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21.カリン

 寒さが身に滲む紅葉の頃、都市近郊の庭で異様に大きな実が目立ってくる。柑橘と同じ黄色だが手触りはさらさらで、そして何よりも硬い。頭上から落ちてきた日には死者が出るかもしれない…
アナスタシアのマナは、つい1時間前に落ちてきた大ダメージ!の元凶を持ってみて思った。植物の事、自分は全く疎いが、煙の貴人なら知っているだろうと予想して。
「あな見事なカリンだスなぁ。」
煙の貴人――諸事情によりマナはそう呼ぶ事にした――はサングラス越しでも分かる笑みを零して言った。
「お嬢さんの素振りには丁度良いだス。」
「…マジですか。」
カリンは濃桃色の花から実を生じる。その大きさは女の掌よりも大きく、硬さは石と同等だ。その頑強さは果肉に多数占める石細胞によるので、石の上にぽてんと落ちても表皮が少し傷つくだけ。包丁で一太刀通すのも一苦労だ。
「細切れにしましたけど、どうしますか?」
「鍋に水と一緒に入れるだス…佳き物を見せて差し上げよう。」
なんとか細かくしたカリンを種ごと鍋に入れ、これが浸かるまで水を入れて煮詰める。水がとろりとしてきたら晒で濾して。
「サラシまだ残ってて良かったです。」
「此方の晒は少々密だスな、多少は通ってくれないと困るだス…」
液体を砂糖と共に鍋へ戻し、ひたすら煮詰める。
「わ。」
すると、黄色に近かった液体が赤色に変わった。火が通るにつれて粘性が増し、照りが出てくる。試しに掬ってみれば水の中から宝石を掘り当てたよう。正にジェ(・)ムだ。
「どうぞ召しませ。」
「い、いただきます・・・」
一体どんな味なのだろう?
綺麗な食べ物に心躍らせ、マナはカリンジャムをぱくりと一口。不思議な甘味にサイダーは合うだろうか。そこからマナは、畏れ多くも首都サクリーナ城一般部寮に現れたテロリストと彼にサイダーをあげて帰したらしい友人を思い出した。
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酒やはちみつに漬けてシロップにするのがカリンの主な利用法ですが、TVでコレを見た時は感動しました。きれいですね!カリンはバラ科ですが丈夫な植物です。喉の守護神として、お庭にどうぞ。
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参考ホームページ
・やまと尼寺献立帳「かりんジャム」
※マナが最後に思い出した2人については「5.スイートバジル」を参照。
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CAST
・アナスタシアのマナ
・「貴人の名を呼びつけるなど、無礼者。」「え、えぇー…」

※写真は写真AC D850様(https://www.photo-ac.com/profile/228981)からお借りしました。

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