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世界の一流は「雑談」で何を話しているのか

ピョートル・フェリクス・グジバチ 著
クロスメディア・パブリッシング
240p
1,738円(税込)

目次
はじめに 日本人は「雑談」を世間話や無駄話と考えている
1.「世界」の雑談と「日本」の雑談
2.強いチームをつくる「社内雑談力」の極意
3.武器としてのビジネスの雑談
4.こんな雑談は危ない! 6つのNGポイント
おわりに リモートワークの増加が雑談の重要性を浮き彫りにした

イントロダクション

グローバリゼーションやダイバーシティ、異業種連携などの広がりにより、これまでとは異なる文化や価値観を持つ顧客や取引相手とビジネスを行うことが増えてきた。
未知の相手とはまず「雑談」から入り、空気を作っていくのが一番だろう。ビジネスを成功させるには、どんな雑談をするべきなのか。

本書では、雑談を社内や社外の人間関係の構築に活かし、仕事で成果を出すための考え方や実践法を、著者のグーグルなどでの経験を踏まえて解説。
日本では雑談というと、天気や気温、季節の風物詩などから入り、とりとめのない話で「場をつなぐ」ものといった認識を持つ人がほとんどだろう。しかし、欧米のビジネスパーソンは、自己を開示した上で、相手を知り、ビジネスをやりやすくするための有益なツールとして雑談を使うケースが多いという。

著者は連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。プロノイア・グループ株式会社 代表取締役、株式会社TimeLeap取締役、株式会社GA Technologies社外取締役。モルガン・スタンレーを経て、グーグルで人材開発・組織改革・リーダーシップマネジメントに従事した。ベストセラー『ニューエリート グーグル流・新しい価値を生み出し世界を変える人たち』(大和書房)など著書多数。

世界の一流ビジネスパーソンの雑談は「ダイアログ」

 日本のビジネスマンは雑談を本題に入る前の「潤滑油」と考え、その場を和ませたり、無駄な緊張感を取り除いて、相手との距離感を縮めることを期待しています。お互いの関係性を深めるのは大事なことですが、僕は「それだけでは、あまりにももったいない」と考えています。なぜならば、そこが「ビジネスの場」であるからです。

 世界のビジネスシーンで、一流のビジネスマンが交わしているのは、日本的な雑談ではなく、「dialogue」に近いものだと思います。ダイアログとは、「対話」という意味ですが、単なる情報のやりとりだけでなく、話す側と聞く側がお互いに理解を深めながら、行動や意識を変化させるような創造的なコミュニケーション……を目指した会話です。

 彼らは明確な意図を持って目の前の相手と向き合い、「雑談」を武器としてフル活用することで、仕事のパフォーマンスを上げ、成果を出すことを強く意識しています。世界基準のビジネスの最前線では、「明確な意図を持ち、そこに向かって深みのある会話ができる人」こそが「雑談の上手い人」とされています。

雑談によって互いに信頼、信用、尊敬できる関係性を築く

 英語で、「How are you?」(最近、どうですか?)と聞かれたら「I'm great, thank you」と答えるなど、一部にお決まりのパターンがありますが、これはヨーロッパの国々では考えられないことです。

 僕の母国ポーランドのビジネスマンに、「How are you?」と聞けば、定形のパターンではなく、本質的な答えが返ってきます。「最近は最悪です。ちょっと仕事が忙しすぎます。ウチのボスがバカなんです」とか、「最近は調子いいですよ。この間、出世しました」など、自己開示をしながら中身のある雑談を始めます。

 自己開示とは、プライベートな情報を含めて、自分の「思い」や「考え方」などを相手に素直に伝えることです。自己開示をすると、相手に「自分がどんな人物なのか?」を知ってもらえますから、警戒心を解きやすくなり、お互いの心理的な距離を縮めることができます。自然と相手も自己開示しやすい雰囲気ができるため、一歩踏み込んだ関係性を生み出すことにつながります。

 現在は、日本でも「ダイバーシティー&インクルージョン」(多様な人々がお互いの個性を認め、一体感を持っている状態)の考え方が強くなっているのが現状です。多種多様な価値観を持つ人たちと良好な人間関係を構築し、お互いに信頼感を深めていくためには、雑談を通して自己開示していくことが大事だと思います。

 世界の第一線で活躍するビジネスマンが雑談を通して「手に入れたい」と考えているのは、次の3つのことです。
(1)お互いに「信頼」できる関係を築く
(2)お互いが「信用」できることを確認する
(3)お互いを「尊敬」できる関係を作る

