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『ラークシャサの家系』第22話

◇「これって失恋?」

 季節的に、日が傾き始めると少し肌寒い。この世界をまるで赤の薄いシートで包んだかのように、視界が赤く染まる。
 逢魔が時、オレの五感はジャミングを受けたような煩わしさ。

そして不思議なほど静か・・・


ガチャ、バーーン”
 もう、七瀬さん、そんなに強く閉めなくても・・・

「ふう、このあたりってなんか良い感じですね。お店もいっぱいあるし、駅まで近いし、歩道も広々としてる。なによりも街が綺麗で静か。キダさん、私と一緒に、二人で住みませんか?」
「ゴホッゴホッ。おじさんをからかってないで、ほらっ早く聞き込みいくよ。明子ちゃん」

”ガチャ、バン・・・”

「キダさん、明子ちゃん。斉藤和也の部屋には、上野英も呼んでありますから、さっさと終わらせて、今夜は上野村へ乗り込みますよ。」
「上野村?今から?七瀬参事官、真面目に言ってますか?」
「真面目です。キダさん。」

”ピンポ~ン!ピンポ~ン!”
”ピンポ~ン!ピンポ~ン!”

「はい、斉藤です。」
「あっ七瀬です。先ほど電話した件で。上野さんも来られていますか?」
「あぁ大丈夫です。それとこの前、復讐サイトのことちゃんと言わなくて・・・」
「そんなことはどうでもいいので、早く開けてください。どんなにあなたたちがうまく隠しても、私たちが調べれば全てわかりますので。」
「はぁ・・・あっ、今、開けます。」

”ガチャ、ドン!”
「どうぞ。あれ? この人は?」
「あぁ、詳しくは言えないけど、とある大宮のJK。職場体験で埼玉県警にて実習中。ところで、オレのことは覚えているよな? 斉藤さん。」
「ま、まぁ・・・」
「なら良い。じゃ七瀬巡査、お願いします。」
「はい。それでは、本日は、ご協力いただき誠にありがとうございます!で、いきなりで申し訳ないんだけど、この人、知ってる顔?」
『あっ!』
 二人が同時に反応した。

「先輩、こいつ。山崎正と一緒にいた、あのいけ好かないヤツ。」
「だな。オレたちからあひるっ子トレーナーを奪った・・・」
 ほぼ、ここでの目的は達成。山崎正と上野村広報課の山野がつながった。

「ご存じのようですね。では、この人の名前は?」
「知りません。」
「上野さんは?」
「ぼくもちょっと。以前、山崎がニックネームみたいな名前で呼んでいたような。なんだったかな。すみません。ちょっと思い出せません。」
「本当に?」
『は、はい!』

 七瀬は、県警の刑事と言っても、だれも疑わないだろう。それぐらい刑事らしいのだ。そう思うと、刑事役をする時は、着てくる服もそれっぽいな。
 今日は、仕立ての良さそうな細身のダークスーツに、薄手のベージュ色のコートを羽織っている。バックは赤。ん?昔、ドラマで見た気がするな。

「この人と山崎正は、どんな関係かわかりますか?」
「わかりません。」
「上野さんは?」
「ぼくもそこまでは。ただ、気が付いたら山崎と一緒に居ました。なんとなくですけど、ほら、ぼくもそんなにコアなファンじゃないからわかるんですけど、この人、あひる坂のこと、そんなに好きではないような気がします。ぼくみたいに付き合いなのか、何なのかわかりませんけど、何か他に目的があるような、そんな感じでした。」
「そうですか。また他に何か思い出したら、こちらへ連絡してください。」
「えっと、こ、これ前にも思ったんですけど、この番号ってお姉さんにつながるんですか?」
「そんなわけないでしょ。こっちのオジサンの携帯。それでは失礼します。」
 えっ?オレの携帯、壊れて跡形もないけど。いいのかな?

”ガチャ、ドン”
 さて、とりあえず山崎正と山野はつながった。これから上野村まで走って、山野から言い訳を聞くことにしよう。

”ガチャ、バン・・・バン・・・”

「それでは、上野村へお願いします。キダさん」
「ヘイ!アーク。群馬県多野郡上野村役場までお願い!」

”検索します・・・”
”有料道路なしで3時間15分。有料道路ありで2時間16分です”
”有料道路なしでよろしいでしょうか?”

「どうする?」
「・・・えっと・・・有料道路で。」
「えっ?」
「だって、さすがに1時間の差は。今から行くとなると、19時とか20時ですよね。少しでも早いほうが良いと思って。」
「了解。じゃ、アーク、有料道路ありで!」

”承知いたしました それでは案内を開始します”
「へーい! じゃ、いつものようによろしく!」
”かしこまりました”
「アーク、なんかいつもと違って機械っぽいけど。」
”先ほどのお三方のやり取りをお聞きして、私はAIっぽくしていたほうが良いと思われましたので”
「えっ、今まで通りでいいよ。ね? 七瀬参事官、明子ちゃん。」
「私は、今まで通りで良いと思うけど。明子ちゃんは?」
「私も同じです。」
”お気遣いありがとうございます。たた失恋の痛手を癒すためには、少々の時間と距離感が必要でございます。お察しください”

『えっ?!』
 3人で顔を見合わせた。

”ボボボボボ・・・ボボボボボ・・・”
 バモスのB16Aはいつも通りの音を響かせていた。


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◇第23話へつづく

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