量になり、また内容もゲームタイトルや組織ごとに千差万別です。今回はあくまで一例を分かりやすく伝える意図で色々端折って書いたもの、という前提で読んでいただけると幸いです。

いただいた質問は以下です。
(1) どのようにしてゲームが開発されるのか
(2) スマホゲームとNintendo Switch™やゲーム機器のゲームは、作り方が一緒であるのか
(3) このIT社会で、ゲームアプリはどのように発展していくと考えられるか


(1) どのようにしてゲームが開発されるのか

全体の流れ

※一般的な一例なので、会社やタイトルによって異なります。

  1. 企画フェーズ

    • ゲームの内容、遊び方、どういうユーザーに遊んでもらうか、などを文章や絵、図などを使って作ります。

    • ゲームの規模は時代と共に大きくなる傾向があるので、ゲームにもよりますが、この企画フェーズで考える内容もどんどん幅広く、量が多くなっていたりします。

  2. プロトタイプ開発

    • 企画したゲームが本当に面白いか、どうやったらもっと面白くなるか、などを実際にプレイして検討するための、仮のゲームを作ります。

    • 検討するのが目的なので、プログラム、グラフィック、サウンドなどどれも仮のもので、素早く作ったり変えたりすることを重視して進めます。ここに携わる人は1人〜数人くらいの少人数の事が多いです。

    • この段階で、「思っていたほど面白くなかった」「想像していたより難しすぎた」などの理由で作るのを中止する事もあります。

  3. 開発 αフェーズ

    • プロトタイプ開発で「これはいけそう」となったら、改めて実際のゲームを作り始めます。

    • いきなりゲーム全体を作りだすのではなく、このαフェーズでまずゲームの中心となる機能やグラフィックに絞って開発を進めます。たとえばRPGだったらフィールド移動とバトル機能、メインキャラクター数人のグラフィックだけを作っていくというイメージです。

    • こうする事で、ゲーム全体を少しずつ作るよりも、ゲームの完成形(面白さ、遊び方、グラフィックの品質など)を早めに知る事ができます。

    • プロトタイプ開発で「いけそう」となっても、このαフェーズで細かい部分まで作っていく中で初めてわかる課題や改善点がたくさん出てきます。それを解決、対応しつつ開発を進めます。

  4. 開発 βフェーズ

    • αフェーズでゲームの中心となる部分の仕様や品質が固まったら、このβフェーズに入ります。

    • βフェーズは、残りの機能やグラフィックの開発を進めます。グラフィックは同じパターンで多数のキャラクターや背景を作ったりするので、「量産フェーズ」と呼ばれる事もあります。

    • このフェーズはプログラムもグラフィックも作る量が多いので、たいていは開発期間全体の中で参加人数が一番多くなります。

  5. テストフェーズ

    • 作ったゲームの動作や見た目を確認したり、セキュリティに問題が無いかなどをチェックするフェーズです。

    • プログラムだと、「ほとんどの場合はうまく動くけど、たまにおかしくなる」といったバグや、モバイルゲームの場合「あるスマホの機種だけ画面表示がおかしくなる」問題など、難しいものが出てきて時間がかかったりします。

    • グラフィックも、特に3Dゲームは思わぬおかしな表示になってしまったり、壁の裏側など見えてはいけないところが見えてしまったりなど色々問題が起きやすいので、確認も結構大変です。

    • 近年のゲームはコンテンツ量が多かったりプレイ時間が長かったりするので確認しなければならない量が多く、開発している会社の中だけだと確認に時間がかかり過ぎる事があります。そのため、大勢でテストをする専門の会社もあり、そうした会社にお願いしてテストをしてもらう事もよくあります。

  6. リリース

    • 作ったゲームを世の中に出すタイミングです。

    • PlayStation®、Nintendo Switch™などのコンシューマゲームや、iOS、Androidのモバイルゲームの場合は、リリース前にそのプラットフォームを管理している会社もゲームの内容をチェックします。これは一般的に「審査」と呼ばれます。たとえばNintendo Switch™だったら任天堂、iOSだったらApple社が審査をします。

    • この審査は、プラットフォームを管理している会社が「自分達のハードウェア(Nintendo Switch™やiPhoneなど)で遊んでくれる人達に、ちゃんと動かない品質の低いゲームや問題のあるゲームをリリースしてしまわないように」という目的で行われます。

