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【アーツ議連】コロナ禍とこれからの文化芸術振興/伊藤信太郎衆議院議員

2021年5月に立ち上げた文化芸術振興自治体議員連盟(略 アーツ議連)の第2回勉強会を開催しました!国会の「文化振興議員連盟」事務局長を長年務めた伊藤信太郎衆議院議員をゲストにお迎えし、「コロナ禍とこれからの文化芸術振興」について伺いました。

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2021年7月29日9:30⁻11:00

「コロナ禍とこれからの文化芸術振興」
講師:伊藤信太郎衆議院議員 聞きて:岡正己前橋市議会議員

●文化振興議員連盟と「文化芸術省」構想

Q:文化振興議員連盟とは?
A:文化振興議員連盟は、1977年に音楽議員連盟として発足し、2013年に音楽だけではなくて幅広の文化芸術振興が必要だということで文化芸術振興議員連盟となった。文化芸術推進フォーラムは23団体あり、音楽系、演劇系、映画系、美術系、写真系の団体も入りオールジャンルで活動している。
文化芸術振興議連と文化芸術推進フォーラムは両輪となって、日本の文化芸術振興のために何ができるかを考えている。文化芸術振興議員連盟は衆参両院、超党派145名で活動している。文化芸術を愛する政治家やそれぞれの専門家など文化芸術振興のために活動している。

2017年に文化芸術基本法を全会一致で可決し制定した。文化庁の予算は年間約1000億でパワー不足であるが経産省などと連携して文化芸術政策が予算面でも制度面でも充実するようにしていきたい。

文化芸術省を創ることが有効ではないか。文科省の一部ではなく、初めから文化芸術をやりたい人が入れる省として。現在の文科省の付属の文化庁では一生それに捧げたいと思う職員が集う場所になっていない

●コロナ禍での文化芸術

Q:コロナ禍での文化芸術の意義?
A:文化芸術というのはお金を目的とはしていないが、お金がなければできない。また、ジャンルによって有り様が違うので一様の行政では支援しきれない。今までの枠組みに囚われない支援が必要だと感じている。日本の文化予算はフランスに比べると5分の1で方法論でも脆弱である。コロナ禍では文化芸術家がお金を稼ぐ、特に若いアーティストは経済的に生きていくことが困難なので、その部分を法律などで救うことが必要である。オールジャンルで裾野を広く支援し、芽が出るまで支え続けることが理想である。また、何年もかけて準備してきた公演が失敗するなど、リスクを恐れていては、文化芸術活動はできない。失敗しても次があることが重要だ。沢山の団体において有り様が違うので同じ基準では支援ができないのが課題である。集約して言えば、まず文化芸術活動が幅広くできるための経済支援、劇場などの芸術文化の場を守る経済的支援を国、自治体で一緒になって支援していく。

Q:文化芸術振興の打撃、コロナ禍の現状は?
A:昨年は、いろんな分野が打撃を受けている中で、率から言うと文化芸術の打撃が一番である。ポピュラー音楽は8割ダウン、演劇も7割ダウン、全国の公立劇場の公演など5割から8割ダウンという状況である。5割から8割ダウンということは、スターは別としてほとんどの方が収入を得られていないという中で公演の中止などで生きていくのがやっとという方もいる。
大きな課題として、何年も前からの準備が前日になって中止になったり、今までの努力が水の泡になったりすると経済的にも精神的にも大きな打撃となる。文化芸術の支援は、中小企業などの支援とは違う。文化庁に劇団などに継続でするための経常費の支援が必要であると昨年強く要望した。1次、2次、3次で総額1000億の支援策は文化庁の年間予算とほぼ同額で経産省も入れると2700億に達した。あくまで公演をした場合の一部補助などで公演そのものができない場合には補助が出ないのが問題であった。公平性を考えたときに芸術団体によって規模が違うのでその業態に応じた支援の内容が一様ではないので難しい。圧倒的に経常的な支援が足らない(5000億の支援が必要)と感じた。また、文化芸術のオールジャンルの実態を把握していないことも問題。同じ団体でも月給なのか客演なのかで変わってくる。月給は企業の雇用調整助成金で対応できるが客演はできない。この世界の慣習とも言える不安定な収入を考えると文化芸術活動の共済制度共(削除)などが必要じゃないかと感じている。 

