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旅行者行動の心理学
旅行者行動の心理学(佐々木 土師二 著)(関西大学出版部 2000年)
ツーリズムは人間行動であり複合科学的な側面
● ツーリズムの16の関連領域
1: 社会学(旅行の社会学)
2: 心理学(旅行動機)
3: 経済学(旅行の経済的意味)
4: 人類学(ホストとゲストの関係)
5: 政治学(国境のない世界)
6: 地理学
7: 生態学(自然環境)
8: 公園とレクリエーション
9: 都市・地域計画
10: マーケティング
11: ビジネス(旅行組織の管理)
12: 法律(旅行関連)
13: 運輸
14: ホテルレストラン管理(旅行のホスピタリティ)
15: 教育
16: 農業(地方旅行)
用語
・トラベラー(Traveler): 上位概念、一般旅行者
・ツーリスト(Tourist): 下位概念、観光旅行者
ツーリスト(観光旅行者)
比較的長距離の非反復的な周回旅行で経験される楽しみを期待しトラベル(旅行)をしている自由意志的な一時的トラベラー(旅行者)
ツーリズム
産業分野に特定し、ビジターを惹きつけ彼らの欲求や期待に応えるビジネス
観光
余暇の時間の中で日常生活圏を離れて行う様々な活動であり、触れ合い、学び、遊ぶということを目的とする
旅行者行動の心理学的側面
1.旅行者特性:ライフスタイル・経済特性・価値観・欲求
2.旅行モチベーション:一般的動機・社会的役割・旅行経験
3.旅行の意思決定過程:旅行の目的・情報収集と比較・目的地への知識、イメージ、認知
4.旅行の実行:目的地内での行動・往路復路での行動・ホストや地域住民との関係
5.旅行後の評価と関連行動:目的地への評価・全体的な満足度・事後のコミュニケーション
6.目的地、通過地への影響:社会的影響・経済的影響・生態環境的影響
7.旅行者行動の類型論:消費者セグメンテーション・旅行行動の分類・目的地の分類
8.旅行商品の特性:旅行商品の構成・コンセプト・サービス
旅行者モチベーションの分類
1:逃避動機付け(日常環境からの脱却)
2:リラックス(自己回復)
3:遊び(子供時代の回帰)
4:家族の絆強化
5:威光(社会的立場の誇示)
6:社会的相互作用(普段の環境で会えない人との機会)
7:性的機会(日常の制約を離れて性的活動を望む)
8:教育的機会(新しいものや未経験のことを知る)
9:自己充実(自分の中に新しいものを見出す自己発見)
10:願望充足(実現困難なことの疑似体験)
11:ショッピング(名産品、珍奇品などを入手する)
目的地の魅力的側面
1:建造物とその環境(古代文明から現代にいたる建造物)
2:文化的活動(伝統風習、祝祭など)
3:宗教
4:政治(政治過程の成立の仕方)
5:科学(最新技術)
6:自然(山、川、海など)
7:気候
8:風景(地形や植物、紅葉など)
9:野外生活(動物観察、釣りなど)
10:屋外レクリエーションとスポーツ(オリンピックなど)
11:娯楽(テーマパーク、映画、食べ物など)
12:健康と温泉
旅行モチベーション構造の分析
・因子分析による旅行ライフスタイルの6因子
1:文化的関心
2:快適性(リラックス)
3:親しみ(利便性、同じ言葉)
4:活動生
5:オピニオンリーダーシップ(自己計画)
6:知識探究
外国旅行の計画行動にはデモグラ要因(属性)よりもライフスタイル要因の方が有効であると結論づけている
・クラスター分析による分類
第1クラスター:家族旅行者(家族と一緒に過ごす)
第2クラスター:活動的休養者(精神的・知的に豊かになる)
第3クラスター:高齢者(歴史的風景を訪れる)
・新奇性(新しいことへの刺激)
旅行者の新奇性を知ることが目的地選択の予測に役立つ。新奇的環境に対する欲求は他の旅行動機と相互作用する。(他の動機と目的地がどの程度適合するかにも影響される)
