介護ジャンルの読書②

『社会保障と財政の危機』 鈴木亘 著 2020.11 PHP新書

著者プロフ(簡略抜粋):学習院大学経済部教授。「行動する経済学者」として活躍されている。

本書は、介護のみならず、生活保護、医療、年金というように、他の社会保障にも章ごとに言及されていて、読みやすく学びやすい構成になっている。

本稿では「介護」の章から自身が得た情報にしぼって伝えたい。

刊行されたのが昨年2020の11月下旬である。記事内容は「第三波」と呼ばれる動態以前に書き上げられたようである。

読もうと思ったきっかけ

年末、本屋に立ち寄ったとき新書コーナーで見かけた。帯に「コロナ危機の次は、生活保護、介護、医療、年金の危機」と書いてあり目を引いたので購入した。

コロナ騒ぎのなか。いま。実際のところ、介護現場では何が起こっているのか。

これから何が起ころうとしているのか。

識者の見解から学び、自分なりに考えるためのヒントにしたいと考えた。

自分の経験

本書の内容に触れる前に。
まずは自分が介護施設職員として経験したことを述べる。

・面会のお断り。ご家族とご利用者当人の分断。近所にお住まいでそれまで毎日のようにいらっしゃっていたご利用者家族にも、しばらくの間、面会をお断りしていた。しかし双方より強いご要望があり、インターネット電話を利用してのコミュニケーションなど、工夫して行うようになっていった。ほんの少しだけ施設がデジタル化したように感じている。

・介護職員のストレス増。強制ではないにしても、休日の過ごし方について職場から指摘を受けている。「不要不急の外出は控えて」というものだ。クラスタ発生への恐怖感がある。それで心身がまいってしまうほどではないが、現在は感染症が流行りやすいシーズンでもあり、四六時中、その掛け声が脳内に響いている。「みんな大変なのだ!」と納得しようとしつつも、ストレスはストレスである。

・とはいえコロナの発生や蔓延によって、「自分の食い扶持がなくなった!」ということにはならなかったので、その点は大変ありがたいと思った。

twitterやウェブ記事で見聞きしてきた情報

・訪問介護、訪問看護、デイサービス、ショートステイ等。利用者・家族のサービス利用自粛による施設の収入減、および撤退。
・介護サービスを利用しない、できないことによる家族介護、家族の負担増。
・コロナによる経済危機で、減収、失職した世帯。そのうえでさらに家族の介護に悩む姿を目にした。世帯収入の低下、サービスの継続利用困難といった問題。

など。

本書5章「目前に迫る介護崩壊」の一部紹介と考えたこと

●「コロナ禍が続けば・・・重負担のもとで働く職員がバーンナウトし、残された職員はさらに疲弊、退職、というような悪循環に陥ることになる。」

現場職員の業務負担が荷重になっている例として、

「高いレベルの感染防止策施行」「外部業者に委託していた業務の自前負担」

を著者は挙げている。

以前の記事でも書いた覚えがあるが、私が働く施設ではフロア清掃や洗濯物たたみ、シーツ交換などは、ボランティアやシルバー人材に助けて頂いている。記憶が正しければ、かなり早い段階でみなさまには復帰してもらっていたので、ヘルパーの負担は大きく変わらずに経過することができている。いちヘルパーの立場であるが普段から感謝の念をもってお話しさせてもらっていて、そこで聞いた話だが。

施設管理者から、やはり軽くではあるが「感染防止の意識で気をつけて生活してほしい」という主旨のことを聞かされた、とのこと。どうにか感染を防ぎたい、という意識の表れであることは分かるし、責任者として発信せねばならないことであろう。有志無償でお手伝いしてくださるボランティアの方に対しても、サービスご利用者のいのちを預かる施設として「伝えるべきことは伝えねばならない」のだよなぁ、と思わされた一場面だった。そして、この年末年始で多くのボランティアやシルバーの方々のお休みがあり、現場職員はヒーヒー言っているのであって、普段どれだけ助けられているものかと、本当にありがたく感じているところだ。

 なので、これらの業務を毎日すべて自分たちでこなしていかねばならない、という日々を想像すると頭を抱えてしまう者である。

また著者は、このようなコロナ禍にともなう労働力不足、高負担という現象が、

「来たるべき未来を先取りして見せている」とし、だからこそ、

「一時的な対症療法ではなく、根本療法をとらねばならない」と述べている。

●「介護労働力不足を解決する方法は、介護報酬の本体価格をきちんと引き上げること」

介護職員の賃金は介護保険制度にもとづく介護報酬から支払われる。

「介護報酬を引き上げるということは、介護保険や税負担を引き上げる、ということ。」

現在の介護保険料(65歳以上の全国平均)は月額5869円(2020年度)。

著者の試算(=現行の2割引き上げ)によると、月額7000円程度になれば、全産業平均の給与を介護職ももらえる、ということになるらしい。

現役世代からの税収も増やすとして。

月々2000円強の負担増に全国民が納得できれば介護職は全産業平均並みの賃金を得ることができるらしい。

…なかなかにハードルが高いなぁと思わされる。

よっぽど稼ぎが好調でふところの広い人でないかぎり、ふつうは、

「は?ふざけんなや。大変なんはおまえんところだけやないで!」と言われてしまうだろう。

スマホアプリや、流行りの動画サイトでも月額2000円はとっていない。設定していない。

●「介護報酬の引き上げ以外の方策として考えられるのが、『混合介護の導入』である」

「混合介護」とは介護保険適用下のサービスと保険適用外のサービスの同時併用を認める制度である、という。

現行制度下では、特定の項目を除いて各施設が独自にサービスの料金設定を行うことは許されていない。

この点について「許してくれ、エライ人!」という話である。

従来のサービス料に加えて、施設設定の料金を上乗せすることにより、介護職の賃金増に利用してはどうか、という考え方である。

なのでレベルアップ、ステップアップしていきたい、と思っている介護職員が、これを読んだならワクワクすることと思う。がんばったなら、がんばった分の適正な評価がほしい、というのが本音ではないか。

おわりに。

さて。本書5章では、その他、生産性の効率化という観点でIT導入家族介護への現金給付など、続々と著者の提案がつづく。それらが実現可能かどうかはハッキリ言って今の自分にはよく分からない。
が、これまで既存の方法のなかでやりくりすることしか考えておらず、ほとんど思考停止していたような自分からするとかなり刺激的であると感じた。

「あれがダメだ、これがダメだ」とそれらしい批判を並べるばかりの本もあるけれど、

本書は、問題や課題をザッと眺めた上で「こんなのはどうか、あんなのはどうだろうか?」と次々に対案を示してくれる。

なので、刺激を受けるし読み応えがある。

業界外の人が読んでも、もちろんおもしろいと思うが。

やはり介護職の人にこそ、手にとって読んでみてもらいたいと思った。

書ききれなかったが、冒頭で紹介したとおり、介護以外の社会保障関連分野についても言及されているので、「少しは知っておいたほうがいいだろうなぁ」と思う人には入門としてうってつけであると言える。

「えっ?それはなぜ?なんで?」と本質に迫った読書ができるだろう。

そして気になったキーワードやテーマで検索して、さらに関連の読書を行なっていければ、かなり充実した学びになると思う。

やっぱ読書は良いな~。

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