常識のはざまを生きる

日々変化していく常識、いつの時代もちょうど「はざま」なのではないかと思う。

私が最近「はざま」を感じたのは家族における男女の役割の変化である。というのも父と母がケンカをして熟年離婚しそうになったからだ。定年退職した父が家事をしないことで母のストレスが爆発したことが理由である。

父は亭主関白で仕事一筋。営業職であったこともあり、私が子どもの頃は毎晩の様に接待で家にいなかった。また、当時は完全週休二日制の会社はほとんどなかったようで、休みは少なく家族でお出かけ…なんてことも滅多になかった。母は最近まで専業主婦で、一時期はパートをしながら父の親の介護をし、反抗期の子供たちの教育もしつつ家事をこなしていた。このような役割分担は20年前においてはよくある家庭の一つであったと思う。

さて、ケンカの理由を掘り下げたいところではあるが、よくある家庭である我が家について、娘の私がどう思っているかを先に伝えたい。簡潔にいえば尊敬しかない。家庭を持った今だからわかる、父も母も本当にすごいし、尊敬する人は両親であると心の底から言える。私は父のように身を粉にして、家族を養うために好きでもない仕事に食らいついていけないし、昇進し続ける自信もない。子供の頃、父から仕事の話や、ましてや愚痴なんて全く聞いてこなかったので、当時は父の苦労なんてちっともわからなかった。また、母のように自分の時間も休みもない中、家族のために家事や育児、介護を文句も言わず続ける自信もない。子育てという1点をピックアップしたとしても、父の連れ子である兄を含め盛大な反抗期を迎えた3人の子供をまともな大人に育て上げたことは大変素晴らしい。…と、父と母の素晴らしい点を具体的に書き出すときりがないので割愛するが、とにかく子から見れば素晴らしい親である。しかし良い夫婦関係は築けていないようだった。

ここで話を戻し、父と母のケンカの理由について掘り下げたい。元々仲の良い夫婦ではない二人ではあったが、父が定年退職をしたところで一気に険悪になっていた。母から聞いていた話を要約すると、父より定年退職の数年前から仕事をする様に言われたため、予定どおり退職直前から家計の足しになればと仕事を始めたが、父が家事をしないので母の負担だけが増えている、ということであった。一見聞くと父が悪いように感じるが、ここでキーワードになるのは「何のための仕事なのか」と「亭主関白と専業主婦」だ。

父に話を聞いたら、家事は全くしていないということでもないらしく、できることはしており、現役時代の様な家事を母に求めてもいないという認識であった。家事についてはお互いの常識のすり合わせと求めている内容、求められている内容の確認が必要であった。また、金銭的な面でも今後の試算をした結果、預金も十分にあるし新たなビジネスの準備をしており、収入の目星もついているということであった。母は「お金のために」仕事をする必要がなく、母に仕事を勧めた理由は一回りも年が下の母を心配してのことだった。「預金もあるし、これからの収入の目星はついている、だけど自分が先に逝く可能性が高い。何が起こるかわからない世の中だから、急に働かないといけなくなった時に苦労するよりかは今から少しでも仕事をしていた方が金銭的にも体力的にも母のためになるから勧めており、母の給料を家計に入れる必要はないと思っている」と話していた。金銭面では母は毎月の支出に対する短期的な試算をしていたが、父は10年以上先を見据えた長期的な試算をしていた様であり、その点もさらに齟齬が生まれていた様であった。

また、「亭主関白と専業主婦」についてもキーワードとして挙げたが、祖父母の世代では間違いなく、男が外で仕事で女が家庭を守ることが当たり前とされてきた時代だ。ただ親の世代はどうだろう。「男が仕事 女が家庭」が当たり前の親から育てられた子供たちが大人になって家庭を持つ頃には当たり前がそのまま通用したのだろうか。

ひとつ言えるのは、祖父母の世代と大きく変わり、今は性差なく仕事と家庭のことの両方を協力していく必要あると同時に金銭面以外での仕事の選択ができることが当たり前の時代になっていると思う。つまり、私も両親も「はざま」の世代だったのではないかと思う。今回のトラブルにおいて、私は父と母それぞれの気持ちを理解できるが、彼らの世代ほどのプレッシャーは知らずに過ごすこととなる。そうして、私たちが育てる子供たちが大人になった時にどのように感じるのだろうか。


その後、両親がどうなったかと言うと、今回のケースに関しては思い違いがあったという相互理解をしたようであった。しかし、今までの夫婦関係の中でこじれたあれこれはまだたくさん残っている上に、感情の部分が大きいため話し合いを行ったとしても、解決するかも、関係がどうなるかもわからない。2人のこれからの生き方は2人で決めていけば良いと思うが、子としては夫婦仲良く何とかやっていって欲しいと思っている。

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