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Q55 映画著作権と倒産

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 映画のライセンスにおいて、ライセンサーやライセンシーが破産した場合、相手方の地位はどうなるか。また、映画製作委員会の構成員が破産した場合、出資や映画の著作権は、どのようになるか。

Point

① ライセンサーが破産した場合の法律関係
② ライセンシーが破産した場合の法律関係
③ 映画製作委員会の法的性質
④ 映画製作委員会の構成員が破産した場合の法律関係


Answer

1.ライセンサーの破産

 ライセンサーが破産すると著作権は破産財団を構成し、破産管財人が管理および処分を行うこととなる。破産者との契約のうち、双務契約で双方が履行を完了していないものについては、破産管財人が契約を解除するか、履行をするかの選択をすることができる(破産法53条1項)。ライセンス契約は、ライセンサーがライセンシーによる権利の使用収益を許諾し認容する義務を負うのに対し、ライセンシーがライセンス料の支払義務等を負う双務契約であり、一般的には、双方未履行の状態であることが多いと考えられる。
 したがって、ライセンス契約のライセンサーが破産した場合には、ライセンサーの破産管財人が契約を解除するか、履行をするかの選択をすることができることになる。もっとも、これでは、ライセンシーからすれば、ライセンサーの破産という偶然により、ライセンスが失われ、場合によっては事業自体を失うことになるため、法は、特則を設け、知的財産権のライセンスのような使用収益を目的とする権利について、登録等の第三者対抗要件を備え
ている場合には、破産管財人の選択権を認めない旨が規定されている(破産法56条1項)。著作権については、出版権(著作権法79条)を除き、利用権を第三者に対抗できる制度はなかったが、令和2年の法改正により、当然対抗制度が採用されたため、破産管財人に対しても、利用権を対抗できるようになった(著作権法63条の2)。
 映画のライセンス契約の場合、破産管財人は自ら履行をすることは困難であるため、著作権を譲渡して、譲受人にライセンス契約を承継させることになる。

2.ライセンシーの破産

 ライセンシーが破産した場合も、ライセンス契約は、原則として双方未履行の双務契約であるので、ライセンシーの破産管財人は、破産法53条1項により、解除するか、履行するかの選択権を有することになるが、ライセンシーの破産管財人は、長期にわたるライセンス契約を自ら履行することは困難であり、解除を選択することになる。
 映画のライセンス契約には、ライセンシーが破産手続開始申立てをした場合には、ライセンス契約を解除することができる旨の規定が入っていることが多いが、ライセンシーが破産した場合に、ライセンサーがこの条項を適用して、ライセンス契約を解除することは難しいと考えられている(伊藤眞『破産法・民事再生法〔第4版〕』402頁)。破産を理由として相手方に解除権を与える条項の効力を認めると、相手方は常に破産管財人に対しても解除を主張することができ、破産法53条が破産管財人に履行か解除かの選択権を与えている趣旨が没却されるからである。もっとも、破産手続開始前にライセンス料の不払い等により、すでに解除権が発生している場合には、ライセンサーは契約を解除することができる。

3.映画製作委員会の法的性質

 わが国では、配給会社、テレビ局、ビデオメーカー等が資金を出資して、映画製作委員会を組織することがよく行われている。資金を分担することによって、リスクを分散するとともに、各々の構成員が配給、テレビ放映、ビデオ販売等の権益を取得して、共同事業を行おうというものである。この映画製作委員会の法的性質は、民法上の組合契約であることが多い。民法上の組合契約は、「各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することに
よって、その効力を生ずる」(民法667条1項)と規定されているものである。
 民法上の組合の財産は、総組合員の共有に属すると定められているが(民法668条)、団体的な拘束があり、各組合員は、持分を処分することができず、清算前に分割請求もできない(同法676条)。したがって、組合財産については、単なる共有ではなく、合有といわれている。製作委員会契約においても、映画の著作権その他の権利は、製作委員会が共有する旨が定められている。
 著作権が共有されている場合には、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、持分の譲渡等はできず、共有著作権は、共有者全員の合意によらなければ、行使することができない旨が規定されている(著作権法65条1項・2項)。製作委員会契約においては、共有著作権の利用について合意がなされているとともに、持分の処分が禁じられている。

4.組合員の破産

 組合員が破産手続開始決定を受けた場合には、当該組合員は、組合から脱退する旨が規定されている(民法679条2号)。製作委員会契約においては、破産手続開始の申立てがあった場合に、他の組合員から除名することができる旨の規定がおかれていることが多いが、前述のとおり、破産を理由として相手方に解除権を与える条項の効力を認めると、破産法53条が破産管財人に履行か解除かの選択権を与えている趣旨が没却されることになるため、破産手続開始申立ての段階で、製作委員会契約の規定により除名されるのではなく、破産手続開始決定を受けた場合に、民法の規定により、脱退すると解すべきであろう。
 著作権の移転については、登録が対抗要件とされており(著作権法77条1号)、脱退についても対抗要件が必要と解されているが、前述のとおり、組合財産については合有と解されており、脱退についての対抗要件がなくとも組合にとって不利益とはならないといわれている(鈴木禄弥編『新版注釈民法⒄』181頁〔菅原菊志〕)。
 組合員が脱退した場合、持分が払い戻される(民法681条1項2項)。脱退の時に完了していない事項があるときは、その完了後に持分が払い戻される(同条3項)。しかし、製作委員会契約においては、組合員が破産した場合には、当該組合員の持分は、無償で移転する旨の定めがおかれている例が多くみられる。破産を理由として、持分を無償で移転する条項の効力については、破産という偶然により相手方が利得することを非とするか、あらかじめ合意されたものであるから是とするかにより、有効という考え方と無効という考え方がありうると思われる。

執筆者:横山経通


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