 雑談を通して、「信頼」と「信用」、「尊敬」のある関係を築いて、心理学でいう「ラポール」を作ることを目指しています。ラポールとは、お互いの心が通じ合い、穏やかな気持ちで、リラックスして相手の言葉を受け入れられる関係性を指します。天気の話や思いつきの世間話でラポールを作るのは、不可能に近い作業です。

 商談などのビジネスの場で、信頼、信用、尊敬のある関係を築いて、ラポールを作る……という意図を実現するためには、目の前の相手に対して、興味や好奇心を持って向き合うことが大切です。アメリカの心理学者カール・ロジャースが提唱した「無条件の肯定的関心」と言い換えてもいいかもしれません。

 無条件の肯定的関心とは、相手の話を良し悪しや好き嫌いで判断せず、「なぜそのように考えているのか?」を肯定的に知ろうとすることです。予断や偏見、思い込みを捨て、あるがままに相手の話に耳を傾ければ、相手は安心して話をすることができますから、会話のキャッチボールが成り立ちます。

 ラポールを作るための「3原則」は次のようになります。
(1)相手が「何を大切にしているか?」を知る
(2)相手が「何を正しいと思っているか?」を知る
(3)相手が「何を求めているか?」を知る

 この3原則を知るための方法として、僕は「7つの質問」を用意しています。
質問(1)あなたは仕事を通じて何を得たいですか?
質問(2)それはなぜ必要ですか?
質問(3)何をもっていい仕事をしたと言えますか?
質問(4)なぜ今の仕事を選んだのですか?
質問(5)去年と今年の仕事はどのようにつながっていますか?
質問(6)あなたの一番の強みは何ですか?
質問(7)あなたは今どんなサポートが必要ですか?

 ビジネスの相手に対して、「あなたは仕事を通じて何を得たいですか?」などとストレートに聞けば、怪訝な顔をされることは確実ですから、表現を工夫しながら、さり気なく聞き出すことが大切です。質問(1)と(2)は相手の「価値観」や「信念」、質問(3)と(4)は「仕事の基準」や「モチベーション」、質問(5)は「自分の成長」、質問(6)と(7)は「仕事の進め方」や「協力体制」を知ることができます。

 大切なのは、「empathy」(エンパシー)を持って会話をすることです。エンパシーは「共感」と訳されていますが、厳密には、自分と異なる考え方や価値観を持つ相手に対して、「相手が何を考えているのか?」とか、「どう感じているのか?」を想像する能力を指します。

知らない分野の人との話題は「サイクル→トレンド→パターン」で

 欧米の一流のビジネスマンは、しっかりと事前準備をして雑談に臨んでいます。IRレポートなどを読み込んで相手先の会社の経営状態や業績の実績、今後の見通しを知っておくことは当然ですが、SNSで近況を検索したり、同僚や友人、知人を通じて、「相手はどんな人なのか?」という情報を徹底的に調べた上で対峙しています。事前に「武器」を準備して、雑談のストーリーを描いているのです。

 ビジネスの場で雑談に使えるのは、5分とか10分程度の短い時間しかありません。限られた時間でお互いの共通点を見つけ出すためには、「どこが同じで、どこが違うのか?」という視点を持って、そこに意識を集中することが大切です。大事なのは、相手に「興味」や「好奇心」を持って接するという姿勢の問題です。

 ビジネスで自分の知らない分野の人と雑談をする時には、「どんな話をすればいいのか?」と悩むことがあります。そんな場合は、相手の業界についての「サイクル→トレンド→パターン」を質問してみるのも有効です。その具体例として、ファッション業界のケースを紹介します。

 ファッションの世界は、常に最新のトレンドを生み出していますが、同じようなファッションが何年ごとに繰り返し流行する傾向があります。これがファッション業界の「サイクル」であり、そのサイクルの流れの中で、最も新しいものが「トレンド」です。

 「パターン」とは、その業界の顕著なビジネスモデルのことで、ファッション業界であれば、低価格の商品を自社で製造・販売して「製造小売業」というビジネスモデルを確立したユニクロなどが典型的な例となります。相手が自分の業界に精通していれば、「サイクル→トレンド→パターン」について的確な説明をしてくれますから、それに合わせて雑談を膨らませることができます。

 「最近は、どんな会社が最先端を走っているのですか?」。この質問によって、業界のトレンドに一歩踏み込むことができます。「1年を通して、最も忙しくなるのはいつですか?」。それを聞くことで、業界のサイクルを理解することができます。事前に可能な限り「サイクル→トレンド→パターン」を調べておけば、付け焼き刃ではない深い雑談ができるのです。


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