デジタルアートじゃなくても!描きかた次第で絵が動く
最近は『動くゴッホ展』など、デジタル技術を使って名画を動画にするプロジェクトがあります。
しかし画家たちは、コンピューターのない時代から、絵に動きを取り入れようと様々な工夫してきました。
動かない絵を動くように見せるため、彼らはどんな仕掛けをしたのでしょうか。
絵画で「速さ」を表現するには
静止画で描くのが難しそうな「スピード感」。これを見事に表した作品があります。
汽車がすごい速さで迫ってきます。早くよけないと轢かれてしまいそうです!
この迫力を表すために様々な工夫がなされています。
1細かいところはあえて省略
汽車は黒いかたまりのようです。遠目から見たらもはや何だか分かりません。
ですが、もし車輪の一つ一つまで細かく描かれていたら、このスピード感は伝わってこないでしょう。
まさに目にも止まらぬ速さが表現されています。
2極端な遠近表現
線路の角度が正面に対してほぼ垂直です。そのため汽車が奥からせり出してくるように見えます。
3絶え間ない大気の動き
汽車の勢いをさらに強調するのが、叩きつけるような大雨です。これは、画面全体を覆う白っぽくかすれた線で表されています。風雨の激しさが伝わってきますね。
作者のウィリアム・ターナー(1775~1851)は「どこで何を描いたかではなく、ひとつの印象を呼び起こすことが肝心」と語りました。
たしかにこの作品で表現しているのは「グレート・ウェスタン鉄道」の特徴というより、汽車の勢いそのものです。
タイトルの「速度」にふさわしく、汽車が起こす風まで感じられます。
現実をあるがままに写しとる
次の作品ももちろん静止画ですが、ビデオ録画のようなリアリティがあります。
波が砕け散る瞬間を捉えています。迫力満点で波の音まで聞こえてきそうです!
描かれているのは、曇り空と海と岩だけ。
何の変哲もない景色ですが、この「何の変哲もない」というのが最大の特徴です。
他の風景画でよくあるのは「美しい」自然や「抒情的な」風景。そこには、鑑賞者の感情を揺さぶってやろうという意図が少なからず感じられます(それはそれで素敵なのですが)。
一方この作品は、物語も、誇張も、ドラマティックな演出もありません。
定点カメラの映像のように、目の前の景色を淡々と映しています。
そもそも自然には人智を超えた力があります。そんな自然の迫力を表すのに、余計なアレンジを加える必要はなかったのでしょう。
作者のギュスターヴ・クールベ(1819~1877)は「私は天使は描けない。なぜなら見たことがないからだ。」という有名な言葉を残しています。現実を美化せず、客観的に描くことを徹底していたのです。
脚色がないからこそ、自然の動きが迫力満点に伝わってきます。
動きの徹底分析が生んだダイナミズム
個人的に、「動き」が最も伝わってくると思うのがこの作品です。
一連の動作を一つの画面にまとめて描いています。コマ撮りアニメみたいですね!
犬の足、尻尾、鎖、ドレスの裾それぞれの動作の過程が一目で分かり、動きに勢いが感じられます。「ダイナミズム」のタイトルがぴったりです。
この絵のもとになったのは、連続写真です。
連続写真というのは、連続した複数の瞬間を撮影した写真のこと。パラパラ漫画を一つの画面に表示したようなもので、動きを1段階ずつ捉えることができます。
連続写真を使うことで、動作の一つ一つを正確に把握しようとしたのです。
実際の犬の動きをしっかり研究&分析したからこそ、この躍動感が表現できたのでしょう。
作者のジャコモ・バッラ(1871〜1958) は、動きや速度といった概念を絵画で表現しました。
彼が活躍したのは、社会が急速に産業化していた時代です。バッラを含め多くの画家は、機械の動きや躍動感を絵画に取り入れようとしました。そうすることで、時代にふさわしい芸術、つまりダイナミズムやスピード感に溢れた芸術を生み出そうとしたのです。
止まっていても動いてる
絵画というのは瞬間を捉えるものです。
しかし今回紹介した作品は、その前後の時間の流れまでも感じさせてくれます。
静止画という制約の中に発揮される、画家たちの工夫を楽しんでみてください!