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きれいに完食されたお皿のような清々しい物語

自宅仕事の割合が増え、かつ規則正しい生活を送るようになってから朝ドラを視聴することが増えた。
2019年の『なつぞら』あたりからだっただろうか。

面白い朝ドラに当たると毎日15分の視聴が楽しみで、日々の生活に張りが出てくるような気分になる。なるほど生活習慣に無理なく埋め込まれるようよく出来ている、と思う。

今期の『舞いあがれ!』は面白そうだ。
説得力のある骨太な人物造形と繊細な心理描写、演出、カメラワーク、あらゆる点で好感触。というか完成度が高くてびっくりしている。ちょうど2週目(10話分)が終わったところだが、良い掴みでこの先がとても気になる。

ストーリーはパイロットを目指す女性の物語で、現在は子供時代。
東大阪に住む主人公の舞が、母親と離れて慣れない土地・長崎の五島で祖母との二人暮らしを始める。
優しい性格で気弱だが、祖母に力強く励まされながら成長していく様子が微笑ましい。

今週の第7話の放送では、祖母の育てている枇杷の収穫とジャムづくりの手伝いをしていたところ、瓶詰めに失敗して少しこぼしてしまうシーンがあった。些細な失敗も気に病む舞に祖母は「よかよか」と励まし、こぼれたジャムの入った受け皿を交換する。

その日の夕飯は手伝いを頑張った舞への労いで、ハンバーグ。
別に豪勢な食卓が演出されるわけでもなく、二人の夕飯のシーンにさりげなく置かれているのだが、これがまた美味そうなこと。
(つられてその日の自宅の夕飯もハンバーグにしてしまった)
「料理が美味そうなドラマは当たり」というジンクスがあるとかないとか。

このハンバーグにかかっていたソースには、この時に舞がこぼしたジャムをおばあちゃんが隠し味に入れて使ったという裏設定があるそうで。

「こぼしたジャム」は作劇上は失敗を乗り越える舞の成長を描くための小道具なのだが、それがその場限りで使い捨てられることなくきっちりと回収されている芸の細かさに唸らされた。実に細やかだ。
島で自給自足の生活をしている祖母の生活感とも噛み合って、その説得力の厚みたるや。
無駄のないシナリオ作りには、まるできちんと完食されたきれいなお皿のような清々しさがあった。

無駄のないものは、美しい。
身の回りの草花などの自然物や動物の身体のつくり。世代交代と淘汰圧に耐え抜き環境に適応した造形の持つ合理性。
日々の厳しい鍛錬によって磨き上げられたスポーツ選手のパフォーマンスや職人の超絶技巧の作品。
物語には目に見える形こそないものの、そこに洗練された鮮やかな形が見出された時、似たような美しさを感じ取れる気がする。そんなことを思わせてくれた2週間だった。

無駄があることというのもまた豊かさのひとつではあるが、それは「過程」の話だ。
自分は絵を描く人間だが、作品はひとつの「結果」だ。
いかに無駄を削れるかが完成度を大きく左右する。
もっと端々までその意識を行き届かせようと、『舞いあがれ!』を見て背筋の伸びる思いになったのだった。精進したい。

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