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Q42 映画投資契約

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 投資家からの投資を得て、映画製作を行う場合、権利の帰属はどのようになるか。映画製作者、投資家それぞれの観点から、どのような点に気をつけたらよいか。

Point

① 映画製作における投資家の役割
② 映画の著作権
③ さまざまな投資の形態(クラウンドファンディングなど)


Answer

1.映画における投資家の役割

 映画製作において、資金の手当ては、映画の内容、出演者などとともに最も重要な要素の1つである。資金なくして映画撮影はできないといっても過言ではない。
 日本においては、映画製作にかかわる各当事者がそれぞれの権利義務に従い、映画製作における役割を果たす「製作委員会方式」が採用されることが多く、民法上の組合としての性質を有する製作委員会のメンバーが資金を出し合い、映画製作を行うことが多い。しかし、製作委員会方式をとらず投資家から投資を募って製作を行う場合、製作委員会方式をとりつつも投資家から資金を調達して映画製作を行う場合もある。また、近時は、「クラウドフ
ァンディング(Crowd Funding)」により、多くの人から少額の資金を集めて、映画を製作することも多くなってきている。
 投資は、一定のリスクのある事業に資金を投じて、当該事業からの利益を得るために行われるのが一般であるが、映画への投資は、一般の投資における利益の獲得にとどまらず、企業などの社会的貢献や文化への寄与、個人による映画製作者に対する支援など、単に投資した事業からの金銭的な利益の回収にとどまらない目的を有していることが多い。その意味で、投資家は、映画製作を支える重要な役割を果たしている。

2.映画の著作権

 映画製作に投資した場合であっても、投資のみでは、映画の著作物の製作に発意と責任を有する者(著作権法2条1項10号。「映画製作者」)とはいえず、また映画の著作物の全体的形成に創造的に寄与した者(同法16条。「映画の著作者」)ともいえないため、著作権の譲渡(同法61条)などの特段の合意をしない限り、いくら高額の投資をしたからといって、映画の著作権が投資家に帰属するわけではないことを確認しておく必要がある。投資家は、あくまでも金銭的に映画の製作に関与する者であり、映画製作に創造的に寄与する者ではない。
 他方、映画製作者は、映画の著作者が映画製作者に対し、当該映画製作に参加することを約束しているときは、当該映画の著作権を有することになる(同法29条1項)ため、製作される映画の著作権に譲渡担保等の担保権を設定して、銀行などからの融資を得て、映画製作を行うことも考えられる。銀行などの金融機関が映画製作に出資することは現在の日本においてはまだ事例が少ないが、完成した映画の著作権に担保を設定し、映画の著作権を責任財産として、上演やビデオグラム化などの映画から得られる利益から融資額を回収するという「ノン・リコースローン」の方式をとることも可能である。
 また、映画製作者は、映画の著作権を信託会社に信託し、信託により取得した受益権(信託法2条7項)を第三者や信託会社に売却し、映画そのものからの利益を待つことなく、受益権の売買代金として、製作費用を回収することができる。この場合の信託会社は、受益権を細分化し、一般投資家に売却することもできる。投資家は、映画の著作権の受益権を購入することにより、その映画から得られる利益の分配にあずかることも可能である。

3.映画製作者が投資家を募る場合、どのような点に注意すべきか

 映画製作者が投資家を募る場合、その映画の内容(原作の有無、脚本など)や監督、出演者、上映時間、映画に必要な費用、映画の完成時期、上映の規模、必要とする投資の額、投資された金銭に対する返済の可否・方法などを明確に示したうえで、資金の提供を依頼することが必要となる。投資された金銭に対する返済の可否や順序、方法などについては、依頼する相手によって異なることもありうる。
 映画製作者は、製作しようとする映画への投資が投資を依頼する相手にとってどのように魅力的であるのか(金銭的な回収が見込める、すばらしい映画に参加できる、文化への貢献、映画へのクレジット表記プレミア試写会への招待など)とともに、投資された金銭に対する返済の可否、順序、方法などについて、誤解のないように十分な説明を行い、書面の準備・交付によって明確にしておくことが肝要である。特に、大口の投資に対しては、投資によって得られる権利(映画の著作権に対する担保権など)の有無を明確にし、返済の順序・方法などについても明確に定めておく必要がある。
 また、多くの人から出資を集めるために匿名組合(商法535条)、有限責任事業組合(有限責任事業組合契約に関する法律)、投資事業有限責任事業組合(投資事業有限責任事業組合契約に関する法律)合同会社(会社法575条)などの資金調達の受け皿となる「投資ビークル」を利用する場合、金融商品取引法上、集団投資スキーム持ち分として、その販売・勧誘において、さまざまな行為規制が存在する。広告の規制(金融商品取引法37条)、契約締結前・契約締結時の書面交付義務(同法37条の3、37条の4)や、適合性の原則(同法40条)など、投資家保護の各種規制があることに注意を要する。

