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Q57 SNS上の権利侵害

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 手書きのイラストにサインを入れたうえで、ブログに載せていたところ、ツイッター上で勝手に他人のプロフィール画像に利用されたり、投稿されたり、拡散されている。どのような主張が可能か。

Point

① 投稿者の著作権法上の責任
② 拡散した者の著作権法上の責任
③ 不法行為責任
④ 権利救済の手続


Answer

1.はじめに

 インターネット利用者のうち、SNSを利用している者は69%に上り(総務省「令和元年通信利用動向調査の結果」(2020年))、SNSは広く普及している。SNSには、それぞれさまざまな特徴があるがたとえば、代表的なSNSの1つであるフェイスブックの実名利用率は84.8%であるのに対し、ツイッターの実名利用率は23.5%であるとされ(総務省「平成27年度版情報通信白書」(2016年))、フェイスブックでは、実社会の知人・友人を中心に交流をもつ人が多く、トラブルが法的紛争にまで発展する例は少ないのに対し、ツイッターは、匿名性の高さや利用の気軽さが相まって、SNSの中でも比較的トラブルが起きやすく法的紛争に発展することも少なくない。そこで本稿では、ツイッターを中心としたSNS上の権利侵害につき、論じる。

2.投稿者の著作権法上の責任

 ⑴ 他人の著作物を無断でツイッターのプロフィール画像に利用する行為
 手書きのイラスト(以下、「本件イラスト」という)は、通常絵画の著作物(著作権法10条1項4号)に該当するところ、本問のように他者が創作した著作物を、SNSのプロフィール画像として無断で利用することは、著作者の複製権(同法21条)および公衆送信権(同法23条1項)の侵害になる。
 また、執筆時点(令和2年11月)のツイッターの仕様では、プロフィール画像を登録する際に、利用者は画像をアップロードしたうえで、トリミング範囲を決定し、画像を円形にトリミングする必要がある。このようなトリミング行為は、著作者の同一性保持権(著作権法20条1項)を侵害する。さらにトリミングに際して、サイン(著作者名の表示)が表示されなくなるようなトリミングを行えば、氏名表示権(同法19条1項)の侵害にも該当する。
 ⑵ 他人の著作物を無断でツイッターに投稿する行為
 本件イラストを著作者に無断でツイートする行為は、著作者の複製権および公衆送信権を侵害する。また、後述のリツイートの場合と同様、著作者人格権侵害が成立しうる。
 なお、①引用の公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われ(著作権法32条1項)、③出典を明示した著作物の利用は(同法48条1項1号)、引用による利用として著作権侵害が成立しない。しかし、①②を満たすためには、引用する部分とされる部分に主従関係があることや、両者が明瞭に区分できることが必要であるところ、140文字という文字数の制限があるツイッターにおいて本件イラストを投稿した場合、引用の要件を満たすツイートはまれであろう。

3.拡散した者の著作権法上の責任

 ⑴ リツイートのしくみ
 Aが投稿した本件イラストのツイートをBがリツイートすると、Bのタイムライン上に本件イラストが表示される。これは、Bのリツイートにより、BのタイムラインのウェブページにAのツイートの画像ファイルのURLへのインラインリンクが自動的に設定されるためである。インラインリンクとは、ユーザ(Bのタイムラインの閲覧者)の操作を介することなく、リンク元のウェブページ(本件イラストをリツイートしたBのタイムライン)が立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブページの画面またはこれを構成するファイル(Aのツイートの画像ファイルのURL)が当該ユーザの端末に送信されて、リンク先のウェブページがユーザの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいう。
 リツイートがされると、リツイート画像のトリミングを行わなくても、画像の大きさ、位置、リンク先等を指定するプログラム(HTML、CSSプログラム等)がリンク元のウェブページからユーザの端末に送信されることにより、ユーザの端末に、元の画像等とは縦横の大きさが異なった画像や一部が

