連載小説「幸せになりたいの」第5話
【前回までのあらすじ】
スピリチュアル界のカリスマ女子「ピーラブちゃん」。恋もお金も思いのままになるという“押し寄せの法則”を学ぶべく、しがないアラフォーOLのマドカは、勇気を振り絞って88万円のセミナーに申し込んだ。しかし、その直後に突然のリストラに遭い、早くも運命の波が押し寄せる…。そんなマドカはいよいよセミナー当日を迎えたのであった…。
第一話はこちら→#1幸せになりたいの
第2話
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第5話
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#5 セミナー当日。
いよいよピーラブメソッド・セミナー当日がやってきた。
緊張と興奮とドキドキとワクワクで、前日は熟睡できなかった。遠足の前の日の子供みたいだ、と思ったが、マドカ自身は遠足を楽しみで眠れなかった記憶はない。
今回は前回の講演会の教訓を生かし、マドカは開始15分前に到着した。今日は一番前の席でピーラブちゃんの話を聞こうと。
しかし、席はどういうわけかすでに3列目までは「予約席」となっていた。そして、いざ受講者が揃うと、想像していたより人数が多くてびっくりした。
(30人の少人数制って書いてあったのに…、どう見ても50人くらいいいるんだけど…?)
マドカは、はたしてこれが「少人数」と言えるのかよくわからないが、とにかく4列目に陣取った。
後から知ったのだが、ピーラブちゃんのお弟子さんからの直接の『紹介枠』があったようで、20人ほどは裏口入学のように入ってきた人たちだった。その人たちが前列を占領…。
(うーん。少ない人数だから申し込んだのになぁ)
マドカは、あまり大人数の中に身を置いたり、まして話したりするのが得意ではなかった。
場所は赤坂にあるビルの中の大きな会議室だった。そのフロア全体が、いくつかの会議室やセミナールームになっているようだ。清潔感があり、ロビーにはミネラルウォーターのサーバーが置いてある。
室内にはヒーリング・ミュージックのような優しい音楽が流れている。知ってる音楽だ。ピーラブちゃん監修のヒーリングCDとして、ネット販売されていて、マドカも持っているからだ。なんでも、聞いてるだけで、恋愛運が上がって、理想の男性からモテるようになるという、耳には聞こえない天使の声が入っているという音楽。一枚6500円もしたのだが…。今の所、効果は感じられない…。
しかし、効果がないのは…、
『天使のエネルギーを受け取れないのは、あなたに覚悟が足りないからだよ!』
と、そういう質問者に答えてたのを読んだことがあるので、きっと自分に覚悟が足りないのだろうと思った。
席に着き、周りを観察する。
入り口の受付の机の周りでスタッフ同士で盛り上がっていた。ピーラブちゃんのブログやインスタで見たことのあるピーラブ・メイトもいる。古株のピーラブ・メイトは、それなりに有名になっている人もいる。“エンジェル・マスター”の資格を得れば、ピーラブメソッドの講師になって、自身でセミナーなどを開催できるのだ。
(私も、いつかはそうなってたくさん稼げるのかも…)
と、マドカは未来を想像するだけで頰が緩んだ。
(あ、そういえば…)
マドカはふと、受付のあたりを見渡すが、今回はあの変な男はさすがにいなかった。
講演会とは違って、受講者も全員女性だった。もともとピーラブちゃんのファンはほとんど女性だ。ピーラブちゃん自身も『まずは女が幸せなる事!』と、いつも言っている。
(そうだ!これからは女の時代だ。男にいい顔させてばかりいられるか!)
マドカは今まで付き合った男たちや、パワハラまがいの上司の男たちを苦々しく思い出しながら、空いている席に座った。
(でも、もう男運に恵まれない人生とはこのセミナーで学べばおさらばできる!)
マドカは荒い鼻息を抑えつつ、周りを見渡した。
のん気そうなスタッフ達と違って、受講生はピリピリしているのが伝わってきた。マドカ自身もかなり緊張とはちきれんばかりの期待で興奮状態だったが、きっとここにいる誰もが同じような心持ちなのだろう。
隣の席になった女性を横目でチェックした。
歳は40台半ばだろうか。明らかに『幸せな人生』とは対照的な位置にいるようなオーラを醸し出しているような気がした。
ピーラブちゃんは人のオーラを見ることができるようだが、この隣の女性のオーラはどんなのだろう?
(オーラ…か…。てゆーか、私のオーラも見てもらいたいわ…)
ピーラブちゃんの『ラブエンジェル・オーラ・セッション』を受ければ、オーラを読み取ってもらって、自分の過去の恋愛の傷をすべて癒し、生まれる前に運命を約束していた『ツイン・ソウル』との確実な出会いが起こる、とのことだ。
そのセッションも非常に魅力的ではあるが、マンツーマンで1時間セッションを受けて30万円もするセッションなので、まだその勇気は出ない。
しかし、ピーラブちゃん自身は、ラブ・エンジェルの力により、ラブラブオーラを身にまとった結果、ソウルメイトだった旦那さんとの関係を修復させ、それから天使が選んだツインソウルの彼氏とラブラブとのことだ。
(私もそんな風になりたい!ツインソウルと出会って愛されたい!)
マドカは思わず拳を握りしめてた自分に気づき、肩の力を緩め、自分のノートを出しながら、もう一度隣の女性を何気なく眺めた。
彼女は配られた資料の横に、大学ノートと二種類のボールペンを置いて、メモる気満々のようだ。眼鏡をかけているが、レンズの向こうの目は血走っているように感じられた。
しかし、それは彼女だけでなく、会場中にいる中年女性全員が、そんな状態だと思った。
(絶対幸せになってやる!)
まるでそんな心の声が聞こえるようだった。会場中に、そんな気迫とか執念のようなエネルギーが溢れているような…。
しかしそれはなんともそれは滑稽なようにも感じたし、これから素敵なパートナーに出会いたいにしても、こんな気合と執念にまみれた女を好きになる男がいるのだろうか?
(あれ?てゆーか私もこの人たちと同じ?)
マドカはふと冷静になって、コンパクトを出して顔をチェックした。
(うん、確かに隣の人を笑えない…)
自分も眉間にシワが寄ってるような気がした…。
やはり一度、オーラを見てもらった方がいいかもしれない。
続く
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