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光が入る。

朝目が覚めて、窓を少し開けてみると、そこにはいつものここ特有の突き抜ける青があった。久しぶりに昼前くらいまでゆっくりと寝てしまったので、もう太陽はゆっくりと景色を温めている。それでもまだ空気の中にはしんとした冬の匂いが残り、澄んだ青い色を部屋の中に取り込みたくなって全開に窓を開けた。

昨年の暮れから週7日毎日休みがなく働いていた。がむしゃらな気分になっていたのかもしれない。ただただ自分の好きなことを見つけたい、そんな子供みたいな思いだけが心の頼りにするかのように、毎日を貪るように進めていた。休み無しで働いているわたしを見て、周りの友達からはあいつが日本人に戻ろうとしてるよ、とシニカルに茶化されていた。
それでも1、2ヶ月もしてくると体の方がサインを出してきて、思いがけない怪我をしたりガタがきたりする。それでも走り続けることをやめることができなくて、時々、ゆっくりと丸1日休みたいと、休みを渇望し始めていた。

そこにきて、フランス全土に突然訪れた営業禁止令。期限不明の休み。ほとんどの人にとってその知らせは晴天の霹靂のようなものだった。前の晩、友達たちといつものワインバーに集まって楽しくお喋りに明け暮れていたのが、なんだか嘘みたいで、ショックはやはりわたしを襲った。わたしの仕事もこの騒ぎで吹き飛んでしまった。

窓から入ってくる少し冷たい風と暖かい太陽の光にさらされてわたしはふとあることに気づき、不思議な気分に陥った。
あれ、願いが叶っている。あれだけ渇望していた休みがどっさりと今ここに否応なしに手に入っている。かたちとしては全く、全く望んでいたものではなかったけれど。

現実だけをみると、すごく不安でこわくなる。形あるものなんて本当は無くて、全ては触ると溶けてしまうようなものなのかもしれない。そうやって思いをめぐらせては不安の波に覆われそうになる一方で、なぜかその不安を追い続けるだけの現実にはもう自分は居ないと知っている自分がどこかいて、不思議な感覚が身体に在るのを感じている。

視点を変えると別のものが見えてくる。
もしかして、もしかして、もうすでに光の方向へ進んでいるのかもしれない。そんな風に思いながら、ゆっくりと窓を閉める。

家族のこと、友人たちのこと、仲間のことを想像する。
在ることの光。

愛しい日々の連続を。

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