銭湯の日

10月10日は銭湯の日だという。由来は非常に安直で、1010、千「せん」十「とお」と読めるから、銭湯の日。だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。銭湯の日を制定した東京都公衆浴場業環境衛生同業組合によると、

 10月10日は我が国で初めてのオリンピックが東京で開催された日です(1964年10月10日)。これを契機として国民のスポーツに対する意欲が高まり、健康増進の目的でスポーツ人口は年々増加しています。スポーツで汗をかいた後に入浴することや、銭湯での入浴は健康に良いことが入浴実験でも証明され、スポーツと入浴は密接に関係していることが判明しました。  
 このような理由により、10月10日を銭湯の日として申請し、平成8年日本記念日協会の登録認定を受けました。

だという。いや絶対に後付けだろう。後付けもいいとこだろう。担当者に「後付けですよね?」と100回くらい問い質したい。

さて、私の住む仙台においては、残念ながら銭湯というものは非常に珍しい存在で、市内で営業している銭湯は4軒しかない。そして、4軒のいずれにも、私は行ったことがない。その代わりに、各温泉街にある公衆浴場や、郊外にある大規模なスーパー銭湯、もしくは市街地のサウナによく足を運ぶ。おそらく仙台に銭湯が少ないのは、家に備え付けの風呂がしっかりあることも一因だが、近郊に温泉街やスーパー銭湯が充実していることもまた大きな理由ではないかと思う。私は大のサウナ好きだが、それはスーパー銭湯という文化の中で育まれたものだ。

しかし、サウナ好きが講じて様々な情報収集をしていると、やはり東京の銭湯のサウナは良いぞ、みたいなことばかり書いてある。よって、初めての銭湯体験を!と意気込んで東京に先月乗り込んだわけだが、結果としては滞在時間の都合上、銭湯には行かずに終わった。正確には、「萩の湯」という、鶯谷にある巨大ビル型銭湯に行ったものの、あれはどちらかというとスーパー銭湯だ、という感想となった。スーパー銭湯にアイデンティティのある私としては、それはそれで良かった。萩の湯は最高、と色んなところで言って回っている。

そんな萩の湯で、サウナと水風呂の往復、いわゆる「交互浴」を行っていた時に、若い(おそらく高校生か大学生)男子4人組が水風呂のようにやってきた。うち2人はすんなりと水風呂に入る。もう2人が叫んでいる。「なんで入れんだよ!」「おかしいだろ!神経死んでるのかよ!」おいやめろ。その水風呂には私も浸かっている。私はもう死んでいる。

どうやら交互浴の素晴らしさを知ったサウナフリークの男子2人が、普及活動のために交互浴初体験の2人を誘った、という構図らしい。なんとも美しく微笑ましい風景だ。同級生が肩まで浸かるその水風呂に、膝下まで足を踏み入れて、動けない2人。交互浴は、沼だ。健康に良いかと言われると、実は心臓への負担が大きいので、微妙なところがある。ではどうして交互浴を行うのか。熱いと冷たいの繰り返しによる、各身体機能の活発化が絶妙に気持ち良いからだ。一度ハマったら抜け出せない、水風呂という沼。そこに今、足を踏み入れんとする2人の若者。5分ほど、嘆いたり諦めたりしていた男子たちだったが、同級生に促され、ついに覚悟を決め、試しに、腰まで、そして胸まで、いっそのこと、肩まで。

今ここに、新たなサウナフリークが誕生した。羽化の瞬間に立ち会った。おめでとう。私は心から2人を祝福したい。しばらくして、「この冷えた状態でサウナに入るのがいいんだぜ」と先輩サウナフリークに唆され、勇んでサウナに向かった4人組。私は、ずっと水風呂の中でそれを見ていた。ずっと水風呂の中で。いいか、絶対に私のようになるんじゃないぞ。
#エッセイ #コラム #銭湯 #萩の湯 #仙台 #銭湯の日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?