    • 審査が終わると、無事にリリースとなります。AppStoreで公開されたり、コンシューマゲームならお店やECサイト等での販売が始まります。

  7. 運用フェーズ

    • ゲームによっては、リリース後も開発が続きます。

    • 機能を追加したり、リリースまでに見つからなかったり直せなかったバグを直したり、コンテンツを追加したり、ゲーム内イベントを開催したりと、内容は様々です。

    • 特に無料で手に入るゲーム(モバイルゲームに多い)は、ユーザーに長く遊んでもらう中で好きなコンテンツにお金を払ってもらう事が売上につながるので、この運用フェーズでもリリース前の開発に負けないくらいの人数で引き続き開発をし続ける事もあります。

ゲーム制作における大事なポイント

  • ゲーム制作は、後のフェーズになればなるほど関わる人の人数が多くなり、色々な作業が並行して行われるようになります。そのため、前のフェーズで決めたり作ったりした内容が後から変更になると、それを元に作っていたものをたくさん作り直す事になってしまい大変です。そのため、特にゲームの中心となる部分や、どういうグラフィックにするかなどは早いタイミングで納得いくまでしっかり検討した上で決めるのがとても大切です。

  • 一方で、ゲームは最終的にユーザーにとって面白かったり魅力的でなければ意味がありませんし、売れなくなってしまいます。したがって、ちゃんと検討して制作を進めてきたとしても、制作中にプレイした結果「この部分が思っていたほど面白くなっていない」「こう変更した方がより良くなる」という部分が出てきたら、たとえ作り直しが発生したとしても対応した方が良い場合もあります。「最初にこう決めたんだから一切変えずに最後まで作ろう」とやって面白くないゲームが出来上がってしまったら、作った人達も遊ぶ人達も、誰も嬉しくないですよね。

  • このような「予定通りに進まない」「想定と変わってしまう」というのは、ゲーム制作では残念ながらわりと起こってしまいます。そういった課題が途中で起きたり時間やお金の制約がある中で、いかにより面白いゲームを作るか、いかにユーザに楽しんでもらうかを考え悩みながら作るのも、ゲーム制作の難しさであり楽しさでもあり、醍醐味だと思っています。


(2) スマホゲームとNintendo Switch™やゲーム機器のゲームは、作り方が一緒であるのか

  • 近年よく使われるUnityやUnrealEngineなどのゲームエンジンを使う場合、スマホかNintendo Switch™かといったプラットフォーム(ハードウェア)での作り方の違いはかなり少なくなっています。これはハードウェアの違いの大半を、これらのゲームエンジンがうまく吸収してくれるからです。

  • プラットフォームごとに違う部分の例

    • 入力方法(画面タッチ、コントローラなど)。これはゲーム性や画面UIに大きく関わってきます。スマホだけどコントローラ操作にしたい場合に、バーチャルパッド方式にするなどもありますが、操作性を考えるとなかなか厳しかったりもします。

    • 画面解像度とグラフィック処理性能。たとえばNintendo Switch™は性能としては一昔前のスマホに近いので、PlayStation®4やハイエンドPCゲームと同じ3Dモデルやテクスチャ(絵)を使うと処理が追いつかず動きがカクカクになってしまいます。そこで、モデルを小さくしたり絵の解像度を下げたりなどの対応を行います。

  • 作り方が大きく違うのは、プラットフォームの違いよりも以下の違いが大きいです。

    • ゲームのジャンル。RPGかアクションかストラテジーかなど。

    • ゲームの規模。同じRPGでも3時間で終わるものと100時間以上かかるオープンワールドRPGでは作り方が全く変わってきます。

    • リリース後の運用があるか無いか。完成したらそこで制作が終わる場合は、極端に言えばユーザが楽しめて価値を感じてもらえるゲームになっていれば、裏側のプログラムやデータが汚くなっていても大きな問題にならないかもしれません。もちろん綺麗に作ってある方が続編を作る場合や移植する場合などに良い事もありますが、少なくとも遊ぶユーザにとっては裏側はほぼ関係が無いからです。一方で、リリース後もどんどんイベントを開催したりコンテンツが増えていく運用型のゲームの場合、その想定でシステムや制作用のツールを作ったりデータ構造を綺麗にしたりなどをやっておく必要があります。それをしないと「1回イベントを開催するのに制作の手間がものすごくかかる」「プログラムの追加が難しく、バグが起きやすくなる」などの問題が発生してしまいます。