・日常性からの変化(旅行による普段と異なる体験)
・逃避(単調な日常からの一時的気晴らし)
・スリル、冒険(興奮する体験、刺激的体験)
・驚き(予期しない感覚)
・退屈緩和(新しい刺激作用)
旅行者モチベーションの一般的枠組み(マスローの欲求階層)
1-1:生理的要素
外部指向:新奇的な状況への欲求
内部指向:食べる、飲む、リラックスなど
1-2:安全と安心
外部指向:他人の安全への気遣い
内部指向:自分の安全による行動
1-3:愛と所属
外部指向:他人と一緒にいたい、所属したいという欲求に影響する行動
内部指向:愛すること。人間関係を維持し強化する
1-4:自尊
外部指向:旅行の誘因力や権威に影響される行動
内部指向:技能の発達(例スキー)など内的に影響を受けた行動
1-5:自己実現
自分自身を成長させたいなどの欲求によって動機づけられた行動
上記は、Fodness, 1994の因子分析や多次元尺度構成法の結果によっても類似傾向が見られ証明された。
<本書による5段階構造>
1緊張解消(↑マスロー低次)
2娯楽追求
3関係強化
4知識増進
5自己拡大(↓マスロー高次)
旅行者モチベーションの2側面
1:発動要因:基礎的欲求としての個人的心理要因
2:誘因要因:具体的な目的地を選考する動機になる要因
(上記以外の手段や時期、期間、同行者などもあるが副次的)
旅行目的地の魅力要因
国際的な旅行行動の8項目
1:距離(物理的距離よりも移動時間×コスト)
2:国際関係(経済的、歴史的な結びつき)
3:居住地にない魅力(自然環境など)
4:コスト(相対的費用)
5:中継地での経験、機会
6:特殊なイベント
7:国民性(習慣や生活意識)
8:イメージ(目的地の印象や感情)
集約すると「実態的側面」と「イメージ(認知的側面)」の2つ
目的地属性
1気候
2宿泊施設
3スポーツ、レクリエーションの機会
4風景
5食べ物
6エンターテインメント
7地方の人々の生活のユニークさ
8歴史的遺産
9博物館・文化施設
10言語的障壁によるコミュニケーションの困難さ
11祝祭、特別イベント
12行きやすさ
13ショッピング
14旅行者に対する態度
15地方交通機関の利用しやすさ
16物価水準
目的地魅力の体系的把握
●表意的視点:自然的〜人間的(物質的存在として捉えるもの)
●構成的視点:個別的〜集合的(空間的条件や収容性)
●認知的視点:安全〜危険(旅行者の知覚やイメージ)
旅行者の意思決定メカニズム
目的地選択の2段階の中で初めは促進的態度が強く「満足の最適化」を求めているが、選択肢が狭くなり決定を求められる段階では「リスク回避」の姿勢が強くなる。(Crompton, 1992)
定常的行動場面(Behavior setting)
場所×時間×定常的行動パターンの3要素。
流れ(動線)はその場所・地域の空間的構造の特徴や歪みを明らかにでき。その魅力要素を物語り来訪者の関心などを推しはかる素材になりうる。
訪問地にはその旅行者によって行われる典型的な行動がある。「〇〇があるところ」という固定的イメージで見られることが多く、旅行者はそのイメージに惹かれて訪問することが多く重要なテーマとなる。
旅行目的地の選択が訪問地内の経験につながる場合もあれば、訪問地の空間認知を経て間接的につながる場合もある。
旅行経験の評価
旅行者行動における評価は、
・個別的印象か総括的印象か
・旅行の途中か終了後か
の組み合わせで考えられる。
本物性
現代人は自分が安住している非本物的な環境から遠ざかり、どこか別の時代、場所を求めて探索の旅に出る。バックリージョンだと思われるところが実は旅行者を招き寄せるためにセットアップされたフロントリージョンであるということもありえる。
フロントから始まりバックで終わる連続的な形も想定される。