トリミングされた画像(以下、「トリミング画像」という)が表示されることがある。
 ⑵ 他人の著作権を侵害するツイートをリツイートする行為
 上記のとおり、リツイートとは、インラインリンクをリンキングする行為をいう。リンキングについては、新たに元のサーバに著作物が複製されたり、リンク元のサーバから著作物が公衆送信されたりすることはないことから、判例学説上、複製権侵害や公衆送信権侵害は成立しないとする見解が有力であり(中山信弘『著作権法〔第3版〕』309頁、大阪地判平成25・6・20判時2218号112頁〔ロケットニュース事件〕等)、リツイートについても同様に考えられる。リンキングについて、公衆送信権侵害の幇助を認める裁判例もあるが(札幌地判平成30・6・15(平成28年(ワ)2097号)〔ペンギンパレード事件〕)、前掲大阪地判平成25・6・20もリンクを貼る行為につき、公衆送信権侵害の幇助が成立する可能性を示唆している)、知財高判平成30・3・24判時2382号24頁〔リツイート事件〕は、リツイートによるリンキング行為につき、公衆送信権侵害とその幇助を否定した。
 他方で、前掲知財高判平成30・3・24は、他人の著作物を無断でリツイートした者につき、リツイート者による積極的なトリミング行為がなくとも、リツイートの結果として送信されたHTML、CSSプログラム等により画像の位置や大きさなどが指定され、トリミング画像が表示されていることから、リツイート者により画像の改変が行われたとして、同一性保持権侵害が成立することを認めたうえ、タイムラインに表示されたトリミング画像には、著作者名の表示(サイン)部分が表示されていなかったため、氏名表示権の侵害も認め、上告審である最判令和2・7・21裁時1748号3頁は、氏名表示権侵害に係る上告受理申立理由のみを取り上げたうえで、原審の判断は是認できるものであるとして、上告を棄却した。
 もっとも、あらゆるリツイート行為につき、このような著作者人格権侵害が成立しうるのかというとそうではなく、ツイッターの利用規約上、ツイッター利用者はツイッター社に対し投稿したコンテンツを複製、改変するためのライセンス(サブライセンスも含む)を許諾することとされていることから、著作者自身が投稿したコンテンツをリツイートする場合、当該リツイート者は、リツイートに伴い当該コンテンツを改変等する権利をツイッター社からサブライセンスされていると考えることができる。したがって著作者人格権侵害の問題が生ずるのは、出所がはっきりせず無断掲載のおそれがある画像を含む元ツイートをリツイートする場合に限られよう(前掲最判令和2・7・21の林景一裁判官の補足意見も参照)。

4.不法行為責任

 上述した著作権または著作者人格権の侵害行為は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)等の対象になる。また、SNS上で第三者が本件イラストの著作者であるかのようになりすましたり、本件イラストを誹謗中傷する投稿を行った場合、名誉毀損等による不法行為が成立し得る(著作権に係るものではないが、インターネット掲示板におけるなりすまし行為につき名誉毀損等による不法行為を認めたものとして東京地判平成16・11・24判夕1205号265頁)。

5.権利救済の手続

 SNSには、権利侵害行為につき、運営会社に利用規約違反を報告し、投稿等の削除を求めるフォームが用意されており、当該求めに応じ、投稿等を削除してもらえる場合も多い。なお、違法な投稿等を削除すべき義務が認められるにもかかわらず、これを放置すれば、運営会社としても不法行為責任を負いうる。
 他方で、問題の投稿等をひとまず削除等してもらえたとしても、侵害者に対し損害賠償請求など、法的措置を講じたい場合もあろう。侵害者が匿名でSNSを利用している場合には、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づき発信者情報の開示を受け、侵害者を特定する必要がある。しかし、SNSの運営会社は、侵害者の氏名や住所等の情報を保有していないことが通常である。そこで、匿名の侵害者を特定する手続としては、①SNSの運営会社に対する発信者情報開示仮処分の申立てにより、IPアドレスおよびタイムスタンプ等の発信者情報の開示を受けた後、②当該IPアドレスの経由プロバイダをWHOIS検索等で調べ、③経由プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟の提起により、侵害者の氏名、住所、メールアドレス等の情報の開示を受け、侵害者を特定する必要がある。
 SNSの運営会社は、各投稿時のIPアドレスおよびタイムスタンプを保有しておらず、ログイン時のIPアドレスおよびタイムスタンプしか保有していないことが多いところ、ログイン時のIPアドレスおよびタイムスタンプに係る発信者情報は、投稿とは無関係で「権利の侵害に係る発信者情報」といえないのではないか問題になることがある。しかし、SNSのアカウントは、利用者がパスワード等を入力してログインしなければ利用できないこと等から、アカウントにログインするのはアカウント使用者である蓋然性が認められるとして、ログイン時のIPアドレスおよびタイムスタンプの発信者情報該当性を認める裁判例もある(東京高判平成26・5・28判時2233号113頁など)。また、令和3年4月21日に、プロバイダ責任制限法が改正された(公布は令和3年4月28日。施行は公布の日から1年6ヵ月を超えない範囲で政令で定める日)。改正法では、上記①のSNS運営会社に対する開示請求と③の通信事業者に対する開示請求を1つの新たな裁判手続(非訟手続)で行うことができることとなるほか、発信者の特定に必要となる場合には、SNS等のログイン時の情報の開示が可能となるよう、開示請求を行うことができる範囲についても改正が行われることとなるなど、権利救済が容易になることが期待される。

執筆者:若松 牧


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