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芸術文化団体の持続的な活動支援講座 第3回「持続的な活動への多様な支援の紹介」

この講座は、東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」総合オープン特別企画として、全3回シリーズでお届けする「芸術文化団体の持続的な活動支援講座」(講師:山田泰久)の第3回「持続的な活動への多様な支援の紹介」です。講座はnoteに掲載するテキスト講座と、YouTubeに公開する動画講座(手話通訳、日本語字幕あり)の2形態があり、アクセスしやすい方を選んでご活用いただけます。


芸術文化活動の支援と非営利活動の支援

アーティストや芸術文化団体等の持続的な活動を支援するために、東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」が10月2日に設立されました。公式ウェブサイトでは、芸術文化分野の観点から活動や組織運営等に関する役立つ情報が掲載されています。一方で、アーティストや芸術文化団体は芸術文化分野に属するという側面の他に、一部の団体は非営利組織という側面もあります。非営利組織は市民社会の担い手であり、社会課題解決のプレイヤーとして大きな期待が寄せられています。そのため、非営利組織が持続的な活動を行っていけるように様々な支援制度があります。芸術文化分野の支援制度では主に活動を対象にしていますが、非営利組織の支援制度は組織運営全般に関して幅広い内容の制度があります。

今回のコラムでは非営利組織を対象にした支援制度をご紹介します。ここでは、具体的なノウハウというより、どのような種類のものがあるのか概要的なことをお伝えいたします。

非営利組織を対象にした支援制度

非営利組織には、任意団体など法人格の有無を問わず、幅広い団体が含まれています。しかしながら、非営利組織を対象にした支援制度の多くは法人格のある団体を対象にしたものとなります。具体的には、NPO法人、一般社団・財団法人、公益社団・財団法人、社会福祉法人を対象としているケースが多いです。さらに、支援制度によって対象となる法人格の種類が違いますので、制度を利用する際には必ず自団体の法人格が対象になっているかを確認してください。

最近、法人設立の際に、一般社団法人を選択するケースが増えています。この一般社団法人(一般財団法人も同様)については、非営利型法人、普通法人という区分があります。一部の支援制度では、一般社団・財団法人の中でも非営利型法人のみを対象としています。一般社団・財団法人は、定款の定め(余剰金や残余財産の扱い)や理事の構成(親族の割合)などの条件によって、非営利型法人、普通法人の区分が設定されています。しかし、法人の登記簿にその区分は記載されていませんので、団体自身がどちらの区分かを認識していないこともあります。詳しい情報が国税庁のWebサイトに掲載されていますので、一般社団・財団法人の方はあらためて確認することをお勧めします。

【一般社団・財団法人の区分】
国税庁「一般社団法人・一般財団法人と法人税」

現在、法人格のない任意団体も、非営利組織の支援制度を利用できるメリットを考えると、あらためて法人格の取得について、検討するタイミングだと思います。法人化によって、各種手続きや法令に伴う義務などが発生しますので、組織運営やガバナンス体制の見直しが必要となります。従って、法人化については、支援制度のメリットだけではなく、その他のメリット・デメリット、そして各法人格の意義や目的も含めて、総合的に判断することをお勧めします。

非営利組織が無償・低額で利用できるITサービス

非営利組織を対象にした支援制度には、主に①助成金、②IT支援、③ファンドレイジング(寄付)、④組織運営支援があります。①助成金については、第1・2回のコラムですでにご紹介していますので、そちらの記事を参考にしてください。

最初に、非営利組織を対象にしたIT支援の制度をご紹介します。2000年以降、様々なITサービスが生まれた中で、企業が社会貢献として自社のITサービスを無償、もしくは低額で非営利組織に提供するケースが出てきました。数多くの支援制度がありますので、ここでは非営利組織がよく利用しているサービスをご紹介します。 

【非営利組織が無償・低額で利用できるITサービス】
Google for Nonprofits | 非営利団体向けプログラム
GoogleのWorkspaceやネット広告などのサービスが無償で利用できます。

テックスープ
マイクロソフトやAdobeなどの製品・サービスが低額の手数料で利用できます。

https://www.techsoupjapan.org/

サイボウズNPOプログラム
サイボウズの各種サービスが低額で利用できます。

Salesforce Power of Us プログラム
Salesforceの製品を寄贈・割引で利用できます。

Canva for NPO
Canvaの有料サービスが無料で利用できます。

非営利団体やNPO、非営利組織のマーケティングデザイン | Canva for Nonprofit

ここで紹介したもの以外にも、多くのITサービスが非営利組織向けに無償・低額プランを提供しています。NPOサポートセンターのサイトで紹介されていますので、ぜひチェックしてください。

【NPO支援のポータルサイト】
Nコレ! – NPO支援コレクション

ファンドレイジング(寄付)のノウハウを知る

芸術文化団体の場合、公演活動のチケット収入など事業収入で運営を行っている団体も多いでしょう。非営利組織の場合も事業収入で運営している団体もありますが、財源の多様化を目指し、寄付集めに積極的に取り組んでいる団体もあります。非営利セクターでは、寄付や助成金、事業収入などをまとめて、「ファンドレイジング(資金調達)」という言葉をよく使います。そして、ファンドレイジングといえば、寄付が代名詞のような存在となっています。

非営利組織のファンドレイジング支援を専門にする日本ファンドレイジング協会が寄付について体系的に学ぶ講座を提供しています。また、認定ファンドレイザーという資格制度も運営しています。

