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26arts|[緊急フォーラム] マグネティック・テープ・アラート: 膨大な磁気テープの映画遺産を失う前にできること(国立映画アーカイブ)

京橋・国立映画アーカイブにて2021年10月16日(土)、[緊急フォーラム] マグネティック・テープ・アラート: 膨大な磁気テープの映画遺産を失う前にできることを拝聴してきました!
本イベントは、磁気テープに記録された映画・映像は、2025年までにデジタルファイル化されなければ、永遠に失われかねない、というユネスコの警告を受け、「世界視聴覚遺産の日」(10月27日)記念特別イベントとして企画されたものです。当初定員は155名でしたが、キャンセル待ちが多く310名と席を増やし、制作会社をはじめとする映画・映像関係の企業の方、教育機関、図書館や美術館・博物館の方々が多く参加しました。
「磁気テープって、VHS(いわゆるビデオテープ)のことか!」という素人が貴重な席を得てしまったわけですが、一般の方にも関係のある問題ですので、私のできる限りお伝えしたいと思います!

イベントの模様は後日、国立映画アーカイブのYouTubeチャンネルでも公開されるそうです!

ビデオレクチャー「Deadline 2025について」
*日本語字幕付き

講師 ミヒャエル・レーベンシュタイン Michael Loebenstein (オーストリア映画博物館長、FIAF事務総長、オーストラリア国立フィルム&サウンドアーカイブ前CEO)

冒頭に、オーストリアよりミヒャエル・レーベンシュタインさんが動画で登壇しました。

①2023年3月までに生産や保守サービスが終了
②テープや再生機器のベタつきやカビ発生といった劣化が進む
③アナログ時代の技術者が高齢化してノウハウが継承されない
④個人作家の作品や個人による記録映像の保存が後回しにされがち
⑤保存やメンテナンスの設備・作業のためのヒト・モノに莫大な費用がかかる

という理由から、磁気テープは世界中で危機的状況にあり、マグネティック・テープ・アラートに対応するには、映画・映像団体だけではなく国の公的機関が参加する大規模プロジェクトを立ち上げなくてはならない、と提言をされました。

確かに大御所監督の映画作品やテレビ放送、個人作家でも代表作・受賞作なら収集・保存されると思いますが、初期作品や実験的に撮ったもの、個人が撮影した災害・事件などの記録映像、現存しない建築や風俗が映っているホームビデオは、誰にも見つけられずに死蔵・廃棄されてしまいそうです。

トークイベント「磁気テープ映画原版の保管状況と課題」

登壇者 押田興将(オフィス・シロウズ代表取締役)
    奥野邦利(日本大学芸術学部映画学科教授)
    松本圭二(福岡市総合図書館文学・映像課 映像管理員)
司会 冨田美香(国立映画アーカイブ主任研究員)

第一部トークイベントでは、磁気テープを所有している制作会社、大学、図書館と立場の違う御三方がお話しされました。磁気テープで撮影された映像は、新しい記録媒体へのダビングやデジタル化が進められています。

オフィス・シロウズ代表取締役の押田さんは、料金未払い等の理由で保管期間が切れてしまった際に、物理的なメディアであれば返還されるが、デジタルのみだと消去されてしまう可能性もあると言います。また、記録メディアは短いスパンで切り替わっていくため、更新し続けるにも煩雑で費用もかかると指摘しました。さらに、映画は著作権や財産権など、複数の権利を別々の企業や人物が所有しているため、誰のポストで管理・保管するのかという問題もあります。

奥野さんが所属する日本大学芸術学部は、歴代の卒業制作を保管しています。長い学部の歴史から、さまざまな機材や設備が整っていますが、そうした機器を扱う人員の確保は重要だそうです。専門的な知識や技術を若い世代に継承することももちろんですが、事故や機器の故障などの責任やリスクが伴うため、誰でもいいから人手を募るということもできません。それを踏まえて、製品設計図の保管、設計を含む関係者の連絡先リスト、情報共有のためのプラットホームの必要性を訴えました。

福岡市総合図書館の映像資料部門、福岡市フィルムアーカイヴは、FIAF(国際フィルムアーカイヴ連盟)の加盟施設です。国際映画祭を多数開催する福岡市と作家との契約により、最新の海外映画を半永久的に保存する特殊なアーカイブで、1つの映像作品を複数の異なるメディアで保存しています。松本さんは、地方の施設だからこそ外部委託ではなく、設備投資を行い自立した施設を目指すべきだと述べました。

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「わが映画人生 ダイジェスト・特別編」(10分)DVD上映

