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Q67 他社商標の掲載

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 当社では、自社のウェブサイト上に、当社の概要を紹介する欄を設けているが、そこに当社の主要な取引先を掲載して、大手企業との取引実績をアピールしている。このとき、その取引先の社名とともに、その取引先のロゴマークも掲載しているが、問題はないか。

Point

①    商標権の保護範囲
②    商標権侵害と商標的使用
③    不正競争防止法
④    著作権との関係
⑤    実務的な処理


Answer

1.商標権の保護範囲

 今日、多くの企業が自社のロゴや、自社の商品・サービスについてのロゴを制定しているが、商標権は、こうした企業のサービスマークを保護する権利であり、登録することで権利が発生する(商標法18条1項)。商標権者は、登録の際に自己が選択して指定した商品や役務(サービス)(それぞれ「指定商品」「指定役務」とよばれる)に関し、その登録された商標(登録商標)を独占的に使用することができる(同法25条)。

2.商標権侵害と商標的使用

 ⑴ 商標権侵害
 前記1で述べた登録商標を独占的に使用できることの意味であるが、他人が、自己の指定商品や指定役務と同一または類似の商品・役務について、その登録商標と同一または類似の標章を使用すると、一定の例外を除き商標権侵害とされ(商標法25条、37条)、そうした行為の差止め等(同法36条)や損害賠償請求ができるということである。
 たとえば、全国的に著名な運送会社(A社)が、自社の運送サービスについて、その運送サービスを指定役務として、かつ、ロゴマークを商標として登録している場合を考えると、そのロゴマークが著名であることに目をつけた他の運送会社(B社)が、そのロゴマークと酷似した標章を、指定役務と同一の運送サービスについて使用すると、A社は、自身の商標権侵害を主張できる。一般の利用者の視点からすれば、このような場合、B社のサービスも、A社のものであると混同してしまうおそれがあるからである。裏を返せば、商標権は指定商品や指定役務と結びついたものであるので、これらと全く異なる商品・役務に関して商標を使用しても原則として商標権侵害とならない。
 ⑵ 商標的使用
 ところで、上記にいう「使用」であるが、これは商標法で定義されていて、商標権侵害の前提として、この「使用」に該当する行為が行われなければならない。すなわち、商標法上の「使用」とは、同法2条3項各号に列挙されており、たとえば、商品または商品の包装に標章を付する行為(同1号)、商品または商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、または電気通信回線を通じて提供する行為(同2号)などがある。電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供にあたりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為や(同7号)、商品もしくは役務に関する広告、価格表もしくは取引書類に標章を付して展示し、もしくは頒布し、またはこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(同8号)といった、ウェブサイトでの表示が関係する行為も定められている。
 しかし、上記の「使用」に該当する行為であっても、上記の運送会社の例のように、商品・役務について、その出所を識別する表示として使用されているのでなければ、利用者の混同のおそれがないので、なお商標権侵害は成立しないと解されており、商標法にも明文がある(同法26条1項6号)。このように、出所を識別(自他商品を識別)する表示として使用されることを「商標的使用」とよんでいる。
 ⑶ 本問の場合
 それでは、本問のような場合はどう考えればよいか。本問において、自社ウェブサイトで表示しているロゴマークが登録商標であれば、理論的には上記にいう「使用」に該当する可能性について検討する必要はある。ただ、本問のような場合は、通常は単に取引先を表す表示(取引実績を表す表示)として取引先のロゴマークを表示しているにすぎず、自社の商品や役務について「使用」したとされることは少ないのではないかと思われ、仮に、表示位置などの関係で、「使用」の定義には形式上該当する可能性が否定できないとしても、それによりウェブサイトを見た者が商品・役務の出所を混同するおそれがないのであれば、上記「商標的使用」ではないので、商標権侵害は成立しない。

