『ラークシャサの家系』第23話
◇「明子とアキコ?」
浦和所沢バイパスの国道463号を西へ向かい、所沢ICから関越自動車道に乗って北上する。途中、七瀬と井村明子が、お腹が減ったと煩いので、高坂SAに寄って、軽めの食事をすることにした。
「えぇ~何ですか?これ?ウルトラマン?キダさん、男の子なら知ってるでしょ?」
高坂SAには上り下りともに、巨大なウルトラマンのパネルがある。
「七瀬参事官、オレはオジサンですので、ここにある新しいウルトラマンは知りません。」
もちろん、ウルトラマンは知っている。だが、それは30年以上前のウルトラマンで、今、オレの前に立っている新しめのウルトラマンは知らない。オレの知っているウルトラマンは、基本、銀色と赤色で構成されていたが、このウルトラマンは青色とか黄色が混じっている。ところどころ、セブンっぽい造形や、レオっぽい造形があって、ウルトラ兄弟の系譜は感じる。
「そうなんですか。男の子は誰でも、ウルトラマンに詳しいかと思っていましたけど、そうではないんですね。明子ちゃんなんかは興味ないでしょ?明子ちゃん?」
井村明子の様子がおかしい。先ほどから、ぼおっとしていて、心ここにあらずと言った感じだ。
「明子ちゃん、どうかしたのか? 鬼が近くにいるのか?!」
井村明子が語り始めた。
「七瀬さん、キダさん。これはウルトラマンゼロです・・・ほとんどの人はウルトラマンの声をシュワッチと言うのですが、実は、ウルトラマンそれぞれで違ってまして、このゼロは”デーヤッ!”って叫ぶんですよ。」
「えっ?」
この子は何を言い出したんだ? オレも七瀬も、お互い顔を見合わせた。井村明子は、そのまま続けた。
「ゼロは、なんとウルトラセブンの実の子なんです。その生い立ちから若き最強戦士と呼ばれているのですけどね。ほら、見た目は、なんだかセブンに似てませんか? でも、体色は上半身が青で下半身が赤という、昔のウルトラ戦士には見られない色使いなんです。この辺りは今風ですよね。それと、頭部には父譲りのアイスラッガーと同型の武器、ゼロスラッガーと言いますが、これが2本装着されているところなんて良いですよね。それと彼の師匠がレオっていうのも感動ものです。レオの師匠はセブン。その息子ゼロの師匠がレオなんて、なにか宇宙の壮大な巡りあわせを感じてしまう・・・ゼロはレオから教わった宇宙拳法を駆使して戦うんです。戦闘力はかなり高くて、並の怪獣ならたくさんいても、1人で難なく倒してしまうほど強いんですよ。」
「明子ちゃん、もういい?」
「茂木兄と気が合いそうだな・・・」
「あっ、つい。すみません。あぁーまたやっちゃった・・・私、筋肉フェッチって言ったじゃないですか?その理由は格闘マニアにあって、さらにその根底にあるのがウルトラマンなんです。物心がついた時から、なぜか家には、ウルトラマン関係のソフビや超合金がいっぱいあって、しかも初代から全部そろっているんですよ。そんな環境でしたので・・・ウルトラマンの話になると何かスイッチが入ったみたいになって・・・で、その流れで、戦士とか筋肉とかが好きになっちゃって・・・」
食事を終えたオレたちは、また関越自動車を北上した。藤岡JCTで上信越自動車道に乗り換えたた後、下仁田ICで下道に降りた。
下仁田から上野村までの道中、七瀬は山野に電話をし、待ち合わせ場所や、用件の説明をしていた。結局オレたちは3時間ほどかけて、待ち合わせ場所の温泉宿「ヴィラ まほーば」敷地内の河原に着いた。
時間はすでに20時を過ぎていた。昼間は、家族連れのバーベキューや、釣りで賑わっている河原だが、深い闇と不気味な静けさに覆われていた。時折、白々とした月明かりによって、闇の中から何かが照らし出されているようだった。
「星空が綺麗ですね。次は、お休みの日に3人で来ましょうか? 釣りとかバーベキューとか、楽しそうですね。どうかな? キダさん、明子ちゃん。」
「あぁ・・・来られたらね。ところで明子ちゃん、奴らはどんな感じ?」
「はい。おおよそ・・・ここから2キロほど先、山の中だと思うんですけど、さっきからじっとしてて動きがありません。」
「今のところ攻撃する意思はなしか・・・しかし山野の奴、呼び出しておいて遅いな。」
