解決は1行 | 本とサーカス
解決は1行
著者 細田 高広
出版社 三才ブックス
発売日 2019.4.12
現代における高いコミュニケーション能力とは「最小限の言葉で最大の効果を生むこと」であり、「大切なことは1行あれば伝えることができる」と著者は主張する。
例えば、あなたが新しいキャンプ道具の物欲に耐え切れず、妻に相談を持ちかける場面を思い浮かべていただきたい。
「あのさ、そろそろ夏じゃん? 夏といえばキャンプじゃん? 以前から僕が話してたコールマンのテント、買っちゃおっか?」
食器を洗っている妻の背後にすり寄り、下半身を左右にくねらせながらそう話しかけたところで、「うちのぉどぉこにんな金があんでぇぁらぁ!!!(我が家のどこにそんなお金があるんですか!)」と唾と皿が飛んでくるだけである。
このように、こちらの目的を一方的に相手に押し付けるだけでは逆効果だ。相手のココロを動かし、自発的に動いてもらう(=内初的動機)よう働きかけなければ、難易度の高い頼みごとを成功させることはできない。
では、どうすれば妻のココロを動かせるのか?
こんな時は本書p.118に掲載されている以下の広告コピーを、妻の背中に向け囁くように呟いてみてはどうだろう。
「夏の1日は長いのに、どうしてひと夏は短いのだろう(ららぽーと)」
おそらく、あなたの妻は何かを感じ取り、食器を洗う手を止めるはずだ。「な、なによ急に」とでも言うかもしれない。そしたら、あなたは躊躇なく妻の背後に一歩迫り、こう囁く。
「家族でみんなで見られる夏の星空は、人生の中でたった<※6ヶ月>なんだってね」
本書p.39の『反論できない事実を突きつける 最強エビデンス法』を活用した一行である。
あなたの妻は目を丸くし、ゆっくりと首を後ろに捻る。間違いない。
こうなれば、もうゴールにキーパーがいないようなものだ。ロマンチストなあなたなら「そこまでくれば、あとは後ろからそっと抱きしめるだけでしょ?」と考えることだろう。ぴゅ〜😙
たしかに、無人のゴールにはノールックでも枠を外すことはほぼないが、「QBK」という言葉があるように、油断は禁物である。いくらポジショニングが良くても、シュートを外せば何の意味もないのだ。
はやる気持ちを抑え、妻の肩越しから顔面を突き出したあなたは、低音を響かせた声で耳元でこう囁く。
「その時間を、一緒に買わないか?」
ぶん殴られるだけだろう。
くだらない戯文はさておき、改めて。
本書は日々のコミュニケーションはもちろん、プレゼン、会議などのビジネスシーンにおいて「課題はたった一行で解決できる」ということを示した、著者のコピーライターとしての思考と経験が凝縮された一冊である。
冒頭の事例からいきなりイイ。
ハリウッドでは日々いくつもの新しい企画が生まれ、次々に却下されていく。そんな競争が激しい業界では、デビューを目指す若手脚本家へのお決まりのアドバイスがあるという。それが、
「スタジオの重役とエレベーターに乗って、次に扉が開くまでの時間でプレゼンできるように準備しろ」
つまり、その短い間で重役の「心」を動かすような、シンプルかつ魅力的な提案ができなければ脚本のゴーサインが出ることはない、ということだ。
映画「エイリアン」は「宇宙船を舞台にしたジョーズをつくろう」という一言から始まった。「ジョーズ」はご存知の通り、船の上の人間が凶暴なサメに襲われるという話。上記の一言は、誰もが知っている既存の作品を使い、シンプルな言葉で即座にイメージを共有できる。
このように、本当に斬新なアイデアはシンプルなひと言で伝わり、人をドキドキさせるもの。さすがである。
私は本書に記載された25の技法を読み進めながら、あまりの説得力に「はいはいはいはい」と感嘆と共感の混じった声をあげ、首肯しまくっていた(鞭打ちになりそうである)。ただ、その技法もさることながら、それらを応用した数々の広告コピーの事例に、私はいちいち「うぅぅ…わっ...まじかよ(すげぇ)…….」と深い溜息を漏らさずにはいられなかった。
というわけで、筆者がイイ!と思った広告コピーを以下に列挙し、この読書レビューを締めようと思う。
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