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芸術文化団体の持続的な活動支援講座 第1回「助成金の活用の基礎知識」


この講座は、東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」総合オープン特別企画として、全3回シリーズでお届けする「芸術文化団体の持続的な活動支援講座」(講師:山田泰久)の第1回「助成金の活用の基礎知識」です。講座はnoteに掲載するテキスト講座と、YouTubeに公開する動画講座(手話通訳、日本語字幕あり)の2形態があり、アクセスしやすい方を選んでご活用いただけます。


芸術文化活動の主体

芸術文化活動は様々な主体によって行われています。アーティスト個人による活動もあれば、団体による活動もあります。団体の組織形態も、NPO法人や任意団体といった法人格の有無、非営利組織/営利企業の区分、あるいは実行委員会形式やプロジェクトベースの期間限定のものもあります。法人格がある非営利組織としては、NPO法人や一般社団・財団法人、公益社団・財団法人、社会福祉法人等 があります。法人格のない団体には、市民や学生主体のサークルやボランティア団体、伝統芸能のための地域住民組織、イベント開催のための実行委員会などがあります。さらに、プロ/アマチュアの区分や、教育を目的とした小中高校や大学などの教育機関、営利を目的とした株式会社もあります。アーティスト個人の活動を含めて、芸術文化活動の担い手は本当に多種多様です。
芸術文化活動の支援制度は、多様な実施主体がいる中で、全てを対象にしているものはありません。支援制度は、個人/団体の区分、組織形態、活動内容によって、利用できる芸術文化活動の支援制度が違ってきます。さらに、芸術文化分野の枠を越えて、組織形態によっては非営利組織に対する支援制度、中小企業等を対象にした経済・産業分野の支援制度、あるいは人を雇用している事業者を対象にした各種制度を利用することができます。

このコラムでは、芸術文化活動を含む、非営利組織が行う公益活動に対する助成金の基礎について、紹介します。なお、助成金といえば、団体を対象にした資金援助となりますが、芸術文化分野の助成金ではアーティスト個人を対象にしたものもありますので、次回のコラムで紹介します。

芸術文化団体が利用できる助成金・補助金

芸術文化活動団体が利用できる助成金・補助金には、主に3つのカテゴリーがあります。

1.芸術文化分野に関する助成金・補助金
2.非営利組織・活動を対象にした助成金・補助金
3.営利・非営利を問わず事業者を対象にした助成金・補助金(雇用に関す  
  る助成金等)

1と2については、国や自治体、独立行政法人、あるいは民間の助成財団や企業等が主な資金の出し手となっています。ちなみに、この1と2は重複しているケースが多いです。3については、国や自治体などによる公的支援となっています。また、1と2は活動や事業に対する資金援助で、3は法人の経営・運営に対する支援となっています。ここでは、1と2のカテゴリーに関する解説となります。なお、3のカテゴリーについては、「アートノト」のサイトにある「活動資金のコト」で(独)中小企業基盤整備機構が運営しているポータルサイト「J-Net21」を紹介しています。こちらの「支援情報ヘッドライン」に国・都道府県の助成金・補助金情報が掲載されていますので、あわせてチェックしてください。

【営利・非営利を問わず事業者を対象にした助成金・補助金】
東京芸術文化相談サポートセンター アートノト「活動資金のコト」

(独)中小企業基盤整備機構 J-Net21「支援情報ヘッドライン」

ちなみに、補助金と助成金については、厳密に定められた定義なく、給付金や支援金などという表現が使われることもあります。このコラムでは、銀行等の融資とは違い、返済の必要のない支援性資金のことをまとめて、助成金と表記します。その助成金の出し手は国や自治体、独立行政法人から、民間の助成財団や企業、NPO法人まで、様々な主体があります。
助成金のことが気になった方は、まずは助成金のデータベースをチェックしてください。

【芸術文化に関する助成金】
東京芸術文化相談サポートセンター アートノト「助成金情報」

【非営利組織を対象にした助成金】
助成財団センター「助成情報navi」

助成金の活用を考える

この10年の社会状況の変化として、あらゆるところで課題解決が意識されるようになりました。スタートアップ企業や大手企業の新規事業開発などでも、社会課題の解決を目指したものが注目されています。この動きは、助成機関等の資金提供者も同様で、分野を問わず、助成制度の内容に社会の課題解決に貢献することが盛り込まれています。芸術文化分野においても、芸術文化の普及振興から、芸術文化活動が課題解決に貢献することを期待して、支援する傾向が強まっていると思います。この視点を意識した上で、助成金の活用を考えていくことが必要です。
また、非営利分野の助成金の現状を見ても、NPO法人や一般社団法人などの活動団体が増加し、持続的な発展を実現している団体も出てきたことから、以前に比べて、一時的な活動支援や一過性のイベント支援などより、団体や事業の持続的な発展につながる支援の傾向が強まっています。

さて、助成金というと、獲得を目的に思ってしまうことがあります。しかし、助成金の獲得はあくまで通過点であり、ゴールではありません。助成金を獲得し、その資金をどのように「活用」して、団体や活動の発展に、あるいは持続的な芸術文化の振興や社会をよりよくしていくことにつなげていくかが大事です。つまり、助成事業が終わった後の発展や展開、持続性を意識する必要があります。こういった視点を持つことで、申請する事業内容も変わってきます。