しばらくして白いバンが現れた。
”ガチャ・・・”
「どうも山野です。遅くなって申し訳ございません。残業が、なかなか片付かなくて。まぁ皆さんも仕事熱心ですねぇ。七瀬さんから、ご用件は粗方お聞きしましたが・・・えっと、山崎正さんの件ですね。」
「山野さん、山崎正のアパート近くで、あなたが彼の部屋にいたとの証言が得られました。それと山崎正が、あひる坂のトレーナーを盗った際、あなたも一緒に居たとの証言もあります。あなたは山崎正さんを知っていた。それにも関わらず、山崎さんの遺体が見つかったときに、なぜ、”知らない”と証言したのですか?」
「あぁ、そのことね、七瀬さん。私と山崎はそんなに親しくないし、そんな顔を覚える程、彼とお会いしてませんから、いきなり写真を見せられてもねぇ。わかんないですよ。彼のアパートだって、突然、彼から呼び出されたから行っただけで、私は待ちぼうけですよ。待ちぼうけ。」
「待ちぼうけ。若いのによくそんな言葉を知っているな? じゃ、これは? オニベンシャーって知ってる?」
「いや?知りません。なんですか? キダさん、いきなり藪から棒に。」
「藪から棒ね。じゃ、この写真は、いったい誰が投稿したんだろね? うちの優秀なサイバー捜査官が調査したところ、この写真を投稿したIPアドレスは、この上野村に住む、えっと住所は。あれ?これってこの村の官舎の住所じゃないかな?」
「な、なんで、そんなことまでわかるんだよ。あのプロバイダーのIPは、そんな簡単に・・・」
「あれ? 山野さん、なんか様子が変だけど?大丈夫。えっと、あっ部屋の番号までわかるみたい。えぇ・・・116号室? これって誰の部屋ですかねぇ?上野村総務課の佐々木課長。」
”116号室ですか? ちょっとお待ちください”
”えっと、広報課の山野さんのお部屋ですね”
「えっ?なんで佐々木さんが? どういうことだキダ!」
「念のためね。第三者から証言されると真実味が増して良いじゃない。ね? 山野さん、そんなにうろたえると、佐々木さんが怪しんじゃうよ。」
”山野さん? 佐々木だけど、なんかあったのかい? 急に埼玉県警のき#$%&・・・・・ってさ・・・%&!・・・”
”プツ”
とりあえず、佐々木課長の役割はここまで。さて、山野からしっかりと言い訳を聞かないとな。
「さっ、どういうことかな? あなたの部屋から、なぜ、この写真が投稿されたのかな? 山野さん。」
「ここまでか・・・」
山野が独り言のように呟くと同時に、リモコンのようなもののボタンを押した。その直後。
「!?・・・」
井村明子が、突然慌てだした。
「七瀬さん、キダさん、来ます。このまえの2匹です!」
「どれくらいでご到着かな?明子ちゃん。」
「キダさん。もう来ています・・・」
「えっ?」
”ドン!”
”ビリビリビリビリ・・・・”
突然、打ち上げ花火が地上で爆発したかような衝撃とともに、激しい土煙が舞い上がった。明らかに前回を上回る圧力。これが奴らの本気なのか?
「おぉ、いいタイミングだ。ご苦労、ご苦労。こいつら、ヤっちゃってくれ。村で悪いことばかりして困ってるんだよ。」
嬉しそうに、山野がアチュートたちに語り掛ける。こいつがアチュートののボスなのか? 土煙がおさまっていくと、武器の垂直尾翼を持った2匹のアチュートの姿が、月明かりに照らし出される。
ん?2匹?じゃない。もう1匹いる。なんだ?
「七瀬!明子ちゃん!2匹じゃない!3匹だ!」
「そんなはずは!私には2匹しか感じない。」
「えっ? キダさん、明子ちゃん、どういうこと?」
2匹のアチュートだけでなく、その間に和装の女性らしき生き物がいる。
「兄様・・・この人たちは悪い人?」
「あぁ、この上野村にとって悪い奴らだ。小間切れの保存食にしてもいいし、奴らの晩御飯がまだなら、ここで食べさせてしまってももいい。アキコの好きにしなさい。」
「はい、兄様・・・」
ん?兄様?この女っ?えっ?アキコ? ひょっとして?
なんか嫌な予感がするけど、急な展開に頭が付いていかない。
そんなことよりも、こいつらに勝てる気がしない。
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