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日本発の優れたアートセラピー 「臨床美術」

こんにちは。
アートセラピーオフィスyumit です。

今回のnoteでは、私が日本で出会ったアートセラピー、「臨床美術」についてご紹介したいと思います。

臨床美術公式HP
http://www.zoukei.co.jp

「臨床美術」とは、創作活動を通じて脳の働きを活性化させることを目的としたアートプログラム。
つくること、描くことを楽しみながら、認知機能の向上、ストレスケア、意欲の向上、心の傷つきの回復、右脳開発など様々な効果が得られるとされています。1996年に芸術家の金子健二さんという方によって考案され、医師やカウンセラー、多くの芸術家さんたちの手によって作り上げられてきたものです。
現在は日本全国の地方自治体の介護予防事業に導入されたり、医療、福祉、教育、ビジネスの場で広く実施されています。

私がこの臨床美術と出会ったのは、臨床心理士として働き始めて約3年ほど経った頃のこと。
「心の問題と向き合うのに、アートはとても役に立つんじゃないか」と感じるようになっていた私は、アートセラピーについての情報を集めていました。いくつもの“アートセラピスト資格”を謳う団体がひしめくなか、「これは!」と強く興味を惹かれたのが、臨床美術でした。

臨床美術の素晴らしいところは、(ありすぎてキリがないのですが、)ひとつひとつのアートプログラムがものすごく丁寧に考え抜かれていること。
大体は旬の食材や自然物などのモチーフがあって、それを用意された手順・材料・手法で描いていくのですが、
どんなに「絵が苦手なんです」「美術はダメだから」という人でも、その人の表現が生き生きと“個性”として現れ、味わい深い素敵な作品が出来上がるようなプログラムになっているのです。本当に。

ですから、初めは恐る恐る参加していた方も、作品が出来上がるとご自身ですごく驚かれて、嬉しそうに作品の写真を撮ったりします。
「家に飾ろうかな」「お母さんに見せたい」と自分の作品を誇らしく思う方が多いのです。

日本の美術教育は「上手・下手」といった技巧の優劣で評価されることが多く、かつ「絵を描くときの物の見方」や「形の捉え方」といった基礎を教えるカリキュラムがあるわけでもないので、美術に対して苦手意識を持つ人は多いと言われています。小さい頃美術の授業で傷ついた経験がある方も、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか?

実際私の出会ったクライエントさんにも、「真っ白い紙とペンを渡されて自由に描いてと言われるのが怖い」と訴えるかたが多かったのです。小さい頃の美術の授業のトラウマを抱えたまま大人になって、今度は「あなたの好きに描いていいんだよ」「感じたままに表現していいんだよ」と言われても、「???どうやって???」「上手になんかできないよ???」と戸惑ってしまうのです。

「臨床美術」は、多くの人が抱えるこの“美術への苦手感”を実にうまく解消してくれるプログラムだと思います。
臨床美術では、絵が上手い・下手という評価は一切なされません。優劣も、点数もつけません。
それよりも、その人がモチーフと向き合って、どう感じたか、そしてそれをどう表現するかという「その人らしさ」、「その人にしかない感じ方」を何よりも大切にしているのです。

優劣でなく、その人のありのままを尊重する。だからこそ、セラピーとしても効果があるのですね。

例えば、臨床美術の定番プログラムに「りんごの量感画」というのがあるのですが、
このプログラムでは、1人ひとつのりんごが用意され、それをじっくり観察するところからプログラムが始まります。
林檎を触り、皮の質感を感じたり、手のひらに乗せて重さを感じたり、匂いを嗅いだり、実際に味わってみたり。
表面の様子をじっくりと見て、そこにある無限の色のグラデーションや、模様や、形を見出していきます。
とにかく林檎という摩訶不思議な物体とまじまじと向き合うわけです。
林檎なんて数え切れないほど見てきたはずなのに、こうやって向かい合うと、今までどれだけ「見て」いなかったのかがわかります。
(「これまで生きてきてこんな風に林檎を見たことなかった!」という声がよく聞かれます)