本物性欲求が強い旅行者は、演出的なものに不満足を感じる。
本物性は伝統的な目的、伝統的な作り手、伝統的な形態の踏襲などを要素として、商品化の意図がないことが条件になってくる
本物の経験の特徴
・地元の人による
・個人的な親密さ
・現実世界で起きているまま
・普通では近づきにくい
本物ではない経験の特徴
・旅行者サービスを仕事をしている人による
・職務的サービスとして行き届いている配慮
・人為的に設計
・誰でも近づくことができる
満足の成立プロセス
旅行者の満足の成立は、旅行前の「期待」が訪問地内や過程での実際の「経験」としてどれだけ実現されたかということが評価にあわられる
旅行者行動の類型化
クラスター分析(インディアナ州立公園の来訪者)
1知識獲得型:広い範囲から情報を集め、家族中心の休暇を好む
2経費意識型:教育や歴史などに興味がなく、集団での旅行は好まない
3計画万全型:あちこち移動せずにリラックスすることを求める
クラスター分析(フロリダ公立案内センターの自動車旅行客)
1退職者、学歴が高い
2子供のいない世帯、学歴が最も高い。レストランで出費する
3子供がいる世帯、旅行の計画が短い
4子供がいる世帯で学歴が低い。娯楽や土産の出費が多い
5ティーンエイジャー
クラスター分析(米国、ドイツ、英国、日本の4000データ)
1冒険派:自信が強く新しい活動や異文化を好む。男性が多い。
2心配派:意思決定力に自信がなく、国内旅行が多い。女性高齢者
3夢想派:冒険よりもリラックスを好む、50歳以上の女性が多い
4節約派:所得は中位で教育レベルは低め。
5耽溺派:良いサービスには出費し所得が高い。
旅から旅行へ
旅行の動機は、未知のものを見ることであった。どこか他の場所へ行きたいという人間の欲求は楽観と好奇心の証拠である。想像力を刺激され驚きと喜びを発見した。元来、旅行は冒険であった。(Traveller)
その後、楽しみを求めるTouristが増え、旅行経験が変質した。
旅と旅行
旅は苦行であり、目的は別にある。旅行はそれ自体が目的で移動に関しての苦労や危険が取り除かれたもの。交通機関の発達や宿泊設備があって成立するのが旅行である
商品としての旅行
コアサービス:(航空会社の場合)出発から目的地までの飛行
周辺的サービス:機内食、チェックイン、スタッフ対応など
旅行商品は、単一ではなく出発してから移動、宿泊、お土産など複数
旅行商品の多面的属性
1アトラクション:自然資源、文化、娯楽など
2設備:宿泊、飲食の設備
3輸送:移動や所要時間
4ホスピタリティ:その地の住民や旅行スタッフの対応
エコツーリズム
旅行者が訪問する地域社会の本来の姿を重んじ、その生態系の保全に寄与するような啓発的な自然旅行の経験。
上記のエコツーリズムは、資源、旅行産業、地域社会、旅行者という4者の相互利益のバランスを表しており、単に旅行者(需要側)だけでなく供給側の視点が含まれている点が評価されている。
エコツーリズムの細分化として、
・自然に対する関心度(ハード(専門的)〜ソフト(一般))
・身体的努力の程度(ハード〜ソフト)
サービスの質の評価/ SERVQUAL尺度
1有形部分:物質的な施設、従業員の外観
2信頼性:約束されたサービスを正確に遂行する能力
3対応:顧客を支援しサービスを提供する意欲
4確実性:従業員の知識や親切
5共感性:事業体が顧客に提供する世話や気遣い
SERVQUAL尺度では、サービスの質を数値化するために、知覚スコアと期待スコアの差分をとる。
旅行商品のライフサイクル
商品というからには、旅行商品にも導入、成長、成熟、飽和、減衰を辿る
旅行行動の枠組みの一般化
1-1 基礎的な生活欲求 1-2 関連領域の限定的欲求
↓
特定の行動モチベーション
2-1 動機 2-2 対象誘致
↓
3 意思決定過程
4 実行過程
↓
5 行動的経験
↓
6 行動的経験の評価、満足