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芦雪の画のアベンジャーズ感。「動物の絵」展レポート2

それでは、誰も待っていないかもしれないけれどお待たせしました。府中市美術館「動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」(前期)のマイベスト3を発表いたします。
展覧会のテーマにどれだけ合っているかではなく、シンプルに見て心を打たれた作品を選んでいます。

ベスト1 「象と鯨図屏風」伊藤若冲 MIHO MUSEUM蔵 【展示番号4】

この屏風を見るのは3回目です。東京・上野で開かれた「若冲展」(動植綵絵が展示されたときの)、「奇想の系譜」展、そして今回。
だから、もう知っているよーという気持ちもあったのですが、なぜか今回、胸に響きました。
右隻の白い象がいいんですよね。若冲、象なんか見たことなかったでしょうから、想像で描いているんだけど、等身がちょっとおかしくて。私はこの象さん、マンボウ象と呼んででいます。魚のマンボウみたいに2等身だから。
若冲展の解説に「耳がゆでたまごを半分に割ったみたいな楕円形」と書かれていて、それからもうこの耳はゆでたまごにしか見えなくなってしまいました。
左隻のクジラは、顔や目が見えないのですが、それがいい。潮吹きの水の勢いがかなり激しくて、でもリアルで、それもいい。
何より右と左で海がつながっているスケールの大きな世界観が好きです。

これは若冲ブームが起こってから2008年に新発見された絵ということですが、保存状態が良く、水墨のモノクロームの階調が美しいままに見られます。

今回の展示はちょっとおもしろくて、屏風がいつもより高い位置に展示されているんですよね。ちょうど象と鯨が私たちの目線ぐらいにくるぐらい。その分、背の低い私などは上部を見上げる形になってしまうのですが。

実は数日前、京都で福田美術館の若冲展と相国寺承天閣美術館を見てきたからもしれませんが、この絵は晩年に描いたものということで、動植綵絵のように「み仏の世界を絵で再現するのだ」という宗教的なプレッシャーや「チキンチキンチキン!」という鶏にとりつかれたような写実原理主義の絵とは違い(京都で鶏図をたくさん見すぎて食傷気味なのです)、開放的な気持ちで描いているような印象がありました。
会場では、この絵について「なるほど、そうだったのかもしれないのですね」と思わされる解釈も掲示されています。

ちなみに福田美術館では若冲の最も若い頃の絵も見たので、1週間で若冲の始まりと終わりを見ることができました。ちょっと自慢できるかな。

<↓福田美術館「蕪に双鶏図」>

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ベスト2「径」小倉遊亀 東京藝術大学蔵 【展示番号125】

この絵も2回以上見ています。前回は国立東京近代美術館での「小倉遊亀」展だったかな。
小倉さんらしいシンプルな絵で、左からお母さん、女児、飼い犬が、まるでブレーメンの音楽隊のように並んで歩いています。
画面の左上から右下へ、対角線に沿って斜めに人物が配置され、背景も空と地面をふわっとぼかして描いている。
晴れた夏の日、日傘を差して歩く親子と犬の心身ともに健康そうなこと。
絵が発表された昭和41年頃の高度経済成長期,庶民が豊かになっていったその時代のひとコマをその空気感と共に切り取った絵に見えます。
私も昭和40年代の生まれですが、こういう時代があったんだよ。おそらく大人たちが戦争の痛手からようやく立ち直っていった段階で、日本の社会はどんどん豊かになっていく。企業戦士のお父さんと専業主婦のお母さん、子供は2人。マイホームの庭で子供たちと愛犬が遊ぶ。そんな中流家庭がスタンダード。みんながそう思っていた幸福な時代ですよね。
と思ったのですが、この絵が描いたのは実は当時の日本ではなかったようです。会場の解説を読んでみてください。

今回気づいたのは、女の子が持つエスニックな巾着袋、お母さんが持つ竹籠が濃い色でやたらくっきり描かれているんですよね。
小倉さんは花や壺などの静物画も上手い人で、その上手さがよく出ている。でも、こんなにくっきり描く必要はあったのかな。人物が主役なのに矛盾していて面白いなと思いました。

ベスト3「十二支図」長沢芦雪 摘水軒記念文化振興財団 【展示番号53】

「奇想の画家」のひとりである芦雪。虎や竜や牛、猿山を描いた襖絵など、その代表的な作品のダイナミックさに比べると、絵としては凡庸な構成なのですが、私は芦雪は人物より動物の方が生き生きと描ける人だと思いますし、動物たちの表情が明るくて微笑ましくなりました。なんかね、アベンジャーズ感あるんですよね。
推測ですが、おそらく顧客から注文を受けて描いた床の間に飾る掛け軸用で、芦雪が本当に描きたかった題材ではない。だから、掛け軸でもよくある水墨の龍図に他の11の動物を無理やり合成したような感じで、とってつけた感が否めない。
でも、それが現在の特殊映像効果を使ったヒーロー映画のような感じがして、面白かった。会場をめぐりながら何度も見てしまいました。
これ、ポスターにして販売してくれないかな。私もお正月に玄関など飾りたい。

以上3点は偶然にも前期展示のみです。
他の美術館でもそうですが、前期後期でガラッと作品の多くが入れ替わるのはどうなんだろうという気もしますが、今回は心を動かされたのがこの3点なので、いち早く行ってよかったです。

他に「新・美の巨人」で見て興味を持っていた現代作家・桂ゆきの作品はセサミストリートのような赤い生き物がかわいかったし、伝・雪村周継の伸び伸びとした虎の絵も気に入りました。先日、東京駅のアーティゾン美術館で特集展示を見たマリノ・マリーニの馬と騎手の絵も、構図といい色彩といいかっこいいなぁと惚れ惚れしました。

後期も行きます。楽しみです。

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