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ハリボテの世界

昨日から、全面的にフランス全土に、15日間の外出禁止令が政府から出された。
とはいえ、食料や薬、その他生活必需品の買い出しや、軽い運動や犬の散歩などで近くに出ることは許可されている。もちろん病院に行くことも許可。ただし、毎回何の用事で外出するのか、日付、サインした証明証と身分証を持ってしか出られない。外出する時は一人、グループでいることは禁止。警察と軍隊が街を巡回し、許可された外出でないと判断された場合は罰金となる。基本、外に出ることは禁止。

わーい、オフィシャルな休みだぜー、なんて喜んでいたのも始めの半日くらい、1日しか過ぎていないというのに、すでに誰とも会えない、家の中に閉じこもっている生活に飽きている。家に居ることがけっして嫌いなタイプなわけではないのにもかかわらずこの飽き具合とくれば、強制された自由の無さということがおそらくわたしにはとても堪えているようだ。
掃除したりとか部屋を片付けたりだとか、あるいはこうやって文章を書いたりだとか、したかった勉強をしたりとか、読みたかった本を読むとか、構想を練っていた作品を創り出してみるとか、頭の中でこの時間を生産的、もしくはクリエイティブなことに使えばいい!と散々自分に声掛けしてみるも、いやはや、これがなかなか難しい。

電話をかけてきてくれた仲のいいゲイの友達に、もう家に閉じこもっているのにうんざりだと愚痴をこぼす。昨日はジョギングに朝行ったあとシャワーを浴びて、その後はパジャマでずっと過ごしたんだというわたしに、「わー、あんただめじゃない、それ、そんなブリジットジョーンズみたいなことしてると、100パーセント精神的にもたないよ!誰とも合わないとしてもパジャマは着変えなさい!」と叱咤激励された。

今朝、証明証を持ってジョギングに出て、海沿いを走った。わたしが住んでいる街は南仏の気候が良い街で、ほとんど雨が降らない。とてつもなくパリが恋しいわたしでさえも、毎日この突き抜けたような青空が広がる温暖な気候と、どこまでも続く海が近くにある生活はもう簡単には手放せなくなっている。
目覚めたばかりの太陽がこの街特有の青色に海を輝かせているのを見ながら、走る。心地良い風はゆっくりと身体を撫でていく。この場所はまだここに在る。

ジョギングの帰り、街の中を少し歩いてみた。こんなにも太陽はさんさんと降り注いでいるのに、街はしんと静まり返っている。何もかも店は閉まっている。太陽にキラキラと大げさに照明をあてられているせいなのか、建物も道も立体的ではなく平面的に見え、なんだかすべて完璧に作り上げられたハリボテの映画のセットのようだ。がらんとした偽物の街にひとりだけポツンと存在している感覚にふいに襲われて、これは夢だろうかと一瞬ぐらりと感覚が揺らいだ。

でも残念ながらこれは夢でもなんでもないわけで、15日間なんかでもちろん終わらないだろう。この国の歴史に残るであろう、ある意味興味深い時期を過ごしているわけだ。なんとかクサクサせずに進んでいける方向を自分の中から見つけていきながら。

というわけで、これを書いている今は、パジャマではなく、ちょっとゆったりした普段着、に着替えて書いている。

愛しい日々の連続を。

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