3.不正競争防止法

 本問の使用方法について問題となることは少ないと思われるのでここでは詳述しないが、標章の使用をめぐっては、前記2で述べたように商標権侵害の問題とは別に、ロゴマークの使用態様によっては、不正競争防止法上の不正競争(不正競争防止法2条1項1号・2号・3号・22号)とされることがある点には留意すべきである。

4.著作権との関係

 企業のロゴマークの場合、商標法による保護対象となると同時に、そのロゴマークについて創作性があるような場合には、著作権が別途成立している可能性がある。このような場合、前記2で述べたように商標法上は問題が少ないとしても、別途著作権侵害については考慮する必要がある。
 この点、いわゆる応用美術に関する、著作権法と意匠法との「すみ分け」をめぐる議論とパラレルに考えて、著作権法と商標法との間でも、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)である著作物と、商品や役務のサービスマークとして商業的な目的で周知される商標とは、保護範囲がすみ分けられるように考えるべきとの議論があり得るようにも思える。しかし、商標法上、登録商標に著作権が成立する場合の権利行使の制限に関する規定があり(同法29条。意匠法にも同旨の規定がある)、両法が目的・趣旨の異なる法制度であることを考えれば、ロゴマークについて商標権と著作権とは互いに排他的ではなく、両者が並立することはあり得るように思われる。
 ただし、著作権の場合、著作物を創作した者が著作者となり、原則として著作権者となるため(著作権法17条。なお、15条も参照)、ロゴマークについても、それを使用する企業ではなく、創作したデザイナー等が著作権者である場合も考えられ、必ずしもロゴマークを使用している企業が著作権侵害を主張できるとは限らない。
 また、ロゴマークに著作権が成立する場合、ウェブサイト上に当該ロゴマークを掲載する行為は複製権(著作権法21条)、公衆送信権(同法23条1項)の侵害となる可能性があるが、本問のような使用方法であれば、表示されるロゴの大きさもごく小さく、解像度も低いもので、著作物としての本質的な特徴が感得できず、そもそも著作物の利用といえず、したがって著作権侵害とならないとされることも考えられる。すなわち、東京高判平成14・2・18判時1786号136頁〔雪月花事件〕は、書画が背景に写り込んだ写真について複製権侵害等が問題となった事案で、書を写真により再製した場合に、その行為が美術の著作物としての書の複製にあたるといえるためには、一般人の通常の注意力を基準としたうえ、「単に字体や書体が再現されているにとどまらず、文字の形の独創性、線の美しさと微妙さ、文字群と余白の構成美、運筆の緩急と抑揚、墨色の冴えと変化、筆の勢い」といった美的要素を直接感得することができる程度に再現がされていることを要するとしたうえで、この事案においては、「書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分が再現されているということはでき」ないとして、複製権侵害を否定している。このような考え方は、著作物の種類によって上記の「美的要素」の内容に差異はあっても、他の種類の著作物にも通ずるものがあると解される。
 そして、明文の規定はないが、複製権侵害とならないものをウェブサイトに掲載(公衆送信(送信可能化))した場合に、別途公衆送信権侵害が成立すると解することには合理性が見出せないため、このような場合には、公衆送信権の侵害ともならないと思われる。
 なお、上記と異なり、著作物の利用と解される場合であるが、この場合、著作物の思想または感情の享受を目的としない利用(著作権法30条の4)にあたり、適法な利用を考えることもできるように思われる。

5.実務的な処理

 以上のように、ロゴマークをめぐっては商標権、著作権等への目配りが必要である。
 また、企業が取引先を表示する場合、本問のように、自社の取引実績や信用を示す目的があることも多いと思われるが、相手方である取引先からすれば、表示されることが必ずしも好ましくない場合も考えられるので、法的な判断はともかくとしても、事前に取引先から許諾を得ておくことが無難ではないだろうか(企業によっては、独自の許諾基準を設定しているところもあるようである)。

執筆者:上村 剛


東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
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