新型コロナ禍で今まで以上に寄付が注目されました。芸術文化団体も緊急事態を乗り越えるために寄付集めにチャレンジした団体もありました。あらためて、寄付の活用を検討したい団体は、日本ファンドレイジング協会の講座を受講することをお勧めします。

【非営利組織のファンドレイジング支援】
日本ファンドレイジング協会

次に、ファンドレイジング(寄付集め)のためのツールといえば、クラウドファンディングがあります。オンライン上で、不特定多数の方から資金を調達するためのオンラインプラットフォームです。芸術文化分野でも、クラウドファンディングの利用が一般的になってきています。購入型/寄付型、芸術文化や社会貢献に特化したテーマ型のものなど、様々な種類のクラウドファンディングサービスがあります。このコラムでは詳しく紹介しませんが、クラウドファンディングサービスの比較サイトがありますので、そういったものを参考にしてください。

クラウドファンディングはプロジェクトベースでの資金調達となりますが、団体全体に対する寄付を集めることができる、クレジットカード等で寄付の決済ができるオンライン寄付決済サービスもあります。オンライン決済では、単発で寄付を集めること以外に、マンスリーサポーターのような月額寄付、年会費の年額寄付などを集めることも出来ます。非営利組織がよく利用しているサービスとしては、以下のようなものがあります。これ以外にも複数のサービスがありますので、比較サイト等でサービスについてチェックしてみてください。

【オンライン寄付決済サービス】
コングラント

 シンカブル

組織運営支援を活用する

東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」では、芸術文化団体向けに様々な組織運営支援が紹介されています。非営利組織においても、同じように組織運営支援を行っている支援組織があります。ここでは、事務、会計、法律に関して、支援もしくは情報提供を行っている団体を紹介します。

【組織運営全般の支援】
全国NPO事務支援カンファレンス

【NPO法人の会計に関する情報提供】
NPO会計税務専門家ネットワーク

【法律問題に関するセミナーや情報提供、相談】
NPOのための弁護士ネットワーク

BLP-Network

非営利組織では、事業活動の充実とともにガバナンスの整備も必要です。非営利組織では団体の信頼性を高め、持続的に活動を行っていくためには、ガバナンスの改善やコンプライアンス(法令遵守)に取り組むことが大切です。ハラスメントなどの不祥事によって、何かあると団体の存続に関わることもあります。そういったことを防ぐためにも、ガバナンス・コンプライアンス意識を高めていきましょう。筆者が所属している(公財)日本非営利組織評価センターでは、非営利組織のガバナンス強化のための情報発信や組織評価の提供を行っていますので、活用してください。

【非営利組織のガバナンス強化のための情報発信、組織評価】
日本非営利組織評価センター

その他に、各地に非営利組織を支援する施設が設置されています。NPOセンター、市民活動推進センター、ボランティアセンターなどの名称で設置されています。各センターでは、団体の設立から運営に関する相談支援、各種セミナーの開催、会議室等の場所の提供、助成金情報、ボランティアの紹介、地元企業とのマッチングなどを行っています。
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」が芸術文化分野の観点から各種支援を行っていますが、上述のNPOセンター等では非営利活動の観点から同じように各種支援を行っています。非営利組織の運営の相談や情報収集、セミナー受講であれば、地元のNPOセンター等を利用することもできます。さらに、最近は、非営利組織を対象に個別支援を行う支援組織やコンサルティング会社なども増加しています。 

この記事では紹介できていない非営利組織の支援制度がまだまだあります。先に紹介したWebサイト「NPO支援コレクション」(通称:Nコレ)に各種支援制度や支援企業がカテゴリー別に掲載されていますので、ぜひこちらのサイトをチェックしてください。

 これまで3回に渡り、主に芸術文化団体が活用できる助成金や支援制度について、ご紹介してきました。東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」の開設によって、アーティストや芸術文化団体に対する支援の情報を一元的に収集することができるようになりました。さらに、非営利組織である芸術文化団体には、非営利セクターの各種支援も利用することができます。これまで非営利セクターの情報をキャッチする機会が少なかった方たちも、これからは、持続的な活動を目指して、非営利組織向けの各種制度のドアも積極的にノックして活用できるものはぜひ活用していってください。


関連記事:
芸術文化団体の持続的な活動支援講座
第1回「助成金の活用の基礎知識」
テキスト https://note.com/artnoto/n/n8b3de670a256
動画 https://youtu.be/REuaqPDk_Js
第2回「芸術文化分野の助成金情報の紹介」
テキスト https://note.com/artnoto/n/n19b36334341f
動画 https://youtu.be/938ygPGedyw
第3回「持続的な活動への多様な支援の紹介」
テキスト https://note.com/artnoto/n/n6caf6f0146a9
動画 https://youtu.be/XSq819VMytU

講師:

山田泰久(公益財団法人日本非営利組織評価センター 業務執行理事)
1996年日本財団に入会。2009年から公益コミュニティサイトCANPANの担当で、情報発信や助成金活用をテーマにNPO支援に取り組む。2016年、日本非営利組織評価センター(JCNE)を設立、業務執行理事に就任。非営利組織の組織評価・認証制度の普及に取り組んでいる。

東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
アーティスト等の持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげていくため、2023年10月に総合オープンしました。オンラインを中心に、弁護士や税理士といった外部の専門家等と連携しながら、相談窓口、情報提供、スクールの3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を総合的にサポートします(アートノトは東京都とアーツカウンシル東京の共催事業です)。
アートノト:https://artnoto.jp/