4.映画に投資をする際に気をつけるべき点

 映画に投資を行う場合、すでに撮影が始まっているような場合を除いては、予定される映画の内容や出演者、監督をはじめとする映画にかかわる者の経歴、原作、脚本などを判断要素として、未完成の当該映画に出資するか否か、出資をする場合、どの程度の金額を出資するのかを検討する必要がある。
 また、原作者からの許諾が十分に得られているか、監督や出演者との契約が適切に締結され上演に支障を及ぼすことはないか、主たる出演者の健康やスキャンダル等のリスクへの配慮がなされているか、自らの出資を含む集められた資金が計画どおりに使用されるのか、映画製作が予定どおりに進んでいるのかどうか、またそれらの確認方法などについても事前に十分な説明を受け、確認をしておく必要がある。さらに、必要に応じて、映画製作者から完成保証の誓約書を入手するなど、出資された資金が映画完成に適切に使われることを担保しておくことも重要である。
 映画完成後の配給・上演計画についても確認を行い、当該計画がその映画に適切なものかどうかについても慎重な判断が求められる。
 映画の興行が成功した場合の利益の配分についても、どのような順序・方法で行われるのかについて十分に確認をし、場合によっては映画製作者との間で交渉を行い、利益配分の条件を変更することも検討すべきである。たとえば、映画館での上映による利益のみから利益の配分を受けるのか、DVDの販売やテレビでの放映、インターネットでの配信による利益からの分配も受けるのかでは、投資の見返りが大きく変わることがある。

5.クラウドファンディングにおける注意点

 クラウドファンディングにより、映画製作を支援する場合、通常の映画への投資と異なり、「投資」の対価は、投じた金額に応じて、映画のチケット、プレミア試写会への参加、エンディングのクレジットロールへの掲載などであることが多い。クラウドファンディングを扱うサイトやファンドレイジング(資金集め)の方法にもよるが、寄付によるプロジェクトのサポート(寄付型)、事前のチケット等の購入(購入型)、といった形式をとるものが多い。クラウドファンディングに参加することにより、誰もが少額の出資により映画製作を支援することが可能となるが、通常の出資と異なり、映画の興行が成功した場合であっても、興業成功による利益の分配にはあずかれない場合が多いことも確認しておく必要がある。また、映画製作者の希望額に満たなかった場合にはファンドが生成しない、希望額に満たなかったとしても当該映画の資金として寄付される、といったクラウドファンディング特有の募集条件についても確認しておく必要がある。寄付は行ったものの、結果として、映画が完成しなかったというリスクはクラウドファンディングにもありうる。インターネットを通じて、クレジットカードなどで手軽に行えるクラウドファンディングであるが、映画が完成しないことによるリスクや原則として利益分配にあずかるものではないことなどを確認しておく必要がある。
 映画製作者がクラウドファンディングにより製作資金を集めようとする場合、当該映画の内容(原作、脚本、監督、出演者など)について具体的に示し、その魅力を存分に伝えたとしても、映画の製作規模によっては、製作費の多くをクラウドファンディングにより賄うことは難しいことを理解しておく必要がある。実際のクラウドファンディングにおいても、製作費の一部、ポストプロダクションの一部、海外映画祭への参加費など、具体的に必要とされる映画製作の一部の資金を集めるために利用されることが多いようである。また、映画製作者によっては、資金集めとしてよりも、映画の宣伝としての性質を重視してクラウドファンディングを利用することもある。クラウドファンディングに応じる「サポーター」に対して、製作の進行をニュースレターで配信するなど、映画完成前に当該映画のファンをつくるという面を重視した対応なども検討されるとよいだろう。

執筆者:笠原智恵


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