「深窓の兵士(つむ・ココ)」
今回は通常の「歩兵・騎兵シリーズ」とは違ったオーダー作品の紹介です。
昨年9月の個展に「深窓の兵士」という4点の小作品を出しました。額縁に入れると窓のようになる小さな連作です。背景まで多くの物が描かれている割と珍しいタイプ。(シルバニア好きの影響が顕著に)
タイトルは「深窓の令嬢」をもじったものですが、家の中の奥深い部屋にいる様子を覗き見るような作品です。贅沢な暮らしをしていたり、なんとなく暇を持て余していたりといった、ペットの変わらない毎日を表現しています。今回はこのシリーズでのオーダーをいただきました。
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左がつむちゃん、右がココちゃん。フェレットがモデルです。個展で出した4点よりも壁紙や調度品を豪華にしました。
飼い主であるヒトよりもしばしば良い暮らしをしている「ペット」の可笑しさや微笑ましさ、安全さと不自由さ、うらやましさと不憫さ。最初の4点からぼんやりと浮かんでいたテーマが、室内がより華やかになった今作で明確に輪郭づけられてきたかなという感触があります。
絵が小さく、窓枠があるので、物の配置などには頭を抱えました。カーテンのバランス(上部の飾り)が窓の外から見て手前に来ているのはおかしいのですが、そこは見栄え重視ということで!
制作にあたって、ご注文者でもあるフェレット歴の長い飼い主さんからはこの2匹についての詳しいエピソードをたくさんいただきました。絵の細部と共に、構成の由来となったお話をかいつまんで紹介します。
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左のつむちゃん(メス)はマイペースなツンデレ姫ですが、意外に暴力的な一面があり、重い陶器のエサ皿をひっくり返してフードを巻き散らかすなどの悪戯(?)をするということがあったのだそうです。食べ物にはうるさく、同じフードでもロットが違うと食べないこともあったのだとか。「ペット用のいちごゼリーは試したがお気に召さなかった」というエピソードがあったため、絵の中では杯をメイスでひっくり返して周辺にゼリーを散乱させています。
ついでに壁に穴も開けています!攻撃力高め設定(?)
首の部分に「つむ」の刻印。水の入ったグラスはペット用の飲み口に。
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右のココちゃん(オス)はイケメン、賢い、好奇心旺盛。戸棚の隙間に爪を差し込んで引き戸を開けることが出来る頭脳派。飼い主さんは悪戯を防止するため、ガムテープで塞ぐなど攻防を繰り広げていたそうです!絵の中でも二刀流の剣を器用に差し込んでいる様子を描きました。しかし、テープで封印。
時計は特に考えずに描き入れたのですが、学校に行く娘さんを平日毎朝起こしに行くような時間感覚があるフェレットだったというお話を、お届けした後にいただきました。嬉しい偶然。
賢さ故なのか、とにかく悪戯の絶えないフェレットだったということです。破れた紙やティッシュをイメージしてカーテンを描きました。首元に「ココ」の刻印。
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ちなみに額縁がつくとこういう感じになります。
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文章にしてみると、今回は物語性が強い作品になったなぁと思います。作品世界には感傷的、情緒的な物語をなるべく付与しないように心掛けているのですが、こういう淡泊な制作姿勢と飼い主さんの熱量あるエピソードとが1枚の絵の中で両立するのは、ひとえに私の作風を尊重していただけているおかげだと思います。これはこれまでのオーダー作品全てに言えます。本当にありがたいことです。
作品を見た人がそこに自分なりのストーリーを嵌め込んでくれること、それを託してくれること、自分の作品が誰かの物語の器になれること。最近たまに思うことは、画家の仕事は昔イメージしていたほど一方通行なものではないのかもしれないということです。
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