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きっと夢はみない

夢を見ない人に共通してることの一つに「すごく疲れている」というのが在るような気がする。彼ら友人たちは、日々を限界以上に頑張って、倒れるように眠っている。すると、いつのまにか朝だというのだ。
僕がこんなに夢を見るのは、きっと現実を懸命に生きてないからかもしれないなと腑に落ちるところがあった。あれやこれや神経質に考えて、身体よりも思考が先走っている。

昨夜。僕は今年始まって以来、もっとも疲れていた。連日の深夜までの制作に加えて、ゴールデンウイークの子育てで、2人の子を抱えながら炎天下の中、あちこちを移動した。夜の寝かしつけでは、あまりの疲労で自身の涎が垂れるほどだった。まるで極限の宮本武蔵のようだ。
横になった。身体は鉛のように動かない。ただ頭だけはメラメラと冴えている。妻にひとしきり、このモヤモヤを語って、いよいよ寝室に入った。今度は数秒で寝落ちした。

朝6:30。息子に叩き起こされた。
そして・・やはり夢をはっきり覚えていた。身体は重い。

タワーマンションの一室で、あるマダムに5個のエメラルドの宝石を託されていた。これを盗賊から守って欲しいという。僕は衣類の中に縫い付けたりして、時々部屋に訪れる怪しいひとたちをうまくやり過ごしていた。
数日後、マダムが部屋に訪れて、宝石はどこですか?と尋ねた。しかし明らかに様子が違う。怪しいと思いうやむやにしたら、いきなりドアが開いて、屈強な男たちが続々と入ってきた。
盗まれる!と思い、備え付けの電話に119を発信する。「こちら614号室、応援お願いします!」。マダムに左肩をナイフで刺される。少し血は出たが、そこまで痛くはない。逆に隙が生まれた。
僕はベランダに出て、パイプを伝って、下の部屋下の部屋で降りていく。614号。高さはどうみても、6階建というより、30階建くらいはある。しかし、怖くない。スルスルと猿のようにパイプを伝って、エメラルドを水筒の中にしまい、地上まで降りていく。

地面に降り立ったら、疾風のように駆けた。気持ちが良い。誰も止められない。そびえ立つタワマンの裏手の方に回り込み、馴染みにの古道具やへと駆け込んだ。
老人の店主は驚いてたが信頼に足りる人で、事情を話し、そのエメラルドを託した。
何人かの怪しい男たちが素通りしていくが、ここなら大丈夫だ。古道具屋は、まるでネバーエンディングストーリーで、セバスチャンが駆け込んだ本屋さんのよう。ここだけ静かな時が流れていた。

ーーー
息子の泣き声で目が覚める。疲れていた。そして、(ここまで疲れて爆睡したのに、夢からは逃れられない)とがっかりした。こればっかりはしかたがないのだ。

タワーマンションの象徴は、ここまで取り組んできた作品への思い(気負い)だと思う。エメラルドはそれでも見失ってはいけない純粋な創作意欲。マダムは、自身の作り上げた依頼主のイメージ。根本的に自己肯定感の低い僕は、いつもどこかで他者に恐怖している。だから余計に気を使い、勝手に痩せ衰えるほど疲労する。
しかし、純粋なエメラルドを守るために、タワーマンションの外に飛び出す。高層ビルの高さも怖くない。そして、疾風のようにかけぬける、その「爽快感」たるや。

僕は、一つ超えたと感じた。精神分析の教授からも「えげつない」とされる無意識。我々はその恐怖に向き合うこと。まるで村上春樹の「街とその不確かな壁」のように。
主人公は夢読みとして壁の街で暮らしていくが、影に誘われて街から出ていく物語。今朝の夢に共通している部分が多い。

勝手に思いを作り、巨大なタワーマンションに閉じ込めるのも、そこから脱出するのも自分なのだ。はてしない鉱山から、訳のわからない夢を発見しては、出口を見つける旅。
繰り返しになるが、答えはハッキリとしている。「僕は疾風のように駆け抜けた」。この感覚だけ忘れなければいい。 
そうすれば、どんな困難でも乗り越えられるだろう。

(おしまい)

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