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クレーの作品は「対話」が楽しい!


先日、上野で開催されている展覧会に行ってきました。


大きく宣伝されているのはピカソですが
ピカソと同じくらい充実していたのがパウル・クレーの作品群です。

パウル・クレーは1879年にスイスで生まれ、ドイツなどで活躍した画家です。
クレーの作品には、一目で人を惹きつける力があります。


まず色がとっても綺麗です!
(我ながら単純なことを言っていると思いますが、色彩の力は偉大です。)

『モスクの入口』
描かれているのはモスクの扉です。
扉を開けた先にある、美しいモザイク装飾をも連想させます。
絵全体が細かい升目に分かれていて、升目の1つ1つに色が塗られています。


液晶画面では分かりずらいですが、実物は本当に美しく、思わず見入ってしまいました。
一見すると無秩序な色の集合体に見えますが、その配色は計算し尽くされています。
暖色・寒色や明暗のコントラストにより、画面に引き込まれるような奥行が感じられます。


表現方法の多様さもクレーの魅力です。
油彩や水彩、ペン書きにとどまらず
画面に布や紙を貼り付けたり、石膏ボードや新聞紙を支持体にしたものまであります。

(展覧会の解説ボードには、作品の技法や使用された画材が書かれています。クレーの作品は他の画家と比べ、その記載量が多いように感じました。)

質感も描き方もバラエティ豊かで、何だか見ているだけでワクワクしてきます。

『ジンジャー・ブレッドの絵』
(油彩・ペン、インク、凹凸のある壁紙)
ジンジャー・ブレッドはクリスマスの定番の焼き菓子です。
壁紙に描かれており、画面に凹凸があります。
質感も色も本物のお菓子のようです!


『時間』
(水彩・ブラシ、石膏で地塗りをした層状のガーゼ、合板に貼りつけ)
石膏で下塗りをした合板に、3枚のガーゼを層状に貼りつけています。
素材が朽ちていく様子を連想させることで、時の経過を視覚的に表した作品です。



ぱっと見でも素敵なクレーの作品ですが、「綺麗」で「面白い」だけではありません。
興味本位で作品を見ていると、いつの間にかその世界観にどっぷりと浸ってしまいます。

クレーが描くのは、現実と空想が入り混じったような光景。
それは具象画のようでもあり、抽象画のようでもあります。

『ネクロポリス』
抽象画にも見えますが、色彩の帯が織りなす三角形はエジプトのピラミッドを表しています。
現実の風景がモチーフでありながら、描かれている光景はまるで別世界。
ネクロポリス=「死者の街」のイメージにぴったりです。



そのうえタイトルも何だか意味ありげです。
画面上の描写と作品のタイトルがどのように関連しているのか、自然と考えを巡らせてしまいます。

『黄色い家の上に咲く天の花(選ばれた家)』
作品が描かれた頃、クレーは第一次世界大戦のため兵役に服していました。
それを考えると、「選ばれた」というのも何だか意味深です。
黄色い家から天に向かって花が伸びており、
辛い現実を乗り越えるエネルギーを感じさせます。


『知ること、沈黙すること、やり過ごすこと』
女性はマリオネットのようで、何の感情も感じられません。
この女性が得た処世術は、無感情にその場をやり過ごすことだったのでしょうか。
彼女の境遇に思いを馳せてしまいます。


現実にありそうで現実にはない。
何が描いてあるのか分かりそうで分からない。
このリアリティラインが絶妙で、思わず「一体この絵は何を表そうとしているんだろう」と見入ってしまいます。


描写は幻想的でありながら、絵の中に入り込んだかのような臨場感があります。
画面から音が聞こえ、空気まで流れてくるかのよう。
作品から物語が溢れ出てくるのです。
(実際、クレーの作品からインスピレーションを得た詩なども作られています。)


『運命のファゴット・ソロ』
音楽を聴くと脳内で様々なイメージが生み出されることがあります。
そのイメージを可視化したかのような作品です。
ファゴットの妖しい音色が、私たちを幻想の世界へと誘います。  


クレーの作品は哲学的です。
彼はこのような名言を残しました。
「芸術とは見えるものを再現することではなく、見えないものを見えるようにすることである」

「目に見えないもの」を表現したクレーの作品は、作品自体が何かを強く主張してくるというより、鑑賞者が自由に想像する余地が多分に残されています。

だからといって、難解な表現で鑑賞者を突き放したりはしません。
むしろ、こちらから近寄りたくなるような親しみやすさがあり、作品が優しく語り掛けてくれているかのようです。

作品が鑑賞者にイマジネーションの材料を提供し、
それに応じて鑑賞者は、作品と真摯に向き合い作品の哲学を探求する。
こうした作品との対話できるからこそ、クレーの作品は何度見ても、長時間見ても飽きることがありません。

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