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テアトル図書館へようこそ!(株式会社横浜メディアアド)

横浜は、異国情緒あふれる港町、みなとみらいのビル群の風景としてよく知られていますが、郊外にいくと古墳や宿場町といった旧跡があり、鉄道沿線に住宅が立ち並び、森や川、広々とした公園など自然が豊かで四季折々の風景があります。

YokohamArtLifeは、こうした横浜ならではの環境を生かして、アートプロジェクトを実施し、地域と共に芸術体験を深めていくことを試みました。その結果、予期せぬコロナウイルス禍のなかでも、各地で芸術と住民の出会いを生みだし、寄り合える居場所やそこで行われる芸術活動の大切さを地域と共有することができました。

このマガジンでは、すでに発行したYokohamArtLifeの「2019年度-2020年度 横浜市芸術創造特別支援事業リーディング・プログラム YokohamArtLife ヨコハマートライフ報告書」(PDF:28MB)から、実際の活動や仕組みづくりに協力してくださった学識者の言葉を抜粋して、ご紹介します。


2020年度YAL(ヨコハマートライフ)採択プロジェクト「テアトル図書館へようこそ!」(株式会社横浜メディアアド)の取り組みをご紹介します。


いつもの図書館が、劇場に変身する!


株式会社横浜メディアアドが指定管理する、かなっくホール(神奈川区民文化センター)が、市民にとって身近な公立施設である横浜市内各区の図書館を会場に、打楽器(ヴィブラフォン)奏者1名とプロの舞台俳優2名による、木村裕一作『あらしのよるに』『あるはれたひに』(講談社刊)の抜粋版を上演しました。

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港南図書館にて:おおたこうじ撮影(2020年度)※同TOP画像


取組みの参加者には、森や嵐の音、草がそよぐ音などの効果音を、自分の体をこすったり、床を踏み鳴らしたりすることで自由に表現して、上演に参加してもらいます。また、会場には造形作家の玉田多紀が制作したダンボールによる動物のかぶり物も展示しました。

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戸塚図書館にて:おおたこうじ撮影(2020年度)


この取り組みは、神奈川区、金沢区、港南区、瀬谷区、都筑区、鶴見区、戸塚区、西区、緑区の9区の図書館で行われました。図書館という生活に身近な場で芸術体験を行ったことで、普段なかなか芸術文化活動に参加することができない方や初めて芸術文化活動に参加する方にも届けることができました。

▶ 2020年度のプロジェクトによる報告書はこちら


劇場ではないからこそ深められる芸術体験とは?


そんなかなっくホールが図書館を舞台に選んだ理由は、図書館が、市民の身近に存在し、たくさんの人が来られる出入り自由な開かれた場所だからです。この活動の参加者の中には、区民文化センターには行ったことがない、という方もあったので、テアトル図書館へようこそ!の活動は、多くの方に区民文化センターのことを知ってもらう良い機会となりました。

「テアトル図書館」を実践してみて、知ってもらうこと以外にも意味があることが分かりました。一つは図書館をさらに開かれた場へと変えていけるということ。もう一つは芸術体験を深めることです。かなっくホールは、今までにも多くの芸術アウトリーチ活動(学校や施設といった、芸術専門施設ではない所に、本格的な芸術体験を持っていくこと)を行ってきた経験から、芸術アウトリーチには、劇場とは異なる体験があることを実感しています。

(テアトル図書館へようこそ!の上演の様子は上記のyoutubeからご覧いただけます)

今回のテアトル図書館の演目「あらしのよるに」の音楽劇では、図書館という身近な場所を劇場に変えるため、参加者の方に、上演前のワークショップで劇中の効果音を考えてもらい、劇中で自分の体を使って効果音を表現し、演劇に参加してもらいました。

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鶴見図書館にて:おおたこうじ撮影(2020年度)


そうすることで、図書館のカウンターの前でも、劇中の風景を想像しやすくなるのです。劇場では機材などがあり表現を実現しやすい。でも、図書館ではそうはいきません。その制約が新たな表現を生み、新たな表現が観客の想像力を掻き立てるのです。

芸術と図書館のような公共空間に新たなつながりを作ることで、人々が芸術にアクセスするときの選択肢が増え、個々人それぞれの芸術体験を生み出すための環境づくりがすすんでいくのではないかと期待しています。

※かなっくホールプロデューサー、齊藤実雪さんへのインタビューを元にYAL事務局で執筆しました。


プロジェクトを振り返って

この文章は、かなっくホールプロデューサー、齊藤実雪さんによるテアトル図書館へようこそ!報告書の「まとめ」より抜粋しています。


参加者のみならず、開催した各図書館からもご好評をいただきました。例えば、事業終了後に『あらしのよるに』とその関連本の貸出数が普段より多かったときいております。

終演後の挨拶で「このお話を選んだのは、オオカミのガブとヤギのメイが友だちになるありえない友情物語だったからです。自分のことを少し我慢する、そして相手のことを少し信じてみる。そうしたらたくさんの友だちが作れるようになる、世界平和にもつながるかもしれない?皆さんにお伝えしたいテーマがこの本にあると『あらしのよるに』に決めました。『自分のことを少し我慢する、相手のことを少し信じてみる。』そうやってたくさんの友だちを作って下さい」と参加者の皆様にお伝えしました。

私の言葉からも「友情の大切さ」を感じてくださった方がいらっしゃいましたし、ストーリーからそれを読み解いた方もいらっしゃいました。


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金沢図書館にてスタッフ、出演者と共に:おおたこうじ撮影(2020年度)



13歳の男の子が「友情関係を大事にしようと改めて思いました。久しぶりに『あらしのよるに』を聞いたので、とても楽しかったです」と書いてくださった回答は何よりも嬉しかったです。

今後も近隣文化施設と連携し、公立図書館が劇場機能を持ち、文学作品とそこから発生する芝居などのパフォーマンスを横浜市民が身近に気軽に楽しみ、図書館発信の芸術がどの人の幸福をも増進させることが出来ればと期待します。

『テアトル図書館へようこそ!』の報告書は こちら (PDF:5MB)
実際の取り組みの様子もご覧いただけます(YouTube
YALが目指すゴールに向けてどのような歩みがあったのか、そして、各参加団体が自分たち自身の活動をどのように振り返っているのかは、以下の報告書に取りまとめていますので、ご覧いただければさいわいです。
▶すべての取り組みの報告書は、こちらから(ACYウェブサイト)

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