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欲求やモヤモヤをきっかけにして、アートと街の接点を探っていく。 YAU CLASS  SOUDAN編


2022年2月からスタートした、街がアートとともにイノベーティブな原動力を生み出していくための実証パイロットプログラム「有楽町アートアーバニズム YAU」。
有楽町の人々がアートについて学び新たな思考を深めていく「YAU CLASS」の一環として、大手町・有楽町・丸の内エリアで新たなワークスタイルのあり方を探る試み「丸の内ワークカルチャーラボ」と連携したトークイベントを4回にわたって開催しています。

最終回となる4回目は、アーティストの悩み相談の場となる「SOUDAN」を行う団体「SNZ(シノバズ)」から、山川陸さんと森純平さんが登壇。後半は、アートと街のつながりをテーマに、参加者も交えて様々なトークが展開しました。

「やりすぎない」ことがアーティストの活動や繋がりを促進する


SNZは、2021年より活動を開始した、若手アーティストが直面するさまざまな困りごとについて考える相談員のネットワークです。
YAUでは、国際ビルの地下1階の⼀画に設けられた「YAU COUNTER」を舞台に、作品のアイデアから技術的なお悩みまで、様々なアーティストの相談(SOUDAN)に乗る場をつくっています。

SOUDANの会場であるYAU COUNTERの様子


SNZの一人であり、YAUディレクターも務める森純平さんは、建築家としての活動のほか、地方都市におけるアーティストインレジデンスも運営。その一例として、千葉県松戸市で展開するPARADISE AIRを紹介しました。

PARADISE AIRは「一宿一芸」のコンセプトのもと、アーティストが松戸の街に滞在し、街の人と関わりながらおこなう創作活動をサポートしています。

「PARADISE AIRにきたアーティストには、街の案内はざっくりとしかしないんです。そうすると、アーティストが自分の嗅覚を頼りに街の中を探し回り、新しい人と出会う。あえて全部教えないことで、新しいコラボレーターとの出逢いに繋がっている気がしますね。」と森さんは話します。

また、森さんと同じくSNZの一員である山川陸さんは、建築家として、建築物だけではなく、パフォーミングアーツの空間デザインを手がけるなど、多様な活動を展開しています。

以前山川さんが空間構成を手掛けたWheneverWherever Festival2018では、あえて広い空間を仕切るだけにとどめ、細かな空間の使い方を、キュレーターたちがプログラムを持ち寄ったり、皆で図面に見立てたスプレッドシートを使いディスカッションをしたりすることによって、仕組みも含めて有機的につくっていったそう。

誰か一人が空間のあり方を決めてしまうのではなく、関わる人々が「空間を成立させること」を前提に議論し続けることで、最終的に何かが起こってもコミュニケーションが成立するようなコミュニティや場所空間ができたと山川さんは言います。

欲求やモヤモヤが出発点になる

二人のお話を元に、後半はアートと街のつながりが大きなテーマとなって話が展開していきました。

丸の内ワークカルチャーラボのプロデューサーである古田秘馬さんは、「『関わりしろ』というものが一つのキーになりそうな気がしますね。
PARADISE AIRは、アーティストが『街に自分たちの関わりしろがありそうだ』と感じられるから、多くのアーティストが来たいと考える。こういう『半分扉が開いている』感じをどれくらい作れるのかということが重要な気がします。」と話しました。

それを受けて山川さんは、「同時にアーティストやその人自身が、欲求を一個抱えておくことは大事だなと思います。
以前とあるアーティストが、パン屋の2階が使われていない時期にそこをギャラリーにしたという話がありました。彼は展示や制作をする場所が欲しいとずっと思っていた。だからすぐに空いている場所であるパン屋をギャラリーにしてしまうという、発想の転換が起こせたのだと思います。」と話します。

「SOUDANでは、様々なアーティストから相談を受けることで、そうしたアーティストたちの欲求も蓄積している。そうした欲求やアイデアを、周りの企業や人々の欲求と繋げることができたらいいなと思っています。」

このように語る森さんは続けて、以前PARADISE AIRに来られた方の話を例に、街の中にアートが存在することで生まれた広がりについても話しました。

「以前視察に来た方にPARADISE AIRを知ったきっかけを聞いてみたら、滞在したアーティストが描いた壁画だったんです。元々壁画の近くに住んでいて、子どもの頃から壁画を見て『これは何だろう』と思っていた、と。
就職してアートに関するプロジェクトに取り組むことになったとき、壁画のことを思い出して声をかけてくれたそうなんです。そういう風に、活動から10年くらい経ってから芽を出すということもありますよね。」(森さん)

それを受けて、第1回のトークイベントに登壇された三菱地所の井上成さんは、「その方がどうして『近くに壁画があったな』と思い出すことができたかということが大事ですよね。それは『アートに関連する何かが周りにないか』という意識を持っていたということ。
そういう意識や欲求、ときには自分のモヤモヤが、街や元々存在する何かと結びつくことで、イノベーティブなプロジェクトや作品が生まれていくのではないかと思います。」と話しました。

YAU CLASSのスタートを切ったこのトークイベントシリーズ。今回でシリーズは終わりを迎えますが、今後YAUの活動を展開していく上で「アートと街、ビジネスをどのように結び付けていくか」という問いに対する糸口が少しずつ見えてきたのではないでしょうか。

YAUでは、今後各プロジェクトがより活動を本格化させていきます。そのうちの一つ、多くの方に活動を知っていただくことができる機会として、3/11(金)〜3/14(月)には「YAU OPEN STUDIO」を開催しました。OPEN STUDIO当日の様子はこちらからご覧ください。

 

写真:加藤甫

執筆:原田恵(YAU編集室レポーター)
ライター・編集者
事業創造プログラムの企画運営、ウェブメディア運営、まちづくりに主軸を置く不動産会社での企画広報・バックオフィス業務を経験。
現在は表現する人の活動支援をテーマに、まちづくり・文化芸術分野におけるライティングのほか、小さな組織・企業のバックオフィス業務にも携わる。


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