休憩を挟んで、映画100年・日本映画監督協会50周年を機に制作されたインタビュー映画シリーズ(1988年~)のダイジェスト上映がありました。初手で黒澤明に大島渚がインタビューしているという、レジェンドばかりが映画を語る本シリーズは、磁気テープで撮影されました。
上映後にご挨拶された日本映画監督協会理事長の崔洋一さんによると、お金がなかったのでフィルムではなく磁気テープで撮影したそう。長期保存を考えずにお財布と相談してメディアを選ぶことは、他の芸術分野でもしばしばあると思うので、そこは責められないなと思いました。

トークイベント「磁気テープ映画のデジタルファイル化と保存について」

登壇者 鈴木伸和(株式会社東京光音、視聴覚アーキビスト)
    藤原理子(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス メディア営業部 フィルム・アーカイブ営業グループ)
    緒方靖弘(寺田倉庫株式会社アーカイブ事業グループ)
司会 三浦 和己(国立映画アーカイブ研究員)

第二部トークイベントでは、最初に三浦さんから国立映画アーカイブでの作品保存ワークフローが説明され、続いて映画フィルムや映像・音楽テープの現像・ダビング、データ化を行う企業の方が登壇しました。

東京光音では、古いもの、劣化・破損したものなど、フィルムやテープのダビング依頼が1.3倍に増えたそうです。再生危機の寿命を伸ばすためには、テープの検査・クリーニング、再生機器のメンテナンスなど、適切な取り扱いが欠かせないと言います。鈴木さんは、そうした情報・技術を共有できるワークショップや誰でもダビング作業ができる自炊ステーションの設置を提案しました。

IMAGICAでは、テープを再生機器に入れるロボットアーム、映像・動画ファイルと鑑賞状況などのメタデータを一元管理するクラウドサービス「TASKEE」、自動文字起こしサービス「TRASC」などのシステムを開発しています。お客さんには、保存用に高品位メディア、活用用に使い勝手の良いメディアと、2種類に分けてのデータ保管を勧めています。

寺田倉庫は、アートやワインといった一点ものの希少な品を保管しています。映像フィルムの取り扱いは専門性が高く人件費がかかり、デジタル化しても容量が大きいため、継続的に保管するには高コストです。膨大な数がある場合は、数年かけてデジタル化する、上映会などで収益を得るようなエコシステムを回す必要がありますが、映画作品は二次利用のハードルが高いため、保管費用の回収が難しいと言います。

こうして、さまざまなマグネティック・テープ・アラートの現場からお話しいただき、約2時間半のトークイベントが終了しました。

マグネティック・テープ・アラート:
なぜ危機的状況にあるのか、何ができるのか

なぜ磁気テープが危機的状況なのか。以下に挙げるように、複数の要因が絡み合っているため、問題解決には複数の手を打つ必要がありそうです。

・再生機器の生産が停止する
・磁気テープや再生機器の劣化・故障
・記録媒体の種類が多岐にわたり、再生機器も同様に種類がある
・記録媒体の進化のスパンが短い
・アナログ機器を扱える若手の人材育成
・メンテナンス・修復・保管に関わる専門の人材や機材・場所にかかる莫大な費用
・保管やマネタイズのための複製・利活用に伴う権利問題

では、私たちに何ができるのでしょうか。

登壇者の方々のお話では、制作会社などの映画関係者、教育機関、図書館や美術館・博物館の方々にこうした磁気テープの現状を周知して、問題意識を高めること。技術や知見を共有してプラットフォーム化すること。そして、たくさんの人員や資金を割けるように公的機関と連携したプロジェクトにすることでした。

一般の方々でも、磁気テープや再生機器をメンテナンスして大事に扱い、不要になっても捨てずに、然るべきところに相談したり寄付したりできれば、磁気テープに保存された映画遺産・映像資料などを延命できるのではないでしょうか。
具体的には、磁気テープは地域の図書館や資料館に相談する、再生機器は東京光音やIMAGICAなどの企業に相談(最悪リサイクルショップに売る)など、頭の隅に留めておいて、大掃除や断捨離の時などに思い出していただきたいです。


おまけ
メディア芸術カレントコンテンツのお仕事で、
文化庁が「メディア芸術連携促進事業」として、マンガ原画の保存を科学的に行ったりマネタイズとしてマンガ展をパッケージングしたり、アニメのクレジットをひたすら記録したり、ゲーム音楽のオンライン展覧会を開催したり、メディアアート作品を第三者が再現できるよう情報を明快にしたり
していることを見てきた上でお話を聞いていたので、アーカイブでは考慮しなければいけない事項が本当にたくさんあるのだと、改めて合点がいきました。

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