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いなくなった人は最初からいなかったことにする世界2(ツー)

↑だいぶ前にこんなnoteを書いた。
今回はこのnoteの続き?というか改めて感じたことを書いていく。

わたしの住んでいる施設では、子どもの入れ替わりが激しく無断外泊や自立で毎月のように人が入ったり出たりしている。
で、今回いなくなったのは職員だった。
以下、その職員をAさんとしよう。(わたしの施設では職員のことを先生とは呼ばず名前で呼ぶ)

わたしはAさんのことが職員の中で一番好きだった。
他の子たちはAさんのことを怒ってばかりで怖いと嫌っていたが、わたしは好きだった。
確かにAさんはすぐ怒るし、鋭いところはあったけれど、優しい職員が多い中Aさんは敢えて子どもたちに厳しく接しているのだとわたしは感じていた。
そんなわたしの思いがAさんに伝わっていたのか、Aさんはわたしの事を気に入っていたと思う。
学校とか施設とか教育に関わる人間が特定の子をお気に入りにするの、結構相手にわかるんですよ。

話が少し脱線するが、施設でわたしは職員にも他の子にもほとんど自分の事を話さなかった。
秘密ってのはそれだけでいつバレてもおかしくないのに、人に話したらそれに加えて他人にバラされるリスクまで追加されてしまうからだ。
わたしは今までAさんのことは好きだったが、所詮職員と児童の関係だと割り切って自分のことを何も語らなかった。

わたしが無断外泊をして帰ってきた時、Aさんはすごく怒っていた。
呆れたとか、信じて損したとか、とにかく親が子供に言ってはいけない言葉リストに入っていそうな言葉をたくさん言われたと思う。
100%わたしが悪いので仕方ないですが…
Aさんとわたしの関係性は明らかに壊れたし、Aさんは多分わたしを"お気に入りの子"にはしなくなった。

それからの数週間、わたしはAさんと話す機会があれば自分のことを徹底的に話した。
親や児相にも話さなかった過去のこと、文章を書くのが好きで将来は物書きを目指していることなど、たくさん自分の話をした。
Aさんは何十分もわたしの話を聞いてくれた。
大人のことは信用していなかったけど、話してみると案外伝わるもんだな、そんな手応えを感じているわたしがいた。
また話そうね、Aさんはそう言ってくれた。
壊れた関係性を修復したい。わたしは新たな希望を持った。
わたしは次のAさんの出勤日を待った。

何日経ってもAさんは出勤してこなかった。

痺れを切らしたわたしは、他の施設職員にAさんのことを聞いた。
しばらく休みをもらうことになった、個人情報だから私達も詳しくは知らない。
そんな短い返事が返ってきた。
それを言った職員は、なんだかAさんの話題には触れたくないような空気を出してきた。

わたしは別の職員にも同じことを聞いた。
本当に何も知らないのか、知っていても児童には教えないようにしているのか、答えは同じだった。
子どもたちはみんなAさんのことを嫌っているので、Aさんが"いなくなった"ことに対して何も話題にしないし、するとしてもポジティブな方向だった。

Aさんが急に消えた理由はわからない。
最後に会話した時Aさんはそんな素振りも見せなかったから、本人も予測できなかったこと…病気か事故か?悪い予感が脳裏をよぎってしまう。

退所していなくなった人の"生きた証"が消えてしまうのは知っている。
痛いほど知っている。
だけど職員のAさんの存在まで消されてしまうのは、なんというか…。

やっと身近に信頼できる大人ができたと思ったのに、いや、信頼できる大人はすぐ近くにずっといたのに。
わたしはまた、大切なものに、全部遅くなってから気づくんだ。

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