エアロプレス

9月に2度東京に行った。いずれも仙台から高速バスで行った。気が狂っていたのかもしれない。2度目の東京遠征は一人旅で、早朝は奥渋谷のコーヒースタンドを巡る、という目的があった。僕自身コーヒーはあまり得意ではないのに、である。相当に気が狂っていたのかもしれない。

富ヶ谷にあるFuglen Tokyoというコーヒースタンドで、「エアロプレス」というコーヒー器具で抽出されたコーヒーを飲んだ。白状すると、僕はエアロプレスのことを全く知らなかったし、メニュー表ではじめてその文字列を見て、プロレス技か?と思った。はるばる高速バスで6時間半かけてやってきて、狭いコーヒースタンドの中でプロレス技をかけられるのか?と思った。

恐る恐るエアロプレスのコーヒーを注文する。店員さんが筒状の器具をぐーっと押してコーヒーを淹れてくれた。奇妙な抽出過程にますます慄いた。ところが。美味しかった。美味しかったのである。コーヒーが苦手な自分が、はじめて、背伸びでなく、強がりでもなく、コーヒーが美味しい、と感じたのだ。

今まで飲んでいたコーヒー、すなわち日本国内において遍く流通されているコーヒーは大体が深煎りで、色が濃く、苦い。その苦さがどうも得意でなく、喫茶店に行って紅茶ばかりをオーダーしていた。ところがエアロプレスは、浅煎りのコーヒーととても相性が良い。空気圧を使って短時間で抽出するため、酸味や苦みが抑えられ、果実本来のすっきりとした味わいが楽しめる。フレッシュジュースのようにコーヒーを絞り出す、という説明書きをどこかで見た。とにかくコーヒーが美味しく感じられる。Fuglen Tokyoのカウンター席で、コーヒー観が一気に変わるくらいの衝撃を受けた。相当な衝撃だった。たぶん知らないうちにプロレス技もかけられていたはずだ。

仙台に戻ってきてもすっかりエアロプレスの魅力にピンフォールされてしまっている。あの筒状の器具、欲しいな~と思って検索をすると、わりとお手頃な値段で購入できることがわかった。純正のものでも4000円程度で手に入る。買ってしまおうかと思っている。ちなみにこのエアロプレスが開発されたのは2005年と最近のことで、開発したのはフリスビーの会社らしい。フリスビー会社のコーヒーが美味い。みんな気が狂っているのかもしれない。

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