(3) このIT社会で、ゲームアプリはどのように発展していくと考えられるか

技術の進化、変化に伴って発展していくもの

  • ハードウェアの進化、多様化

    • ゲーム機→モバイル→AR/VR といったハードウェアの多様化によって、遊び方、遊ぶ時間、遊ぶ環境がより多彩になってきています。

    • ハードウェアの性能向上によって、ゲームの品質が向上する。グラフィックやサウンドのクオリティやリアリティ、迫力、コンテンツ量などが増してきています。

  • ソフトウェアの進化

    • AI(機械学習)による進化。ゲーム制作、ユーザ体験(ユーザごとのパーソナライズなど)、ゲーム内容(ストラテジーゲームのNPCの強さなど)、などあらゆるところがAIによって進化していくでしょう。

    • ツールによる進化。ゲームエンジンの普及によって、以前はプラットフォームごとに高度なプログラミングを行う必要があったところが、比較的簡単なプログラミングによって複数のプラットフォーム向けにゲームが作れるようになってきています。また、各種制作ツールの機能や性能が上がり、情報の流通も増えた事で、以前と比べて高度なものをより短期間、低コストで作れるようになってきています。

文化、ゲームの受け入れられ方の変化によって変わっていくもの

  • ゲームを応用したコンテンツが増える

    • シリアスゲーム

      • 現実の問題を、ゲームで体験したり考えられるようにしたものです。例えば世界の食糧問題の解決をゲームを通じて学ぶものが、国連機関によって提供されました(Food Force)。子供時代から馴染んでいるゲームを用いることで、そういった社会問題に興味関心を持つ人を増やす試みは今後も増えると思われます。

    • ゲーミフィケーション

      • ゲーム化することで、楽しくしたり継続しやすくする試みです。例えば勉強時間を経験値に変えて、RPGとしてレベルアップしたりアイテムが手に入るようにしたりするものです。

    • 教育ゲーム

      • 子供向けの知育アプリや問題をゲーム感覚で解いていくものなどです。上記のシリアスゲームやゲーミフィケーションと重なる部分もあります。

      • スマートフォンやタブレットの普及という社会背景から、ゲーミフィケーションと共にかなり発展し数が増えています。

    • ARG(Alternative Reality Game。代替現実ゲーム)

      • 現実の一部にゲーム要素を追加したり置き換える事で成り立たせるゲーム。たとえば失踪者を探すゲームで、その架空の人物があたかも実在するかのようにソーシャルアカウントを用意したり動画を密かに公開しておいたり、現実空間のどこかにヒントを隠したりなどして、ユーザが体験しながら楽しむものなどがあります。

      • スマートフォンやAR技術(Augmented Reality)の発展によって情報の提示の仕方や体験のさせ方が向上しているため、今後発展が期待されます。

    • 機械学習の学習データ作成

      • 自動運転の性能を向上させるには実際に車を走らせて膨大なシチュエーションでの操作や判断を試す必要があります。それを全て現実の自動車で行うかわりに、現実に近い設定のゲームの中で試行する事で、試行回数を多くしたりコストを下げたりといった事が可能になってきています。

      • このようなゲームの高度化、リアル化に伴って現実での試行をゲーム内で一部代替するケースは、自動運転に限らず増えていくと思われます。

ゲームへの接し方の変化によるもの

  • ゲーム配信

    • ゲームを直接プレイする楽しみ方だけでなく、他人のプレイやそれにまつわるトークを楽しむ文化が普及しています。これに伴って、ゲーム制作側も配信のされやすさ、配信でより面白くなるような工夫、見栄えを意識して作るケースも増えてきています。

    • 配信の発展型として、配信を視聴しているユーザがゲームの一部に干渉して盛り上げるような機能を持ったゲームも徐々に増えてきています。

  • eスポーツ

    • eスポーツのプロによる競技や大会が増えてきた事で、そこで遊ばれる事を前提としたゲームデザインや設計、運用をするゲームも増えてきています。

    • たとえば、eスポーツはプレイヤースキルやチームワークによる勝敗を重視しているので、一般的に「お金をかけただけ強くなる」事態を避けます。したがってお金を払うことで変わるのは見た目など勝敗に影響しない要素だけとし、強さは変わらないようにする設計方針のゲームが多いです。


最後に

以上がいただいた質問への回答です。この記事を学生の皆さんが読む機会があるかどうか分かりませんが、少しでも誰かの何かのお役に立てれば幸いです。

明日のCraft Eggアドベントカレンダーは、nakamura_erikoさんの『Craft Eggエンジニアの"強み"と"弱み"を言語化してみた話』です。
※公開され次第URL更新します。

なおCraft Eggは一緒にゲームを作るエンジニアやクリエイターを絶賛募集しています。少しでもご興味のある方、どんな会社だろう?と思われた方はぜひ以下のページもご覧ください。

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