こうやって五感をフルに使ってモチーフと向かい合う体験は、脳の機能を活性化させ、
「今、ここ」に限りなく集中していることでマインドフルな状態に導いてくれます。

自分の中で林檎のイメージや発見を思い切り膨らませたところでやっと描き始めるのですが、今度は「中身から描く」という手法をとります。
それも、自分が感じた林檎の「中身」の色をひとつ選び、真っ白な画用紙に点を打つところから始めます。そしてぐるぐると実が育っていくようにパステルを広げていくのです。そこから皮を描き、ヘタを描き、削ったり重ねたり、切ったり貼ったりといろんな工程を経ていきます。はじめは不安そうにしていた人も、気がつくと夢中になってのめり込んでいきます。

このように、誰にとっても抵抗なく、楽しんでひとつひとつのプロセスを重ねていって、最終的にはものすごく魅力的な作品が完成するわけです。

臨床美術のプログラムはアーティストさんたちによって作られていますが、これらは絵の描き方や画材の性質を深く知っているアーティストでなければつくることのできないプログラムだと思います。絵を描くことの難しさ、楽しさ、素晴らしい作品に仕上げるために必要なステップを知り尽くしているアーティストだからこそ、作り手側の目線に立った、一人一人の魅力を引き出せるプログラムに仕上がっているのだと思います。

そして、完成した作品をみんなで(1対1の時はセラピストと)鑑賞しあうのも、この臨床美術の素敵なところです。
どの作品も本当に素晴らしく、またそれぞれ個性的です。ここでは皆さん自分の感じ方と他の人の感じ方の「ちがい」を見ることになるわけですが、どれも素晴らしいので、皆さん自然とその「ちがい」の良さを口に出して伝え合います。

「○○さんの林檎はすごく鮮やか!」
「○○さんのこの色合い、綺麗ね~。とても優しい色」
「これはつやつやしてたまらなく美味しそう!」

他の人がありのままに感じたことを、こうやって自然に認め合うことで、互いに「ちがい」を認め合い、受け入れ合い、尊重しあうことができます。これってまさにグループセラピーです。

臨床美術。私はあっと言う間にこの魅力に取り憑かれてしまい、イギリスにアートセラピーを学びに行く前に、「臨床美術士」という資格をとりました。今も勤務先の病院では、この「臨床美術」のグループセッションを実施しています。

イギリスのアートセラピーにはこのような「決まったプログラム」は用意されていません。
そこでのアートはあくまでも治療関係の上に成り立つものであって、臨床美術のようなワークショップ的な趣は一切ありません。
だからこそ自由度も高いのですが。

臨床美術とイギリスのアートセラピーは随分異なるのですが、私はそれぞれの良さに惚れ込んで使い分けています。
個人的には、臨床美術は「美術が苦手」と言う日本人にぴったりのプログラムだと思います。
もっともっと広まって欲しいし、この魅力をたくさんの人に体験してもらいたいです。
臨床美術を体験すると、ほとんどの方が「絵を描くってこんなに楽しいんだ!」と言ってくださいます。
アートへのトラウマを克服するのにもぜひ使っていただきたいですね。

世界中探してもこんなに緻密に作られたプログラムはないのでは?と思っています。まさに世界に誇れるアートセラピーですね。

臨床美術のワークショップや無料体験は、どなたでも、こちらから申し込むことができます。

yumit でも、この臨床美術のアートプログラムを実施しています。
※現在1対1での実施になります。
ご興味持たれた方は、ぜひHPよりお問い合わせください。

いかがでしたでしょうか。
今回は、「日本発の優れたアートセラピー 臨床美術」についてのお話でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今後もアートセラピーの魅力について、皆様にお伝えしていけたらと思っています。

また次のnoteで、お会いしましょう。

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