助成金をお金としての経済価値だけで考えるのではなく、助成金が持っている付加価値と可能性に着目し、その付加価値を最大限に活用する視点も必要です。資金提供者である助成機関や自治体が持っているノウハウやネットワークはぜひ活用したい大きな付加価値です。たとえば、助成機関には先駆的な活動を行っている団体やさまざまな専門家とのネットワークがあります。助成事業に関連すれば、そうした団体や専門家を紹介してもらうことも可能です。また、アート活動や公益活動に関するさまざまなノウハウや知見が蓄積されていますので、事業づくりのノウハウを教えてもらうこともできます。さらに、助成機関等から助成金を得ていることは大きな実績となり、信頼度向上につながります。そういった信頼・信用という付加価値を積極的にアピールに活用することも大事です。

短期ではなく、中長期の視点で助成金を活用する

助成金を活用する際には、芸術文化活動のための資金というだけではなく、団体や活動の持続的な発展のために団体としていつ利用するかということも大事なポイントです。5~10年くらいの中長期戦略の中で、どの成長ステージで、どのくらいの助成金を活用して発展していきたいのかという考えを持って、助成申請をしましょう。

次の5つのステージでどのくらいの規模の助成金を活用して成長していくのかを考えます。ステージが上がれば、対象となりうる助成金額も大きくなります。
①芸術文化の活動を始めた立ち上げ期
②活動を持続するために専門性を高める事業確定期
③芸術文化活動を継続的に実施していく事業継続期
④従来の事業のほかに新しい地域や活動に取り組む新規事業展開期
⑤モデル事業として先駆的な取り組みを行う社会影響期

助成申請をコミュニケーションとして捉える

助成申請とは、自分たちが考える事業に関して、社会のニーズと実施手法(もしくは公演など)の実効性を資金の出し手に理解してもらうことです。自分たちが伝えたいことを一方的に伝えるものではなく、資金の出し手が知りたいことを伝えるためのコミュニケーションです。基本は、申請書の各項目について、資金の出し手が何を知りたいのかを意識し、聞かれたことにしっかりと答えることです。加えて、①具体的な事実、②現場の活動の中から生まれた気づきや問題意識、③事業を考え出した思考のプロセスの3点を盛り込むことで、地域や活動のリアルを伝えていきましょう。全国規模で募集している助成プログラムの場合は、審査する側が地域の状況をイメージできるような情報も必要となります。

芸術文化の助成プログラムでは、芸術文化の普及振興(価値創造)か、芸術文化を通しての社会貢献(課題解決)、このどちらかが期待されています。申請書を通じて、それが達成できるということを理解してもらう必要があります。さらに、助成機関は、申請団体のその先に「受益者となる地域や市民」を、申請事業のその先に「助成終了後の状況」という、二つの「その先」を見ています。団体や事業のアピールだけではなく、「その先」もイメージしてもらえるように意識しましょう。

協力者として助成事業に関わる

これまでは助成申請を行う申請団体の立場として解説をしてきました。一方で、芸術文化団体は他の非営利組織が行う事業や活動に協力者、もしくは共同実施者として関わることもあるでしょう。例えば、まちづくりの活動を行っている団体に依頼されて、公演を行なったり、セミナーやワークショップの講師を務めることがあると思います。その際に、その団体が助成申請を行うことができます。この場合、芸術文化団体は事業の協力者として、申請団体から業務委託や講師依頼を受ける立場となります。自ら助成申請するだけではなく、協力者の立場で助成金を活用することもできます。助成金の活用という観点では、芸術文化団体は自ら申請することも、他の申請団体の申請に協力することもありえます。助成金活用の選択の幅が広がり、事業展開もいろいろと検討できます。

ここまで助成金活用に関して解説を行ってきましたが、助成金は芸術文化団体が新しいドアを開く後押しをするものです。助成金を活用することで、団体を、活動を発展させていきましょう。助成機関は芸術文化団体の事業実施のイコール・パートナー(対等の立場の協力者)として、新しいチャレンジを応援しています。 


関連記事:
芸術文化団体の持続的な活動支援講座
第1回「助成金の活用の基礎知識」
テキスト https://note.com/artnoto/n/n8b3de670a256
動画 https://youtu.be/REuaqPDk_Js
第2回「芸術文化分野の助成金情報の紹介」
テキスト https://note.com/artnoto/n/n19b36334341f
動画 https://youtu.be/938ygPGedyw
第3回「持続的な活動への多様な支援の紹介」
テキスト https://note.com/artnoto/n/n6caf6f0146a9
動画 https://youtu.be/XSq819VMytU

講師:

山田泰久(公益財団法人日本非営利組織評価センター 業務執行理事)
1996年日本財団に入会。2009年から公益コミュニティサイトCANPANの担当で、情報発信や助成金活用をテーマにNPO支援に取り組む。2016年、日本非営利組織評価センター(JCNE)を設立、業務執行理事に就任。非営利組織の組織評価・認証制度の普及に取り組んでいる。

東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
アーティスト等の持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげていくため、2023年10月に総合オープンしました。オンラインを中心に、弁護士や税理士といった外部の専門家等と連携しながら、相談窓口、情報提供、スクールの3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を総合的にサポートします(アートノトは東京都とアーツカウンシル東京の共催事業です)。
アートノト:https://artnoto.jp/