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★『雨、あめ』ピーター・スピアー
大人になって、利便性ばかり意識する生活に慣れ切った、 自分の感性の鈍麻を思い知るのです。
雨の季節になりました。
この時期が好き!…と断言される方は、そんなにおられないと思うのですが
この絵本を開くと、雨もよいもの、いえ、少なくとも子どもたちにとっては
楽しかったり、美しかったりする、日々の時間と思い出の大切な一部なのかもしれない、と感じられました。
この絵本は、雨の日の一日の子どもたちとその周りの様子を時系列で描いた絵本です。
絵本に言葉は一切なく、絵だけで表現されているのでお子さんと一緒に楽しむときは、通常のいわゆる「読み聞かせ」とは別の時間が流れることでしょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1670377447964-4ofw4wfn14.jpg)
お話は、絵本の扉をめくって見返しの部分から、すでに始まっています。
女の子と男の子の二人のきょうだいが家の庭で遊んでいる様子から始まります。ページの左隅に描かれた空は、なんだかもう雲行きがあやしくなっています。
次のページにすすむと、あ、もう雨が降ってきました。
まず猫が逃げ出し、続いて男の子も女の子も犬もお母さんが呼んでいる家の中にかけこみます。
あれ?二人は家の中でこのまま遊ぶのかと思ったら…
ここから子どもたちの、雨の日の大冒険が始まります。
雨の本、というと、日本の作家のものは、絵本の色調もお話全体のトーンも、ちょっと静かで暗くて淋しい感じのものが多いかもしれませんが、この絵本は、お話の内容も、色調もとびきり明るく、その内容も楽しいのです!
作者のピーター・スピアーはオランダ出身のイラストレーターで、『ノアのはこ船』で1972年に優れた絵本に与えられるコールデコット賞を受賞しています。
赤・青・黄の原色をカラフルに多用して描かれた明るい風景とその中を元気に動き回る子どもたちのウキウキした様子を見ると雨の日ってこんなに楽しいものだったっけ?…と大人になって、利便性ばかり意識する生活に慣れ切った自分の感性の鈍麻を思い知るのです。
雨の中ですごす子どもたちは、全部順調にいくことばかりではないようです。走っている車に水をかけられたり、水たまりで転んで尻もちをついたり、雨具はあるけれど、もうずぶぬれです^^
それでも…雨の中で子どもたちが五感をフルに働かせて体験すること──
見るもの、聞くもの、触るもの、こんな雨の日にしか出会うことのできない、自然の姿やモノの変化、音や空気の感触…きっと子どもたちには、すべてが新鮮で驚きに満ちた楽しい世界なのでしょうね。
そういう空気感が存分に伝わってくる作品です。
そして、雨脚が激しくなる中、ずぶぬれになったまま家に突入した子どもたちを待っていたのは、自分たちを見守ってくれるあたたかい家庭です。
雨が降って、ずぶぬれになって帰ってくることが分かっていても、子どもたちを外へ送り出す、懐の深いお母さんの姿に、我が身を比べて、そっと反省したものです。
絵本の最後の部分も素晴らしいと思います。
外から帰った子どもたちは、お風呂をすませ、もうひと遊び。
おやつを食べて、夕食もとって、さあ寝る時間。
外を眺めると、まだ雨がふっています。
やがて夜も更けて、そしてまた、朝を迎えます。
子どもたちが目覚めて窓の外を見ると──。
新しい、素晴らしい一日が待っているのです。
雨から始まった、たった一日を描いただけなのに、この世界の美しさと、子どもたちの時間のかけがえのなさをしみじみと実感させられる作品です。
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