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~読むアロマ~『愛するということ』エーリッヒ・フロム

物語の世界観を香り(精油)で表現する「読むアロマ」。
「読むアロマ」は、思わず手に取ってしまう美しい装丁のように、イメージを香りでデザインしたもの。物語と、精油が持つ香りや働き、様々なエピソードをつなげて、オリジナルのアロマブレンドを作ります。

新旧、ジャンル問わず、好きな物語、気になる話をランダムにピックアップして、作った香りのご紹介です。



『愛するということ』エーリッヒ・フロム著/紀伊国屋書店


原題は『THE ART OF LOVING』
ARTは(専門の)技術、技、といった意味がおかれています。

「愛」というと、運命、理屈を超えたもの、相手や対象があり自分ひとりではままならないものというイメージがありました。

愛は技術だろうか。もし技術だとしたら、知力と努力が必要だ。

『愛するということ』10頁


現代人は「愛すること」よりも「愛されること」に価値をおいているがゆえに他者に自分をあけわたしてしまっている・・・

「愛する」と主語を取り戻す。そうすると決める。

そこからできること、見えるものについてフロムは語ります。


孤立の不安と香りと

すべての不安の源は孤立の経験であり、愛はそれを克服するもの。
恋愛や自己愛、そして神への愛、そこから生まれる一体感や高揚感が孤独を癒す、ゆえに愛は求められる。

孤独、高揚感、一体感。
なるほど、そうかと私には思い当たることがありました。
それは、「香り」です。

精油の材料となる芳香植物の歴史をひもとけば、宗教儀式や婚礼の場で媚薬として使われたお話がたくさん出てきます。

トランス状態や官能性、その奥深くには「孤独からの解放」という人間が一番欲するものがあり、香りはその場所へ誘うなくてはならないものだったのです。

静中成友(せいちゅうじょうゆう)
静けさの中に安らぎをもたらし孤独感を拭う

『香の十徳』


一休さんでおなじみの臨済宗の僧、一休宗純が日本に紹介したとされる「香の十徳」にも、香りが孤独に働くという一節が残っています。

孤独と愛することと香りと。
星と星をつないで星座が浮かびあがるような、ひとつの文脈が見えました。


能動的な力

愛は能動的な活動であり、受動的な感情ではない。

『愛するということ』41頁


能動的。本作のなかで幾度となく登場する重要ワード。

「愛される」のではなく、「愛する」ということからもうかがえるように、みずからが主体となって行動をおこす、例えば「与える」ことがこの技術の習得には不可欠。

与えることで大切なものは、物質世界ではなく自分のなかにあるという。
「自分の喜び」「興味」「ユーモア」そして「悲しみ」も。

与えることと受け取ること。その循環を思ったときに、1対1をこえたもっとおおきな、高い視点のビジョンが浮かびました。

Aさんにかけてもらった優しさをBさんに渡す。
Cさんから受け取った気遣いをDさんにかける。

モノもアイも「くれたぶんだけあげる」のが資本主義的原則という。
そのルールだと1対1のパワーバランスにふりまわされてただただ消耗するばかり。

循環や還元という見方をすれば、世界がひろがって呼吸が楽になりそうな、そんな気がしたのです。


今、ここに全力で集中する

集中するとは、いまここで、全身で、現在を生きることだ

『愛するということ』171頁


健やかさは、食事・運動・睡眠からという大原則があるように、「いま、ここ」にいることはあらゆることに働く処方箋のようです。

「今、ここ」にいるための集中力を養うには自分自身の変化に敏感になる。そのために「何が起きたのか?」と自問する習慣をみにつける。

わたしたちの心は複雑で分かりにくい。だからこそ、注意深く、意図をもって観察しなければいつまでも謎のまま。
謎のままだと、エネルギーの使い方、向け方があさっての方向になっちゃうわけで、ムダとか合理的などの言葉はここでこそ使いたい!

まとめてみると、愛することの技術を習得するには、

全力で目の前のことに集中し(人の話を聞く、洗濯物をたたむetc)
与える、観察する、自ら問う(能動的活動)


毎日のすべてが修練の場なのですね。

愛の本質は、何かのために「働く」こと、「何かを育てる」ことにある。

『愛するということ』48頁

好きな言葉のひとつ。
「働くこと」も「育てること」もなんて能動的!これを本気でやっていればなんか大丈夫そう!(笑)とは言えどっちも簡単なことではないけれど、まずは「目の前のことに集中する」を信じてみたいと思います。


孤独だから愛することができる

逆説的ではあるが、ひとりでいられる能力こそ、愛する能力の前提条件なのだ。

『愛するということ』167頁


孤独は人類にセットされたデフォルト。
それは不安で苦しいことだけれど、だからこそうれしいや楽しいもある。

なんてややこしい設定なんだろうと、思わずぼやきたくもなるけれど、どこか救われたような気持ちにもなりました。

すごい1冊に出会ってしまった。

何度となく読み返す未来の自分がもう見えています。


読むアロマ『愛するということ』ブレンド


・カルダモン
・クローブ
・ローレル
・エレミ
・フランキンセンス
・サンダルウッド


孤立の経験から不安が生まれる。実際、孤立こそがあらゆる不安の源である。

人間のもっとも強い欲求は、孤立を克服し、孤独の牢獄から抜け出したいという欲求である。

『愛するということ』22、23ページより


愛は孤独を癒すもの。
一体感や高揚感、“与える”という能動的なアクションを導くもの。

記憶と感情に深くはたらきかける香りで、それらをもたらすものをテーマにデザインしてみました。

カルダモンは世界最古のスパイスのひとつ。心身をあたため、生きるエネルギーを回復させる。

和名が丁子(チョウジ)のクローブ。チャレンジやアクションのキーワードを持つ火の星座の精油。刺激的で甘い個性的な香りは多幸感をもたらす。

ローレルは万能精油のひとつ。呼吸を深くし気づきを消化することをサポートしてくれる。和名は月桂樹。

エレミフランキンセンス、そしてサンダルウッドは神さま、大いなるものとつながる香り。古くから各地で宗教儀式に使われてきた歴史を持つ。
「天と地」「昼と夜」「男と女」「光と闇」あらゆる二極性をつなぎ内側に調和を作る。

その昔、キリスト教が日本に伝わったばかりのころ、神の愛は「大切」と訳されたとか。

この世界を創るあらゆるものを“大切“に思う心を忘れないように。

そんなブレンドになりました。

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