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芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2023|レポート Vol.03:協働型プログラム評価の実践 源由理子さんによる第3回講座「評価ワークショップ〜ロジックモデルを活用し改善・変革していく術を磨く〜」

2023年10月30日に実施した第3回は協働型プログラム評価の実践。第2回講座の理解を深めるため、講師の源 由理子(みなもと・ゆりこ)さんのファシリテーションのもと、ひとつの事業をその関係者とともにロジックモデルを活用して評価するワークショップを【対話型ゼミ】受講生12人と行いました。


講師とワークショップのファシリテーターを担当する源さん

前回のおさらいとルールの共有

まず、第2回【オンライン公開講座】のおさらいです。ある事業/活動を評価するときに、なにを目指せばよいか、それをどのような視点で価値判断するのが妥当なのか関係者全員で合意形成を図るのが協働型プログラム評価です。
 
そのために、事業/活動の目的や手段を言葉で可視化する「ロジックモデル」を作成します。ロジックモデルはあくまでも管理すべき計画ではなく、事業/活動を問い直すための道具です。関係者の理解を助けるため、あえてリニア(直線的)に図示します。


第2回【オンライン公開講座】のスライドを再掲。これらの基本要素は覚えておきましょう

ロジックモデルを構成する基本要素は、実現したい望ましい状態「アウトカム」、「アウトカム」のために行われた結果である「アウトプット」、「アウトプット」を出すための「活動」、「活動」のための資源である「インプット」です。ロジックモデルを作成する場合は、「アウトカム」を初めに決定し、逆算していきます。
 
「アウトカム」は主語+述語を具体的に考えます。たとえば「女性が輝く社会」は「あまりいい『アウトカム』とは言えない」と源さん。女性が輝くとは社会的抑圧がなくなることなのか、政治・経済領域における意思決定層の男女比が平等になることなのか、それともピカピカと発光することなのか──? 「アウトカム」が曖昧な表現や広すぎる概念、キャッチフレーズのようなものだと、人によって解釈が大きく異なってしまい、評価指標や活動内容が変わってしまいます。したがって、多くの人にとって具体的にイメージしやすいもので合意していく必要があります。
 
源さんは続けて、ワークショップに臨む受講生に以下の4つのルールを共有しました。

評価ワークショップのルール。主役である参加者が守るよう努めます

・議論の前に付箋に自分の意見を書きます。
・1枚の付箋には一つの意見を書いてください。
・「誰が書いたか」で意見に優劣をつけることをしません。異なるバックグランドをもつ参加者は全員が対等な関係です。
・正しい答えはありません。正しさよりも参加者が納得できることが重要です。

協働型プログラム評価を実践する

今回は本講座全体のファシリテーター/アドバイザーの小川智紀(おがわ・とものり)さんが事務局を務める「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」の事業/活動を事例に評価ワークショップに取り組みます。

ファシリテーター/アドバイザーの小川さん

これは神奈川県横浜市内の小中学生を対象に、芸術文化教育によって学びの基礎をつくるもの。事務局、コーディネーター(アートNPOや文化施設など)、アーティスト、学校の4者が連携し、芸術文化に触れるワークショップや鑑賞体験を子どもたちに届けます。予算を支出しているのは横浜市。事業/活動への関心が低い学校の先生や、学校に行けない子どもをどう包摂するかなど、様々な課題があるそうです。
 
源さんから「どんな人が関係者として参加したらいいと思いますか?」と問いかけがありました。早速、受講生たちは、配られた付箋にどんな人が参加するべきかを書き込みます。市長・市議や学校の先生、子ども、アートNPOや文化施設の職員、教育委員会職員、アーティストなど様々なステークホルダーが書き出されました。今回は、受講生が書き出したステークホルダーになるロールプレイをしながら、意見を出し合っていきます。
 
次は、それぞれが考える最終アウトカムを書き出します。

意見がボードに貼られていきます。ファシリテーターはそれに対して価値判断を下しません

源さんはこの中で「似たようなものを見つけて」と言い、受講生がマイクをパスしながら、それぞれがなりきるステークホルダーの立場で最終アウトカムについて議論します。子どもが芸術文化に親しむことで、人生が豊かになるという意見が多く、その合意はとれていると言えそうです。
 
気になるキーワードをもつアウトカムがありました。1つ目は「主体性」。事業/活動に対して関心の低い先生を演じる受講生が「(本事業を体験する子どもたちが)学校の学びに役立つ『自ら考える力』をつけてほしい。好き嫌いを判断するのもそうだし、自分が嫌いなものも、誰かにとっては好きなものかもしれないと考えられる子になってほしい」と発言します。
 
源さんは「多様性を認めてほしいということかな? 事業/活動への関心は低い先生ですけれど、本質をついていますね」とコメント。続けて、受講生に話します。
 
「いろいろなところでワークショップをやっているけれど、熱量の低い参加者は必ずいる。でもその人たちが変わっていくんです。付箋をボードに貼ると、自分の意見が取り上げられて、議論に参加していると実感できる。だから最初は協力的でなかった人が熱中しだすんです」