Q:コロナ禍によって逆に良かった部分はあるか?
A:客を入れる公演ができないので、動画配信などインターネットを活用しての文化芸術が発展した。また、日本の文化芸術界の不明朗な経理等、日本独特の芸能プロの仕組みなどの問題が炙り出された。芸能プロと芸能プロに属している俳優の関係が雇用なのか個人事業なのかによってできる支援が違う。これは今までの文化芸術の支援の形でいいのかを提起することになった。公的支援が必要なのは理解できるが、どういう形でどこからどういう収入を得ていたのかがわからないと公金は使えない。公金を使うということであれば透明性を持った契約や仕組みが必要である。共済制度を作るにおいても同じである。文化芸術の収入だけではないそれ以外の収入が大きい方もいる。一般の企業のように経理がクリアではないという問題もある。公的支援を受けたならクリアにする必要がある。

●これからの文化芸術振興を考える

Q:これからの文化芸術振興を考える:1年〜中長期的な部分と各自治体議員の動き 
A:芸術団体の新たな支援制度の設立を文科省、経産省に要望した。演出家、スタッフ個人の確定申告をもとに文化芸術継続支援制度の創出や固定費を含む支援制度など。
また、公演等の中止要請や観客入場制限の見直し、人流を減らせといってもほとんど劇場ではクラスターが起きていない。科学的根拠に基づいての制御が必要。

・中長期については 
・芸術家芸術団体が活動するためには法的基盤が必要 
文化芸術基本法に文化芸術支援が書き込まれていない。支援するのが法的に担保されている必要がある。
・組織の業態、規模、法人格等に応じた、経常費を含む支援が必要。オールジャンルの支援ができるように文化芸術省を作りたい。予算は今の5倍くらいが必要である。

Q:各自治体の現場でできることは
A:文化芸術基本法の4条 に自治体は国との連携を自主的、主体的に実施する責務がある。また2章には基本計画を立てるとある。それぞれ自治体の文化的特性、特色を生かしながら基本計画を立てていくことが重要である。二元代表制である市議会において市長に基本計画を立てるべきだと提案することもできる。 
コロナ禍に対応するために、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金が4.5兆円あった。使途はそれぞれの自治体に委ねられているが、医療体制の強化や観光業など様々な分野に使われていたこの予算を文化芸術支援に向けることもできた。文化芸術、祭り、伝統芸能などの支援に使う様に議員の立場で働きかけることも必要。

●まとめ

文化芸術は不要不急ではない。人間が生きる上では心の栄養として極めて必要なものだ。 コロナ禍から未来を創る上でその役割は大きい。文化芸術に携わる方々はエッセンシャルワーカーである。文化芸術は未来に継承されることが大事なのである。演劇などはやる方だけでなく観る方も大事だ。観る方を育てることは文化芸術の教育政策として普段から文化芸術の重要性を伝えることになる。

●アーツ議連メンバーから質疑応答

Q:文化芸術の作品発表だけではなく芸術家の普段の生活を支える?
A:公平性は問題になる。そのために共済制度などが必要だと考えている。ある分野で区切るなど一括りにできる業界ではない。音楽ひとつとってもジャンルはバラバラで収入のあり方も時間給などでは無く、時間と作品の価値は関係ない。著作権収入などいろいろな形での収入の形や、雇用形態も様々でとても多様性を持った業界である。共済制度の制度設計は難しいがやらないわけにはいかない。それぞれの芸術家が自分の芸術文化活動を個人事業で 事業収入として届けるという流れの中で8割9割を補填する。作曲家など作品によって波があるものもあるので100%完全なアイデアは確定しないが、均して共通項で作るなどするしかない。

Q:アーティストはメールのレスポンスが遅い、勝手に辞める等、基本的な社会マナーが違うなどの問題がある?
A:公的支援を受ける時には基準がなくてはならない。公的支援を受けるのであれば是正するしかない。公的支援の原資は国民の税金である。芸術文化に関わる人以外も納得しなければならない。文化芸術において法的な一定の基準を作るのは難しい。最終的には決める人の主観が関与してしまう。

