Seed 山種美術館 日本画アワード 2024
かつて山種美術館で開催されていた伝説的な展覧会。
それが、“今日の日本画 山種美術館賞展”。
松尾敏男さんや田渕俊夫さん、岡村桂三郎さんといった、日本画壇の第一線で活躍する画家たちを排出してきた登竜門的存在で、1971年から1997年までに隔年で計14回ほど開催されました。
そんな“今日の日本画 山種美術館賞展”が、2016年に“Seed 山種美術館 日本画アワード”と名前を変えて大復活!
隔年開催ではないものの、3年に1度のトリエンナーレ形式で開催されています。
第1回は2016年に、第2回は2019年に開催。
その流れで行けば、第3回は2022年に開催予定でしたが、コロナにより延期。
結果、5年ぶり第3回目となる“Seed展”は今年2024年の開催となりました。
応募作品は153点。
その中から厳選な審査を経て、45点が入選!
それら入選作品がすべて、今、山種美術館に一堂に会しています。
見事大賞を受賞したのは、北川安希子さんの《囁き―つなぎゆく命》。
沖縄の西表島を取材した作品だそうで、オオタニワタリが生い茂る熱帯雨林のような場所が、下から見上げるようなアングルで描かれています。
パッと見た瞬間に、ムワッとした熱気や湿気、植物や土の匂いまでもが伝わってくるようでした。
NHKのドキュメンタリー番組を観ているかのような臨場感。
いい意味で、従来の日本画のイメージを覆す作品でした。
大賞に輝くのも納得の一枚です。
続く優秀賞に輝いたのは重政周平さんの《素心蠟梅》という作品。
モチーフは、庭に植えられている蠟梅だそうです。
その葉をあえて青で描いたことで、冬の寒さ、空気の透明さがより伝わってくるようでした。
大賞は暑く、優秀賞は寒く。
寒暖差の激しい2作品ですが、どちらも、植物をモチーフにした作品でした。
まさに、Seed展にふさわしい大賞&優秀賞作品だったように思えます。
改めて、ご受賞おめでとうございます!
⭐️
さてさて、この他に、今回のSeed展では、特別賞に2人、奨励賞に6人が選ばれています。
驚くべきは、その8人すべてが女性だったこと。
性別なんて関係ないといえば、関係ないのですが。
現代の日本画の世界において、女性の活躍が進んでいるのは、純粋に素晴らしいことだと思いました。
なお、そんな受賞作で特に個人的に印象に残っているのは、奨励賞を受賞された仲村うてなさんによる《朱》という作品です。
仲村さんがモチーフにしているのは、日常生活で見過ごされがちな光景なのだとか。
この絵で描かれている光景に、もし、街中で出逢ってもスルーしてしまうかもしれません。
が、しかし、よく観てみると、木が電信柱を取り込もう(?)としています。
なんともシュールな光景ですね。
もしくは、あすなろ抱きをしているのかも。
「俺じゃダメか?」
そんなセリフが聴こえてくるようです。
それからもう一つ強く印象に残っているのが、特別賞(セイコー賞)に輝いた早川実希さんの《頁(ページ)》という作品。
一見すると、1枚の紙に、コラージュ風に、人物像が描かれているように思えましたが。
同じモデルに別ポーズを取ってもらった3枚の絵を描き、そのうちの2枚をカッターで切ったり、手でビリビリ破ったりして、
下地となる1枚の絵の上に貼り重ねて制作されたものなのだとか。
つまり、単純に考えて、3倍の労力がかかっているわけです。
さらに、丹精を込めて描いた絵を、自ら切り刻み、破るという苦行(?)もしているわけです。
・・・・・・・・何でそんなことしたのでしょう??
ありそうでなかった発想ながら、和紙に描くという日本画の特性を活かした、日本画でしかできない技法に、オンリーワンの才能を感じました。
面倒でしょうし、心は痛むでしょうが、このスタイルの今後の作品に期待が高まります。
ちなみに。
今年のSeed展には、早川さんの作品以外にも、チャレンジングな日本画が多くあったような印象を受けました。
例えば、桝谷友子さんの《8月9日》という作品。
ライトセーバーみたいな発光体かと思いきや。、彼女は長年にわたって、海景をモチーフに描き続けているのだそう。
ここ近年、どんどんシンプルになっているそうですが、よく見ると、この作品にも船やブイの影が描かれていました。
なお、左端から右端まで一気呵成に筆を走らせ、その線が積み重なることで、作品が完成するのだとか。
機織り機のような、スキャナのような独創的な制作スタイルです。
また例えば、矢野宏美さんの《Memory》という作品。
パッと見、カモフラージュ柄のようにも見えましたが、こちらは矢野さんが幼い頃より慣れ親しんでいたという、思い出の場所である用水路をモチーフにしたものなのだそう。
それを知った上で改めて、絵に目を向けると、水面に浮かぶ葉や、水面に反射している木のシルエット、
用水路の底の地面などが見えてきました。
その構図は、どことなくモネの「睡蓮」を彷彿とさせるものがあります。
ただ、そこに作者本人の場所に対する想い出、幼い頃から今に至るまでの時間の経過も絵にプラスされていて、
“何の変哲もない用水路の光景”以上の深みを感じました。
まだまだ紹介したい作品はありますが、紙面の関係で、全部紹介しきれないのが悩みの種(Seed)です。
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