ゲツセマネの祈り/ルーカス・クラーナハ

こんにちは。『上野で楽しむ西洋美術』第三回の記事を書いていきたいと思います。


皆さんは、西洋美術と聞いてどこの国を連想するでしょうか。


ルネサンス絵画が有名なイタリアでしょうか?印象派などで有名なフランスでしょうか?


今日は若干イメージが湧きずらいドイツの絵画について取り上げてみました。紹介するのは以下の写真の『ゲッセマネの祈り』という作品です。

画像1


今回は「1.作者、2.主題、3.時代背景」の3つの点から鑑賞していきます。


1.作者

→ルーカス・クラーナハ(クラナッハ)

第一回目に紹介した『城の見える風景』の少し後、またはほぼ同時代の1518年頃の作品です。作者はドイツのルーカス・クラーナハ(1472-1553)で、イタリアのミケランジェロ、同じドイツではデューラーや宗教改革のルターと同じ世代に活躍した画家です。実は3年前には国立西洋美術館でクラーナハ展も開催されており、日本でもそれなりに名の通った画家です。


画像2

クラーナハを知らない方もこの顔にはどこかで見覚えがあるのではないでしょうか?クラーナハによるルターの肖像画です。


2.主題:

→新約聖書 ゲッセマネの祈り

キリストが磔刑に合う前日の晩に、神に向かって磔刑に対する苦悩を祈るシーンです。見張りの弟子たち(ペトロ・ヤコブ・ヨハネ)はイエスに見張りを頼まれたのにも関わらず眠ってしまいます。左奥にはイエスを逮捕するためにやってきた群衆が見えます。

画像3


3.時代背景

→風景画が成立し始めた時期・地域の作品であること。

第一回目の記事で紹介した通り、西洋画の歴史において風景画が宗教画などと同じように評価されるようになったのは、近代になってからのことです。そもそも15世紀以前は、風景だけを純粋に描くという発想すらあまりなかったようです。風景は背景に過ぎなかったのです。


そのような西洋において風景画が成立し始めたのが、意外にも現在のドイツでした。


16世紀、デューラーやその後に続くドナウ派と呼ばれる様式によって風景画が発展していき、クラーナハもその影響を受けた一人になります。


画像4

人物を含まない西洋初の純粋な油彩風景画とされるアルトドルファー(約1480-1558)の作品。


今回のクラナッハの作品は、あくまで聖書の一場面を題材とした作品で、風景を重点的に描いた作品ではありません。しかし、同じ主題の他の作品と比較してみると、何となくこの作者が風景や自然に関心を持っていたというのが分かるような気がします。 同じ主題の三枚の絵画と比べてみましょう。

画像5

ベッリーニ(1430-1516)

画像6

マンテーニャ(1431-1506)

画像7

Pieter Coecke van Aelst(1502-1550)


見比べてみてどうでしょう?3枚とも構成されている要素は大体同じです。背景には丘や木々が描かれていますが、どうも生命力のない、虚構の世界に見えてしまいます。

→実際は聖書の世界で、且つヨーロッパとは異なる気候のイスラエル周辺が舞台なので、敢えて無機質に描かれているのかもしれません。


それに対して、クラナッハの作品はどうでしょうか?

画像8

右側に描かれた植物(オリーブでしょうか?)は単なるイラスト化された植物ではなく、非常に生命力を感じます。イタリアに比べて緑の豊富なドイツだからこそ、こういった表現になるのかもしれません。


まとめ

以上3つのポイントからこの作品を見てきました。調べてみると、ドイツの美術はイタリアとは異なる独特な流れがあり、とても奥が深そうです!来年1月までハプスブルク展でクラナッハ の作品もいくつか展示されているので、ぜひこの機会にドイツ美術を鑑賞しに行ってはいかがでしょうか!