Q:公正な判断という意味でアーツカウンシルは機能しているのか? 
A:専門家という意味では機能している。問題は誰がアーツカウンシルのメンバーを指名するのか、どうやって決めるのかという点。フランスの映画振興のためには、フランス国立映画センター(CNC)という組織がある。これはアメリカ映画を含め全てのフランスで上映された映画の収入の一部を集めてフランス映画の振興のために使うという仕組みがあるが、その時のCNCのメンバーの好みによって助成される作品が変わる。 メンバーが誰かによって助成対象作品が変わってくるのでメンバーを入れ替えることが重要。しかし、そこには政治的な駆け引きもある。文化芸術の振興には誰かの主観が入ってしまい、その時のマジョリティによって変わってくる。誰がメンバーを任命するのかなどは永遠の問いである。

Q:文化芸術の支援には舞台の技術面、道具などを制作される裏方も含まれるのか?
A:もちろん。文化芸術関係者とは全ての文化芸術関係者を指す。かなり幅広に見ている。例えば習字の場合、筆を作る職人、漆職人、和紙職人など関わる人達全て含まれる。
 
今、コロナ禍によって様々な文化芸術関係の技術力が失われるのを恐れている。公演などが中止になることで頑張ってきた人たちが辞めてしまう、辞めてしまう人が多くなると文化芸術の灯火は消えてしまう。経産省のコンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金(J-LODlive)と文化庁のアーツ・フォー・ザ・フューチャー(AFF)は中止になった公演にも出る。問題としては出す相手が制作会社だったりするのでその会社からスタッフに出さない場合もある。芸能プロ、派遣会社など2重のダムが存在する場合もある。しわ寄せが一番若い人に行きがちであるということを危惧している。
 
助成金審査の難しさにも直面している。 現場は大混乱である。文化庁は今までにやったことがなく、こういう補助金の出し方も初めてである。 外部委託している業者も文化芸術の専門家ではないのでよくわかっていない。今年は昨年とは違う事務局だが、ジャンルなどが多岐にわたるので事務局の把握が難しく申請から数ヶ月間などすごく時間がかかっている。 中には申請中に公演の日が過ぎてしまったものもある。
今後の課題として事務局そのものを育てる必要がある。外部に事務局を委託するがスタッフ教育から入らないといけない。現場が習熟していないと上司に聞く。上司でも判断できない場合その分野に詳しい人たちに聞くなどをしていると申請の時間がかかってしまう。緊急支援の在り様は事務局体制も含めて課題である 

Q:自治体においての専門職員、人事ローテーション上、必ずしも文化芸術に深い興味のない人が担当することがある。指定管理者とのあるべき関係が構築できない等
A:文化芸術省を創りたいというのも同じこと。人事ローテーションの考え方になるが、文化芸術のそれぞれのセクションは外部人材も含めて任期付きで雇用するなど。そういう人は一定の嗜好を持っているので危険性としては文化政策が選ぶ人の好みに染まってしまうということもある。そういう意味では公平性と専門性の二律背反の問題がある。地域、役人、民間などのバランスを取りながら偏らせないため2年〜4年で入れ替えることも有効。

●おわりに

「文化芸術に貴賎なし」
創る人と同時に鑑賞する人が重要である。教育が大事なのである。全ての小中学校に優れた演劇を観せるなど小中学校の時から文化芸術に触れることで、プロまで行かなくてもそういう活動をすることにつながっていく。幅広に観せることが重要。中学校くらいからはチョイスがあっても良いが、公教育の中でも様々なジャンルを見せる。教科書から離れて教えることも必要。観客として観ている中で仕事にしたい人などが出てくる。その部分も含めて裾野を広く、森の中から松明ができるように。

違ったものを観せることが重要である。その違いの間に文化が生まれる。違うものを見ると疑いが出てくる。疑いの中からアートが出てくる。これは地方では特に大事である。公的機関は規制なくオールジャンルで選択肢を増やしていくことを心がけるべきだ。

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