演劇の経験があり、芸術教育の普及のために活動する印田彩希子(いんだ・あきこ)さん。ロールプレイでの役柄設定に受講生も注目

2つ目のキーワードは「均等」です。教育委員会職員を演じる受講生からは、このような「アウトカム」が出ました。「地域の子どもたちが均等に文化芸術に触れる機会を創出する」。これには「不登校や障害のある子をとりこぼしたくない」という思いがあるようです。これに対し、子どもの立場から、「地域の子どもがいつでも無料でアートを楽しめる世界」という生育環境や経済状況に思いを寄せた意見が出ます。
 
個々の視点から出てきた「アウトカム」を整理するため、それぞれの付箋から手段と目的の関係性を探して、つなげていきます。たとえば「地域の子どもがいつでも無料でアートを楽しめる世界」と「地域の子どもたちが均等に文化芸術に触れる機会を創出する」は手段と目的でつなげられます。すると、ロジックモデルの図らしくなってきました。整理を続けながら、最終アウトカムの合意点を見つけていきます。
 
議論はいろいろな方向に転んでいきますが、源さんは止めませんでした。議論が一段落すると、「途中で止めなかったのは自分たちがめざすアウトカムの議論が重要だから」と源さん。続けて、こうフィードバックします。
 
「議論を聞いていて興味深かったのは、芸術文化には主体的に選択できるようになることや、多様性を認め合うようになる力があると皆さんがおっしゃっていること。つまり、最終アウトカムはそのようなものにできると思います。皆さんは今、芸術文化の社会的な意味を議論していました。これを可視化できれば、外部に芸術文化の社会的役割を伝えていけると思います」
 
それでは、「アウトカム」や「アウトプット」から逆算して「活動」の部分を考えていきます。教職員へのワークショップや子どもにスタッフとして参加してもらう、多言語での対応を保障するなど考えが挙がります。「実際に予算がつくのはこの部分」と源さん。そして、予算がついて活動していくなかで効果が現れなければ、この部分を問い直していけばいいと言います。
 
網羅できていないところはあるものの、受講生全員が議論したロジックモデルが形になりました。これを見れば、事業/活動設計の妥当性、あるいは実施上の改善点を検討できるようになります。また、このロジックモデルは「この効果をあげるために、このような活動がしたい」と可視化できるため、予算を求めるときの説明ための資料にも使えます。
 
ある受講生は「自分はこんな考え方をしたことがなかったから参考になった。最近、公的機関が実施するアーティスト支援事業に応募したばかり。これを聞いてからやりたかった」と話しました。
 
源さんが最後に、ファシリテーターとしてではなく個人的な感想を共有します。
 
「『自主性』という言葉が出たのが非常によかった。この言葉が芸術文化と社会をつなげ、多様性の議論にも接続しました。こういう議論をすると、様々な立場の人が事業/活動の中に含まれていく。この一体感が大事ですね」

1時間以上の議論を通して、皆でロジックモデルを完成させました!

評価とは評価対象そのものの価値を引き出すこと。評価学の考え方通り、受講生全員が芸術文化の価値を言葉で可視化した講座になりました。
 
次回は、小川希(おがわ・のぞむ)さんによる「実践者との対話〜共同体から生まれる芸術と表現。その実験/実践から学ぶ〜」です。小川希さんは東京都吉祥寺にあるArt Center Ongoingの代表。その実践から、芸術文化の価値をリレーする方法を学びます。
 
※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。
 
講師プロフィール
源由理子(みなもと・ゆりこ)

明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科 教授。国際協力機構(JICA)等を経て現職。専門は、評価論、社会開発論。改善・変革のための評価の活用をテーマとし、政策・事業の評価手法、自治体、NPO等の評価制度構築、関係者による参加型(協働型・協創型)評価に関する研究・実践を積む。近年は特に、社会福祉分野、文化芸術分野における関係者のエンパワメントや組織強化につながる評価のあり方に関心を持つ。主著に『プログラム評価ハンドブック〜社会課題解決に向けた評価方法の基礎・応用』(共編著、晃洋書房、2000年)、『参加型評価〜改善と変革のための評価の実践』(編著、晃洋書房、2016年)など。
 
執筆:中尾江利(voids)
記録写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)


事業詳細

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2023
~創造し続けていくために。芸術文化創造活動のための道すじを“磨く”~


東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」

アーティスト等の持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげていくため、2023年10月に総合オープンしました。オンラインを中心に、弁護士や税理士といった外部の専門家等と連携しながら、相談窓口、情報提供、スクールの3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を総合的にサポートします(アートノトは東京都とアーツカウンシル東京の共催事業です)。


アーツカウンシル東京

世界的な芸術文化都市東京として、芸術文化の創造・発信を推進し、東京の魅力を高める多様な事業を展開しています。新たな芸術文化創造の基盤整備をはじめ、東京の独自性・多様性を追求したプログラムの展開、多様な芸術文化活動を支える人材の育成や国際的な芸術文化交流の推進等に取り組みます。