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言語が違えば、世界も違って見えるわけ

「言語が違えば、世界も違って見えるわけ(ガイ ドイッチャー 著)」

言語
1コミュニケーションを成立させるために合意した慣習の体系
2それぞれの心に取り込んできた知識の体系

私たちの思考が社会の文化的慣習に影響されていることを言語が提示する証拠を通じて示すことが本書の目的。

・言語が世界を様々な概念へ切り分けるやり方が自然のみではなく慣習に依存していた
・社会の言語慣習が言葉を超えて思考に影響すること(空間座標系とそれが定位に及ぼす影響、文法的ジェンダー、色の概念)

言語が思考に及ぼす影響の研究
まだ始まったばかり。「空間」「ジェンダー」「色彩」が実証された領域。
また母語にない言葉であっても決してその外国語を理解できないわけではない。

言語・文化・思想
・言語とは長い歴史の中で力強い個々人が石を積み上げてきた記念碑のようなもの(詩人ラルフ・ウォルドー・エマソン:1844年)
・英語の文法はフランス語とドイツ語の中間的性格をもつ
・火星人が地球を観察したら地上の人間は単一言語の諸方言を話していると思うだろう。(ノーム・チョムスキー)

文化とは
・ある社会における知的、芸術的業績の総体(クルトゥール)
・人間が自らの知識を増大させ精神的能力、特に判断と好みを発達させるための手段の総体(キュルテュール)
・知識、信仰、芸術、道徳、法律、慣習及び社会の成員としての人間が獲得するそのほかの能力、習慣を含む複合的総体(タイラー)

言語が文化的慣習か、人間本来の性質か
遺伝的要因ではなく、生まれた環境で成長することが影響。しかし、犬とバラを別々の概念として把握できることは本能的である。

どんな概念にどんなラベルを付与するかは各文化の自由に任せられるが、ラベルの奥にある概念は自然主導で形成される、と言われる

古代ギリシア人は色弱だったのか
文献には黒や白の表現が多く、色が少ない。青は最も少ない表現。青は人工的にも作るのが困難、青い野生の花も稀。聖書のヘブライ語にも青色は登場しない。近代ヨーロッパでは緑の語から派生した少数派と黒を意味する語から派生した多数派。青がまだ独立した色として認識されていなかった可能性。古代エジプト人は青と緑を厳密に分類していた。

緑と黄色、青と緑が同一視される現象は北米先住部族にも共通するものだった。同じ色の濃さが違うだけという見方もある。

文明の進んだ言語の方が複雑なのか
実際は誤解であり、原始的言語がシンプルということはなく他の言語と同じ程度に複雑という言語学者の見解。むしろ、社会が単純であれば多くの情報を単語内で表現する可能性が高い。
・ドイツの語順規則は英語よりもはるかに複雑である
・母語によって外国語の取得の難度が変わる。
ノルウェー人であれば、スウェーデン語やスペイン語がやさしい。英語が母語であれば、アラビア語や中国が難しいが、同じくスペイン語はやさしい。母語がタイ語であれば中国はやさしい。なので、難しい言語の判断の尺度は困難である。

サピアの言語相対論
言語が思考に影響しうるという仮説は多くの指摘を残している。
・言語どうしの違いとは音声と記号のみならず世界観の違いである。思考は特定の言語にもある程度依存する(フンボルト)

ウォーフはホピ語には時間の概念がないと主張したが、現地に行ったこともなく一人の情報提供者との対話のみが調査対象となっていた。他にも言語が要因という主張は、話し手の文化や環境など言語以外の要因ではないことを証明できていなかった。

地理座標と自己中心座標
・地理的座標に依存する言語はポリネシアからメキシコまで、ネパールからマダガスカルまで世界各地に存在する。「前に三歩」ではなく「山側へ三歩」「東へそって」など。
過去の話をするときも周囲の情報ごと記憶して話す。

言語における性別
・古代ギリシアは男性、女性、無生物の3ジェンダー
・アフリカのマリ(スピア語)では人間、大きなもの、小さなもの、集合体、液体の5ジェンダー
・オーストラリアのガンギテメリ語は15ジェンダー(人間の男女、犬、犬以外、植物、飲み物、槍の大きさと素材

ロシアでは水は彼女で、沸かしてティーバッグを入れると男性になる。ドイツではナイフが中性、スプーンが男性、フォークが女性。スペイン語はフォークが男性でスプーンが女性。

青と緑の色調
MRIの実験により、母語の色彩概念が色処理に介入することは確実となった。
すぐに思い浮かばないような色名よりも日常的に使われる色名がついた色の方が表示される視覚課題が言語回路が介入しやすい。