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BOE 金融政策報告書

11月4日に、イングランド銀行(BOE)は金融政策レポートを発表しました。

政策金利を据え置き

イングランド銀行(英中銀)は、11月4日開催の金融政策委員会で政策金利を0.10%に据え置くとともに、国債や社債を市場から買い入れる量的緩和策については、購入枠の上限を8,950億ポンドに維持することを決定しました。10月17日にベイリー総裁がインフレリスクの高まりに対して躊躇なく利上げする考えを示したことを受け、市場では利上げ観測が高まっていました。今回利上げは見送られましたが、金融政策委員会の声明で、「今後数カ月で政策金利の引き上げが必要になる」とし、近い将来の引き締め転換を予告しま
した。

今回利上げを見送った理由として、ベイリー総裁は「一時帰休者支援措置の終了を受けた労働市場の状況を巡るハードデータはまだ得られておらず、十分に明確な検証ができていない」としています。足元、英国の消費者物価上昇率はインフレ目標の2%を大きく上回る水準で推移しています。

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こうした背景には、行動制限緩和による経済活動の再開で需要回復が進むなか、部品や人手不足などの供給制約が強まったことに加え、天然ガスや石油などエネルギー価格の高騰が進んだことなどがあります。次回(12月16日)の金融政策委員会までに2回分の労働市場関係指標が発表されるため、その結果次第で12月に利上げが決定される可能性があります。

経済見通し

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今回公表されたMPR(金融政策報告書)に示された経済見通しでは、2022年にかけてGDPが下方修正された一方、消費者物価上昇率は上方修正されました。GDPに関しては、供給制約の影響により8月時点で予想されていた数値よりも減速するとの認識を示したほか、消費に減退の兆候があることも指摘しました。
消費者物価上昇率に関しては、エネルギー価格の上昇などを反映して、短期的には更に上昇することが見込まれ、来年4月には約5.0%に達すると予想されています。ただし、2022年後半以降は、供給制約が緩和し、エネルギー価格の上昇に歯止めがかかるため、2023年には2%台に低下すると見込まれています。

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政策金利については、消費者物価上昇率が2%目標に緩やかに回帰するよう引き上げていく必要があるとの認識が示されましたが、インフレ予想に基づくと利上げ局面は短期間にとどまる可能性が示唆されたと考えられます。

英国の一時帰休制度の失業率への影響については不透明

一時帰休制度として一般的に知られているコロナウィルス・ジョブ・リテンション・スキーム(CJRS)が9月末に終了されました。ピーク時には900万人弱の雇用が一時帰休しており、これは英国の対象労働者の約3分の1に相当します。イギリス国家統計局(ONS)の雇用統計によると、2021年9月末時点で、民間企業の約4.5%(約110万人分)の雇用が一時的に停止していました。(下のグラフは英国失業率の推移)

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一時帰休者の数が8月時点の予想を上回っていることから、失業率の直近および短期的な推移にはさらなる不確実性があるため、この推移を見極めたいというのがBOEの見解となっています。

インフレ率

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11月のインフレ率は、主にエネルギーやその他の商品価格の上昇を反映して、4.5%程度に上昇すると予想されてます(図表2-25)。エネルギー小売価格の上昇は、英国エネルギー規制当局(OFGEM)が、10月から実施した、電気とガスの小売価格の上限を、それぞれ9%と17%に引き上げることが反映されており、エネルギー卸価格の上昇の影響を受けています。
食品価格も、仕入原価の上昇と一部の供給障害を考慮して、今後数ヶ月間で4%程度に上昇すると予想されます。
自動車や衣料・履物などを含むコア商品価格インフレ率は、9月に3.3%と過去10年間で最も高い水準で推移しました。
今後数ヶ月間は、国内および世界的なコスト圧力により、インフレ率は引き続き上昇すると予想されています。

利上げの見通し

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今回の会合で、利上げに賛成票を投じたのは、ラムズデン副総裁(タカ派)とソーンダース委員(タカ派)の2名、QE案削減に賛成票を投じたのはこの両名に加えてマン委員(ハト派)の3名です。
市場に対して利上げのシグナルを発していたベイリー総裁や、FTのインタビューでインフレ率5%を見通して中央銀行としての措置を講ずるべきと主張していたピル委員(タカ派)は反対票を投じています。

現在の予測されているインフレ率の上昇などを考慮すると、何らかの対応を取る必要性はあるとの認識では委員会内のコンセンサスは取れているのではと考えます。BOEのWEBサイトでは、「目標インフレ率2%に戻すためには、金利を適度に引き上げる必要があると予想しています」と明示しており、12月の次回会合まで、雇用やインフレ率のデータを確認しながら議論が進んでいくと思われます。

他に問題となるのは、世界的なインフレ懸念から主要国中銀が金融政策の変更を検討している中で、BOEは、FRBやECBより先んじて利上げの決断をして実行に移すことになります。構造的には同じ課題(労働力、インフレ率、サプライチェーンの供給制約など)を抱えているFRBやECBは、BOEの行動をベンチマークして市場や経済の混乱を確認できることになります。
世界的パンデミックからの回復期という過去に例がない状況下での決断になるため、BOEは前例がない状態での決断を行うことになるので、より慎重な判断をするという姿勢になるかもしれません。但し、他国と異なりインフレ率の水準が高いのも事実ですので、タイミングを間違えば英国経済に混乱がおきるかもしれません。

主要国

もう一つは、今回の会合前にベイリー総裁が市場に発した利上げシグナルによって、市場は利上げ観測が高まりましたが、結果としては、利上げ見送りとなり、その後の記者会見の発言で、ベイリー総裁に対する市場の信頼感が揺らぐ事態になっています。
FRBのパウエル議長は、利上げまでのロードマップ(雇用と物価の安定)を明確にしており、かつ、上手く市場をコントロールしてテーパリングを開始しています。
BOEは、今回の利上げ見送りを、一時帰休制度の失業率への影響を見極めるためとしていますが、既に目標としているインフレ率2%を大きく超える水準になっていますので、利上げを期待する市場とのコミュニケーションを円滑に取ることが必要となりますが、今回の対応で、少なからずとも市場との間に溝ができたとすれば、ベイリー総裁と市場との対話が難しくなり、利上げ観測にまつわる混乱が生じるかもしれません。

何れにせよ、12月までの経済指標を確認しながら利上げの想定を行う、少し神経質な動きに注意したいと思います。

<注意事項>
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