イタリアの伊達男が着こなす、毛玉が特徴のカゼンティーノ生地。
セーターを着ているうちに、毛が絡まって毛玉ができてしまう、この毛玉を「あえて」作る生地が、イタリアに存在します。
フィレンツェからカゼンティーノ地区まで、車で2時間弱かかる。直線距離にすれば、きっと40分くらい。トンネルが開通してないので、山と谷を越えなければならず、トスカーナ州の秘境。
というと、地区の人々に失礼かもしれないけど、はあ〜〜やっと着いた。と、車から降りて背筋を伸ばしたくなる感じ。
カゼンティーノ地区には、山があり、川があり、羊さんもいる。
山では、生地を染色するときに必要な、火おこしのための炭を作り、川は羊毛を洗うためと、水車を動かすため。羊さんは、もちろん、羊毛のため。
生地を作る条件が揃っていることから、中世時代にすでに羊毛連合組合が作られていました。
雨が降っても仕事ができるように
庇のあるスティアの街並み
イタリア語でArte della Lana (アルテ・デラ・ラーナ)と呼ぶ、この羊毛連合組合。ベルギー、フランス、イギリス、そして、イタリアが、羊毛業界の先駆者。そのなかでも、飛び抜けたハイクオリティーを維持していたのが、イタリア。
羊毛連合組合のシンボル
そのイタリアにあり、欧州の名だたる王族や貴族が特に所望したのが、メイド・イン・フィレンツェ。フィレンツェの羊毛連合組合は、だから、世界的にとても重要な位置にあり、とにかく大きく、潤沢な財源をもっていたのです。
どれだけお金があったかというと、フィレンツェのドォーモと呼ばれる花の聖母大聖堂の建立にあたり、スポンサーになったのが、羊毛連合組合。羊毛連合組合がお金をポンと出し、建設が始まったのです。
フィレンツェ大聖堂のシンボルは、旗を持つ羊さんですが、迷える子羊さんではなく、羊毛連合組合のシンボルなんですよ。
それだけ大きなフィレンツェの羊毛連合組合に、
君たちは、直接に諸外国と取引をしてはならず、品質も上げてはいけません。
なんて、カゼンティーノの羊毛連合組合は言われてしまい、それに従わざる得ませんでした。
フィレンツェの羊毛連合組合は、質の良い羊毛を海外から仕入れて豪華で美しい衣服に仕立てていましたが、カゼンティーノ地区の羊毛連合組合は、地元の剛毛な羊毛のみを使うことを義務付けられていたのです。
この契約が解かれるのは、メディチ家断絶後に跡を継いだロレーナ家のフランチェスコ大公のとき。1738年のこと。ざっくり300年間。長い。
カゼンティーノ地区にあり、特に生地産業が盛んだったのが、スティアという町。1770年に羊毛連合組合が解散してから、数回所有者が変わりますが、その時々の経営責任者は、経営に熱く、スティア町を1大織物産業にのし上げました。
最高潮のときで、生地産業に従事する人は500名。スティア人口を軽く上回っていたはず。
リッチョリとイタリア語で呼ばれる「毛玉」は、雨に濡れにくく、寒さから守るための、ダブル保護のため作られています。ラチナトゥーラと呼ばれる作業で、滑らかな生地の表面に、毛玉を作っていきます。
左側が滑らかな生地。
中央の角材のようなものが円を描いて動きます。
右側は毛玉のあるカゼンティーノ生地。
どうやって作るのか、ずっと疑問だったけど、なるほど!思わず膝を叩きたくなった。
もともとは、カゼンティーノ地方にいまでも存在する、カマイオーレ修道院の修道僧や、山や畑の仕事をする人たちが着ていたもの。お古になったものは、馬の鞍の下に敷く、マットとして利用されていたそうです。
1800年代になると、機能性だけでなく、デザインも洗練され、オペラ作家のジュゼッペヴェルディやジャコモプッチーニ、そしてリカーゾリ男爵らが、好んでカゼンティーノ生地のコートを着るようになり、注目を集めるようになります。
カゼンティーノ生地の特徴は「毛玉」のほかに、もう1つ。色!
全身鮮やかなオレンジ色! 裏地も鮮やかなミドリ色!
フィレンツェで「カゼンティーノ」と言えば、「オレンジ+みどり」の毛玉コート。毛玉、オレンジ、みどり。これだけでもインパクト充分なのに、さらに、イタリアの伊達男は、フォックスファーをぐるりと襟に巻いている。
これが、似合う人は、本当に似合うんだ。
通りすがりに、思わず振り返ってしまうほど、かっこいいなぁ。と見惚れる、カゼンティーノ伊達男。
それは、年の功がある、おじさま。
若い子が着ても素敵だけど、あの「カゼンティーノ」を、おじさまが着ると、とにかく、エレガント。
下段で紹介している、テッシルノーヴァ社のカタログから。
エレガントなおじさまに、写真撮らせて下さいとお願いできなくて、いつも遠巻きに見ているだけなので、冬にフィレンツェに訪れた時に探してみてくださいね。
本当は、きれいな赤色に染めたかったらしいけど、染色するための材料と配合を間違えて、鮮やかなオレンジ色になってしまったようです。
それが、いまや、カゼンティーノの、代表色。
正規店は2社あり、1社はフィレンツェの中心街にも店舗を出しています。オレンジ色だけでなく、さまざまな色とデザインがあります。わたしも持っていますが、軽くて温かくて、ラインもきれい。
「ティファニーで朝食を」でオードリーヘップバーンが着ていた、オレンジ色のコートも、カゼンティーノなんですよ。
カゼンティーノ地区スティア町は、「炎に生きるオトコたちの匠」でも紹介したところです。
この日は、鍛治職人展と、カゼンティーノ生地博物館を梯子してきました。
カタログを購入したら、
羊さんのマグネットと
ボールペンももらえた。
かわいい❤️
ちらちらと、羊さんのイラストが登場しましたが、子供向けのパンフレットもあり、生地ができるまでのストーリーが記載されています。イラストも可愛いいので、こちらに、掲載しておきます。
川で羊毛をきれいにしたら、
チョキチョキと毛を刈ってもらい、
繊維の塊を梳いて、
いーとーまきまき ひいてひいてトントントン
経糸(たていと)を整えたら、
機織り、トンカラリ、トントン 。
生地を染め上げて
ラチナトゥーラ作業をして、
カゼンティーノ生地のできあがり!
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