祝福のルーレットが廻る⑬ かつあげ

「ザ・ピエロ」は、時代のせいもあるだろうが、従業員が不良上がり(もしくは現役)のような見た目と態度で、そこら中に空き缶や煙草の吸殻が落ちているようなゲームセンターだった。

私は、お金が無かった。
父が独立してからそれなりの年数が立っており、何とか四人家族を養っていくくらいは稼いでいてくれたものの、姉が予定外に私立に行くことになったこともあるのだろう。お小遣いの金額はある時期から全く上がらなかった。
私は高井戸や桜庭の友達の後をついて回り、たまにメダルを恵んでもらってはブラックジャックやポーカーで遊ぶ程度だった。

ふと、桜庭が見知らぬグループと話していた。4人ぐらいのグループだった。
私たちよりも年上で、恐らくは中学3年生くらいだろうか。
桜庭が、そのグループとどこかへ行こうとしていた。
「お~い!浅田も来いよ~!」
桜庭に呼ばれた。
私はその類の呼びかけには、必ずついて行ってしまう性格をしていた。

連れていかれた先は、男子トイレだった。
桜庭と私は、それぞれ別の個室に入れられた。グループは、それぞれの個室に2人ずつ入った。
見知らぬ年上グループは、私の中学生には見えない幼い風貌に困惑していたように見えた。
「あの~」ひとりが口を開いた。「お金持ってる?」
「持ってません」私は答えた。
正確には、100円だけ持っていた。ジュース代として遊びに行く時に親がくれたのだ。
たかが100円だが、親がくれたお金をこの人たちに渡したくは無かった。
年上グループのふたりは、顔を見合わせた。信じたようだ。

「もう本当にこれ以上は持ってません」隣の個室からは、桜庭の声が聞こえた。
「本当だろうな」「いいから全部出せよ」
私の方とは違い、桜庭の方が手心が加わっていないようだった。
暴力は振るわれることはなかったようだが、グループの声が段違いに怖い。リーダー格の人間は恐らく桜庭の方にいたのだろう。

個室から、解放された。
見知らぬグループは、去っていった。
桜庭が、私に囁いた。
「かつあげされた…」
悔しそうだった。

いまにして思えば、桜庭は髪型もセットして前髪も垂らしていたし、生意気そうに見えたのだろう。
絡まれることが多かったように思う。

私は虎の子の100円玉を守り切ったのだが、一文無しになった桜庭が可哀そうでもあり、話の流れで私も一緒にかつあげされた事にした。
高井戸はその日、一文無しになった私と桜庭にハンバーガーを奢ってくれた。

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