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水着モデルとカメラマン、原爆とタップダンス

数学家ビートたけし

「違う道を選ぶなら数学家になりたかった」
これはビートたけしの言葉です。彼はバリバリの理系で明治大学工学部中退で漫才の道に進んでいます。高校でも数学だけは東大に進んだ生徒よりもできていたそうです。今回はたけしと数学の一手法の交錯について書きました。
 フジテレビの深夜枠で2007年から2013年にかけて「たけしのコマ大数学科」という番組がありました。高校レベルの数学問題を、マス北野(ビートたけし)チーム、現役東大生チーム、コマ大数学研究会(たけし軍団)チームの3組が競って解くという番組です。ビートたけしチームと現役東大生チームはいい勝負をしていました。「コマ大」は「駒澤大学」ではなく「コマネチ大学」の略です。

水着とカメラマン

コマ大の問題の一つに、
「10分間のファッションショーで水着モデルが登場するのは1分間。しかも、ショーのどこで登場するかはわからない。カメラマンが会場に入ることができる時間(撮影時間)も1分間。はたしてカメラマンが水着モデルを撮影できる確率は?」
という問題がありました。この問題は、普通の数値計算でも解くことができますが、シミュレーションを乱数を用いて行うモンテカルロ法という手法で近似的に解くこともできます。

モンテカルロ法

番組の関連書籍である、ビートたけし×竹内薫「コマ大数学家特別集中講座」扶桑社新書では、カメラマンと水着の問題から、原爆開発、映画「座頭市」とモンテカルロ法の話まで話題が広がっています。
 モンテカルロ法は、先の例に挙げたような確率問題を、何千回、何万回という、乱数を使ったシミュレーションによって近似的に解く手法です。先ほどの問題を解くpythonのソースです。

''' モンテカルロ法'''
import random

nohit = 0             ### カメラマンが撮れない
total = 100000        ### トータルの試行数
for i in range(total):
    camera = random.uniform(0.0, 9.0)    ### 最後の1分にカメラマンが入ることは無い 開始後0分から9分の間に入る
    model = random.uniform(0.0, 9.0)     ### 最後の1分にモデルが入ることも無い 開始後0分から9分の間に入る
    if camera + 1.0 < model:            ### カメラマンの撮影時間の1秒後にモデルが入る
        nohit += 1
    elif  model + 1.0 < camera:         ### モデルが出ていった後にカメラマンが入る
        nohit += 1
print('全試行回数 = ', total)
print('撮影成功回数 = ', total - nohit)
print('モンテカルロ法で求めた確率 = ', (total - nohit) / total)
### 数式で求めた解
print('理論的確率 = ', (9.0 * 9.0 - 2.0 * (8.0 * 8.0 / 2.0)) / (9.0 * 9.0))

random.uniform(0.0, 9.0)は0.0から9.0までの範囲の擬似乱数を発生する関数です。最後の1分間にモデルとカメラマンが入ることは無いので9.0となっています。カメラマンの入るタイミングとモデルの入るタイミングを0.0~9.0の乱数で生成し、それぞれの活動時間である1分間が交錯しない場合をnohitとしてカウントしています。10万回ほどシミュレーションしてカウントしました。計算時間は一瞬です。結果は以下のようになります。乱数系列を変えればちょっとだけ違った結果が出ます。

全試行回数 =  100000
撮影成功回数 =  21011
モンテカルロ法で求めた確率 =  0.21011
理論的確率 =  0.20987654320987653

理論的確率の求め方は式だけです。「(正方形の面積-三角形の面積×2)/正方形の面積」となっています。理論的な求め方の詳細を知りたい人は、ChatGPTに問題文を入れて解かせるとちゃんと解説してくれます。すごい時代になったものです。

原爆開発

モンテカルロ法は、中性子が物質中を動き回る様子を探るために開発されました。そうです。長崎に落とされたプルトニウムを使った原爆の開発のための手法だったのです。モンテカルロ法と命名したのはフォン・ノイマン、コンピューターを発明した人です。原子爆弾を開発したオッペンハイマーも、自分よりはるか上を行く天才として認めていました。
 オッペンハイマーとの違いは、ノイマンは科学至上主義、科学のためなら核兵器で犠牲者が何百万人出ても気にしないというマッドサイエンティストを体現した人間でした。漫画「銃夢」のノヴァ教授とそっくりですね。

座頭市のタップダンス

たけしが監督をつとめた「座頭市」には、タップダンスのシーンがあります。タップ音と映像を編集で合わせようとしても、どうしても合わなくて困ったという話が「コマ大数学家特別集中講座」に出ていました。映像は1/24秒で1コマ撮影しますがタップが早すぎて、音と映像のタイミングが合わないのです。
 ここで最初の「水着とカメラマン」の話につながります。「タップ音と撮影のタイミングが合う確率は?」。モンテカルロ法の問題だと分かっていますが、映画撮影を何度も繰り返すわけにもいきません。たけしは仕方なく、靴のかかとがついた瞬間の別の映像を持ってきて音に合わせて編集したそうです。
 ちなみに見出し画像は「江戸時代の農民集団がタップダンスをしている」シーンを生成AIに作ってもらった物です。何枚か作って「座頭市」のシーンに最も近い物を使いました。

東京芸大での授業

たけしによれば、漫才、映画でも数学の知識を駆使しているそうです。彼は東京芸大の東京芸術大学大学院映像研究科監督領域の教授でもあります。授業で映画理論について数式を使って説明しようとしたら学生がみんなポカーンとしていたとか。

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